第2話 魔技師協会
練習場にて遠野レンの放った魔法。これが与えた影響は、一年生の教室だけでは無かった。
ちなみに他の上級生や職員は、聞き慣れた音と振動でまたアイツかと判断が出来るようになっていたりする。
「ん…?今の凄い音と振動は何でしょうか?」
「何か爆発音の様です。お嬢様を狙った賊の仕業かもしれません。確認して参りますので少々お待ちを」
場所は学園の理事長室。現在この部屋には理事長である柊リカーナの他に二名の客人がいた。
「あ、いや。多分賊じゃないと思います。一応確認させますが、大丈夫なので落ち着いてください」
理事長も例によって、この音と振動から、犯人をすぐさま特定していた。
「はあ…では今のは一体?」
「ちょっと確認しますので。……あー林田先生?今の音ってもしかして…ええ、ああそうですか。成る程、授業を……ふうん。わかりました。後で話がありますので、授業が終わったら理事長室へ…いや、あなたは次の授業はない筈です。いいから来なさい」
携帯を取り出したリカーナは、林田へ電話をかけ事実の確認を取る。遠野レンのいるクラスは確か、座学の授業中の筈。何か彼が魔法を暴走させてしまう事でも起こったのかと一応は心配もしたが、どうやら杞憂のようで一先ず安心である。
勝手に授業をサボらせた林田先生にはちょっとお仕置きしましょうか。最近ストレスたまっているし丁度良い。
「何やら揉めているようですが。やはり確認してきますかお嬢様」
「いえ。気になりますが、大丈夫と言うのですし、信じましょう」
「今、確認が取れました。どうやら生徒の放った魔法が制御できず暴発したようです。なので安心してください」
「……今、暴発と言いましたか。あの、むしろ安心出来ませんが…」
「いつもの事なのでお気になさらず。では話を戻しましょうか」
「ま、まあ理事長である貴女がそう言うのであれば良いですけど……おほんっ。では先程の依頼の件ですが」
彼女はまだ動揺を隠せないでいるが、気を取り直して話を進める。
「どうでしょうか。受けていただけますか?」
「そうですね…まだ不明瞭な点が多いため、実際に見てみないことには何とも言えません。なので依頼の物を見せて頂いてからでもよろしいですか?」
「ふむ。確かに話だけでは分かりにくいでしょうね。では実際に確認してみてください。場所は彼女に案内をさせますので」
リカーナが呼び鈴をならすと、間も無くして一人の女性が理事長室に入ってきた。
「失礼します。秘書の支倉桃子と申します」
「えっと、柊様は行かれないのですか?できたら、理事長である貴女の口から説明を頂ければと思うのですが」
「私としてもそうしたいのですが、これから林田と言う教員に制裁…もとい、話がありますので」
「そ、そうですか…(ねえベルク。今、制裁って聞こえた気がするんだけど気のせいかしら?)」
「(お嬢さま。私にも確かに聞こえました。林田という教員がどんな人かは存じ上げませんが、あの【翡翠の魔女】の制裁です。御愁傷様というしかありません。後、お嬢様、素が出ています)」
思わず小声で後ろに控えてる執事へ確認を取ってしまったが聞かれてないだろうか。
「ん、何か?」
「「いえいえ、何でも」」
もしかしたら聞かれていたかもしれない。これ以上余計なことを言ってしまう前に黙ることにした。
「では後を頼みますよ。桃子」
「では例の保管庫へ案内します。どうぞこちらへ」
「ええ。行きますよベルク。では桃子さん、よろしくお願いします」
部屋を出ていこうとする桃子へ、リカーナは『念話』を飛ばす。
『桃子。悪いんだけど、第4練習場を避けて保管庫へ行って頂戴。あんまりレンを見られるのも良くない気もするのよ』
『分かりました。少し遠回りですが、そうします』
『翡翠の魔女』とかつて恐れられた彼女にも、レンの使う魔法の正体が掴めてないのが正直な所だ。そもそも私達の使う魔法と同じに考えて良いものかとも思う。どの道、彼女等――【魔技師協会】に見られると面倒な事になりそうなので念のためだ。
秘書の桃子と客人二名は、部屋を後にした。一人になった部屋で柊リカーナは一人呟く。
「あれが【特級魔技師】エリアーナ・レクスと【一級魔技師】ベルク・ローガスですか。魔技師協会の彼女達であれば『アレ』が何なのか分かるでしょうか……まあ、取り敢えず今はお仕置きが先ですね」