騎士へのイッポ
遅れてすいません!
騎士団の男に連れられ、森の中へ移動した。
人気がないような場所まで来たけど、念のため、いつでも殺せるようにしよう。
「ここら辺でいいか」
騎士はもう人気がないことを確認して、ここで止まっているんだろう。
こっちもいつだって殺せるように準備してるんだ。襲いかかって来たら首を一裂きだ。
「突然だけど、君。騎士団に入るつもりはないか?」
構えていたことが馬鹿らしい。ただの勧誘じゃないか。
「私には遠くの音や映像を見えるようになるスキルがあってね。それで君の戦闘をみた。村長に襲われた時も女の子に指示を出しながら的確に相手を無力化していた。ゴブリン相手でも一瞬で屠っていたよね。どうやったのかはわからないけど」
「つまり、どういうこと?」
「わかりやすく言うと、君の力を我らペンドラゴン騎士団に貸して欲しい。ってことだ」
なるほど。別に目的もないし騎士団に入るのも悪くない。気に入らなければ全員殺してでも抜ければいい。
「いいよ、生活さえ、できたら」
「よし、決まりだな。君の名前は?」
「アイク・レイダーク」
「強そうな名前だね……俺はローガン・ウェイン。よろしくな」
そう言って、ローガンは手を差し出してくる。
どう言う意味なのだろうか?
「……? あー……ほら、お前も手を出して」
「あ、」
言われるがままに手を同じように差し出すと、ローガンに手を握られた。
「これは握手って言って友好の証さ。改めて、よろしくなアイク」
「よろしく、ローガン」
「いきなり呼び捨てかよ!?」
「?」
そんなやり取りをしながら、僕らは歩いてきた道をもう一度辿る。
思えば、この森は僕の故郷だったのかもしれない。
アインハルト・レイダガーの故郷はこの辺境の村だったのだろう。でもアイク・レイダークの故郷はどこになる? アイク・レイダークが生まれたのはこの森の大迷宮、【ウロボロス】だ。
なら、この森がアイク・レイダークの故郷だ。長い間不在になるが、それでも次に来た時にもう一度、僕がここの王だと示してみせよう。
森から出ると村長たちが鎖で腕と胴体を固定され、連行されていた。
「お前ら! もう日が暮れ始めている! 王都に戻るのは明日の早朝だ! そこの罪人どもは【永眠】をかけて牢屋に入れろ! 魔術が使えない脳筋はテントを張れ! 村人への挨拶回りと警備もやってこい!」
ローガンが大声で指示を飛ばす。あまりにも声が大きかったせいか少しびっくりしてしまった。
ローガンはそう見えないだけで、きっと騎士団で結構強い方なんだろうけど……
「よし、アイク。明日になったらもう一回だけ聞く。それ以降はもうきかねぇしお前も後戻りできない。よく考えろ」
「わかってる……少し、街の中を見てくる」
「ああ、行ってこい」
街は静かだった。
まるで何かに怯えているかのように静まり返った街を僕は1人で黙々と歩いて行く。
記憶はない、戻る気配もない。失うものが何もないとすら感じてしまうが、間違いなく僕はここで生まれ育った。
あの日、森へ鍛錬をしていなければどうなっていたのだろう。
きっと、今日みたいに僕は売られていただろう。そんな予感がする。
多分、鍛錬しに行こうと行かなかろうと僕には後悔があったはずだ。
……記憶が多少戻ったからかな。胸が痛い。
しばらく歩いていると、ある家にたどり着いた。
丘の上に立っている小さな小屋。
中に入って見ると、手入れがされていなかったようで埃がたまり放題になり、食材も腐りきっている。
ただの荒れた家だ。それでも僕は溢れ出す涙を止められなかった。