青年のナマエ
【ウロボロス】継承者としての修行が始まってから7年。
7年間も修行していたおかげで、ステータスもだいぶ伸びたと思う
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名前:????????? 15歳
性別:男
種族:ヒューマン?
レベル:302
体力:956
魔力:1042(+200)
筋力:538
敏捷:2820(+480)
精神:???
器用:800(+120)
スキル:【鑑定の心眼】【隠密・真】【無音・真】【短剣術・真】【魔力操作・極】【闇魔法・極】【光魔法・極】【風魔法・王】(【ウロボロス】【隠蔽】【金属加工・極】【振り直し】)
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不思議なことに、記憶をなくした時からステータスから名前が消えた。
スキルには階級があり、無印、中、上、極、王、帝、真の順で強くなる。
【鑑定の心眼】や【隠蔽】には階級がない。元から真以上の性能を持っているかららしい。
「おーい。こっちきてくれ〜」
声を飛ばしてくるのはこの迷宮内ではジークさんしかいない。黙って彼の方に歩いて行く。
「ぶっちゃけもう教えることないからな。そろそろお前も外に出さなきゃいけないわけだ。ていうことでお前にはウロボロスと完全に一体化してもらう」
どういうことだろう。僕は首を軽く捻る。
この動作は無意識的にやっているのだが、ジークからは女子受け狙っていると言われる。そもそもここに女子なんていないでしょ……
「だから女子受け狙ってんなって。要はあれだ。俺を完全に取り込むってこと……更にわかりづらくなったな……えーと」
「【ウロボロス】であなたを喰えばいいんですね?」
「そうだけどそうじゃない。【ウロボロス】のスキレベを上げるために継承者固有能力を習得してもらう」
【ウロボロス】の能力は自分がダメージを与えた相手のステータス、またはスキルを1つだけ丸ごと奪える。相手はもちろん弱体化するし、僕は強化される。だが、他にも継承者固有能力というのがあるらしく、継承者が代を重ねるごとに強化してきた力もだ。僕はまだ使えない。
「俺が手本を見せる。それをお前は習得しろ。時間がないからとっとと見せるぞ」
ジークさんが僕から少し距離を取ると、ジークさんから素人でも感知できるほど強大な魔力波が伝わってくる。
そして次の瞬間、ジークさんの両肩あたりから1対の真っ黒な蛇が現れる。
蛇の尾はジークさんの肩にまだ繋がっていて、ジークさんの腕に絡み付いている。
「これが7代目で進化した【ウロボロス】の能力だ。そして俺の代で強化した結果がこうだ」
ジークさんが手を前につきだすと、蛇は腕に巻きついたまま、体を伸ばして剣となった。
漆黒の刀身に真紅の筋が通っており、一定のリズムで薄く光っている。恐らく【ウロボロス】が生きてる証拠だろう。
「【ウロボロス】の蛇剣だ。もう片方も同じように出来る。【ウロボロス】自身がこれのやり方は覚えてるから、やってみろ」
「【ウロボロス】、剣出して」
僕がそういいながら手のひらを上に向けてみるとボンッ、と手のひらから漆黒の刀身に真紅の筋の短剣が飛び出してきた。ジークさんの持っている片手剣をそのまま小さくしたような短剣だ。
その後も続けてみた結果。最大16本まで出せることが発覚した。これは戦闘で使えるかも。
「出来ました」
「ふざけんな」
「? ごめんなさい?」
ジークさんは【ウロボロス】を実体化させるだけでも苦労したらしく、自分がアレンジしたものをポンポン出している僕に向かって涙目で怒っていた。ごめんなさい?
「よし、じゃあ最終奥義も教えちゃったし、いよいよ最後の儀式だ。ステータスナイフを貸せ」
あれから大体5分くらいしたらジークさんも復活してなんかすごく大事そうなのをあたりまえのように始めようとしていた。
とりあえず、ステータスが刻まれている短剣をジークさんに投げ渡す。
「あっぶな! こういう危ないものは投げちゃだめでしょ! 俺じゃなかったら死んでたぞ!」
怒られた。
ジークさんは明らかに殺意の込められた速度で投げられた短剣を見事キャッチして、ステータスを見る。
「7年でレベル300か……微妙だけどステータスの伸び方は歴代1位だな。コホン、えー今からお前に新たな名前を授ける」
「?」
「修行終わったからな。女受け狙いやめろ。お前も外に出るべきだ。ちょうどお前の住んでた村に向かってゴブリンが大進行してるし。って記憶ないんだっけ」
この人、僕の記憶が抜けてることを忘れてたのか。
「お前の前の名前は、アインハルト・レイダガー。光の短剣とはよく似合ってるなと思うほど光り輝く正義の心を持っていた。だからこそ記憶を【ウロボロス】に喰われたんだろうな」
「今、重要そうなことがきこ」
「安心しろって、お前の記憶はまだお前の中にある。必要なときは【ウロボロス】が見せてくれるさ」
この人、僕になにも言わせない気だな。【ウロボロス】が見せてくれるならいいか。
「【ウロボロス】では、その継承者を育てた奴とその継承者の名を混ぜたものが継承者の新たな名となる。俺の名前は"ジークグリード・ダークレックス"だ。長いだろ?」
「長いですね」
「アインハルト……ジークグリード……アイングリードは無いな。ジークハルトは愛称が俺と被るから無しで……アイク……あれ? これよくね?」
「それで」
「即決かよ。えーと」
名前は1分もかからずにジークさんが決める。この人何者なんだろう
「苗字は光と闇的な厨二ズムを合わせて"レイダーク"でどうだ? アイク・レイダーク。うん語呂もいい」
「ステータス書き換えてますし、僕の意見は関係ないんですね」
「俺もそうだったしな。ま、かっこいいしいいじゃん」
意見もなかったしいいんだけど。
「改めて、アイク・レイダークよ。汝を【ウロボロス】継承者として認め、汝が行く道に立ち憚るものをすべて貪り、喰らい尽くすことを約束する」
「……ジークさん、また会えますよね?」
僕だって人間だ。今まで育ててくれたのはジークさんだ。彼に対して"友情"のようなものを感じている。
だが、彼の言葉からはこれでお別れとでもいいたげな雰囲気を感じた。その感覚も合っていたみたいで、ジークさんは微妙な感じで笑いながら頭を搔く。
「物理的にはもう会えないだろうな。俺は【ウロボロス】の僅かな残影。消えていくのは当たり前だ。でも、【ウロボロス】の中に俺はいる。だから実質的にはいつまでも見ているさ」
「…………」
「お前の名前には俺がいる。名前は力のある1種の詠唱だ。俺の名前を呼べば【ウロボロス】の深淵から助けに来てやるよ。んじゃ、あばよ」
それだけだった。それだけ言い残してジークさんは消えていなくなった。
「ありがとうございました……さようなら」
僕はその場に座り込み、別れを告げた。
騒がしい人物が消えた静かな迷宮の中で
小さな雫が零れ落ちた。