二度目のヒゲキ
今回から時間軸がだいぶずれます。
わかりづらくてすいません。
「【ウロボロス】の引き継ぎの際に知った真実の影響で記憶が欠落したのか。珍しいタイプだな」
「あの、僕は誰なんですか? それにあなたも……」
茶髪の男性は僕の言葉を聞いて考えるような素ぶりをしてから納得するようにウンウン唸った。
「ああ、君は9代目【ウロボロス】継承者だよ。名前は俺も知らないけどな。俺は8代目【ウロボロス】継承者のジークグリードだ。ジークかグリードって呼んでくれ」
「? よろしくお願いします?」
ジークさん?は自己紹介をしながら握手を求めるように手を差し出してきた。
僕は握手に答えるためにその手を握った。
「魔法適性は光、闇、風か。珍しい奴だな。素質値も悪くない。武器とステ振りさえ変えて」
「武器を変えるつもりはないです」
即答だった。ジークさんが喋ってるにも拘らず、僕は反射的にそう言っていた。
「即答かよ。なんで変えたくないんだ?」
「変えたら、前の”僕”が完全になくなってしまう気がするから……」
すると、ジークさんは腹を抱えて笑いだした。
「ハハハハハッハイッヒィッフゥッフゥ……腹痛いわぁ……よし、じゃあ修行を始めるとするか」
「はい?」
「お前さっき行ったこと覚えてるか? お前は9代目【ウロボロス】継承者なんだから、先代の俺を師匠としてここで5年くらい修行しなきゃいけないんだよ」
「わかりました」
「決断はっや。やっぱお前面白いわ」
ジークさんは嬉しそうに笑っている。僕は多分、ずっと無表情だったと思う。
「お前、なんか名前必要だよな」
「別になんでもいいですよ」
「考えておくか。じゃ、武器を持って迷宮へゴー!! 時間はないぞ少年!!」
そこから僕の【ウロボロス】としての修行が始まった。
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彼がいなくなってからもう7年経った。
あの日のことを私はすごく後悔している。
自分がレベルを上げたら、なんて言わなければ、彼はまだここにいたのかもしれない。
村の周囲をくまなく村の総勢で捜索しても彼は見つからず、魔物に食われてしまったと2年前から言われるようになった。でもステータスの中で器用と敏捷だけが圧倒的に高かった彼がそんな簡単に死ぬとは私は思えない。だから今でも1人で捜索を続けている。
そんなある日、村中に1つの情報が駆け巡った。
『魔物の大行進が来ている』
私はそれを聞いた途端、飛び出した。
武器屋で買った剣を持って、走った。
村人は全員避難を始めている。そのため、最短ルートの大通りは逃げようとする人々でうめつくされており、遠回りをするしかなかった。
「エヴァ!! どこに行くんだ!!」
声をかけて来たのは村長。村長さんは私とハルトの面倒をよく見てくれた恩人だ。
今こそ、その恩を返そう。
「大進行は私が止めます!! 王国の騎士団ですら認めた私ならきっと時間稼ぎができます!!」
「ダメだ!! 一緒に逃げるんだ!!」
「でも!!」
「でもじゃない!! お前には生きてもらわないと困るんだ!!」
村長の顔は焦っていた。焦燥感だらけの顔だった。きっと私のことを心配してくれてるんだろう……でも私はここを離れたくない。だから戦う。もう1度だけでもアインハルト・レイダガーと再開できることを願えるように。
「村長、ごめんなさい」
私は村長に向かって謝ると、全速力で走って行った。
村の塀を出たらそこには何百、何千、何万ともありそうなゴブリンの大群がいた。
私は、その群れに飛び込んだ。
「お父さんの仇!!」
ゴブリンに向かって一閃する。私の剣はゴブリンの体を引き裂いた。だが、その後ろから小さめの炎がいくつも飛んでくる。避けきれずに、全て私に命中する。痛みで一瞬飛びそうになる意識を押さえ込み、必死で耐える。すると突然、私の目前にまで迫っていたゴブリン達の腹から血が吹き出した。
私もそのタイミングと重なるように場所が”変わっていた”
「遅くなってごめん」
その声は7年前からもう聞くことがなかった声だった。
「どこ行ってたのよ……バカ……」
私はその人の腕に抱かれながらそっと涙を流した。
「少し待ってて」
その人は魔物の群れにゆっくりと歩きながら迫って行く。
ゴブリン達はその威風堂々たる姿に恐怖しているのか、びくびくと震えている。
そしてその人は来ていたローブの内側から2本の短剣を取り出し、ゴブリンに投げつけた。
2本の短剣は2体のゴブリンの頭部に突き刺さり、いとも簡単にその命を奪った。
「ウ………ロス」
その人が何かを唱えた。だが何も起きない。すると、その人は投げた体勢だった腕を勢いよく後ろに引いた。
短剣はゴブリンの頭から離れる。
その人が腕を回す。
その人の元に戻って来ていた短剣は方向転換をし、ゴブリンをまとめて斬り裂く。
その人はそのまま勢いを生かし、回転しだすと短剣はその人を軸に弧を描く。
次々と上がるゴブリンの悲鳴。少し茶色っぽい髪をした真っ白のローブの見ただけじゃ何をしているのかわからない不可解な行動。だがそれは舞踏会のように優雅で、どこかに美しさを兼ね備えていた。
しかし、私から見ればそれはかつて、最弱の敏捷型で、武器も最弱の短剣しか扱えない弱者だった1人の青年が何人もの大人達が苦戦してやっと退けられる群れをたった1人で蹂躙している景色にしか見えなかった。
しばらくして、少年の回転が止まると、そこに残っていたのは私と青年。
そして
––––夥しい量の死だけだった。