狂気のチカラ
投稿遅れてすいません!
受験がもう来週な件について。
『え? そんな軽く了承しちゃっていいの? 俺呪いだよ? この世で最強の呪いだよ?』
脳内の声がなんか、戸惑った感じで声をかけてくる。呪いっておい。
「いや、今の聞いてすっごい断りたくなったんですけど……」
『やめてぇえええええええ!! 俺もここでずっと過ごすのは嫌なんだぁあああああ!!』
「ああああああああああああ!! 叫ばないでえええええええええええ!!」
断ろうとしたら、すっごい声量で止められた。凄すぎる上に脳内から直接響いてるから耳をふさいでも頭が痛くなる。なんなんだこいつ
『あ、ごめん。ちょっと久しぶりに人間を見たからキャラ崩壊しちゃった』
「きゃらほうかい?」
『あ~そっか。この世界だとそういうのないもんな~。人格が大きくずれることだよ。クールな女の子が急に下ネタ叫びだしたりとかね』
「・・・・・・転生者?」
こういう情報を知っているものは大体魔族との戦いに使われる異世界から召還された勇者か、輪廻転生の理を微妙に外れて別の世界で記憶を持ったまま転生した、異世界転生者のどちらかなのだ。
こういう情報は家で溜め込んでいた勇者の物語や詩人がやってきたときに歌う詩で聞いたことがある。
『せいかーい。ま、この迷宮の力を受け継いで肉体が完全に死んだ今、俺はただの呪いの意思だけどな』
最後のほうは、何故か声色が低くなっていった。
『ここでそんな話をしていても埒が明かないからな。《転移》』
次の瞬間、僕は迷宮とは思えないほど明るい部屋に出た。部屋には赤い宝箱のようなものがいくつも無造作にほったらかされており、ここに住む奴の性格がよくわかる。
『いらっしゃいませー?』
「なんで疑問系なの?」
『なんとなく? それはそれとして適当に座ってくれたまえ~たまえ~』
僕はしっかりと、赤い箱を押しのけて綺麗に積み上げてから、地面を軽く叩いて埃を払ってから石畳の地面に座った。
『なんか、自分が怠け者だって正面から喧嘩売られてる気がする・・・・・・』
「気のせいじゃないですかね? それで、話とは」
『あ、うん。アインハルトくん?、【ウロボロス】を引き継ぐつもりはない?』
「はい?」
少し声が上ずったが、それもしょうがないだろう。スキルとは人によって各人各様。この声は今、僕にスキルを譲渡してやると言っているのだ。
『【ウロボロス】は別名【神をも屠る蛇】と言われている。それゆえに神が作り出したスキルという概念から微妙に外れているんだ。だから譲渡出来る』
「思考読んでません?」
『君がわかりやすいだけさ』
「なら、引き継ぎます」
僕は即答した。別に断る理由もないし、強くなれるならそれは本望だ。
次の瞬間、僕は意識が刈り取られた。
死神の鎌で首を叩き切られたようにたった一瞬の出来事だった。
――――……一瞬だけ、声の姿が見えた気がした。
目が覚めると、僕の目の前で短剣を振るう茶髪の男性と、それを楽しげに見つめる赤褐色の髪と青い目の子供。
ああ……僕だ。茶髪の男性は父さんかな? 恥ずかしいことに僕はもう両親の顔を覚えていない。一緒に暮らしていた記憶はあるのに、顔だけすっぽりと抜き取られたような。そんな感覚だ。でも今見てる父さんはとても優しそうで純粋に息子が楽しそうに自分を見てくれているのが嬉しいのか時々大きく口を開けながら笑っている。
しばらく、そうやって眺めているとなにやらあわてた様子で、老人が駆けてくる。
声は聞こえないが、たぶん魔物の大進行が来たと言われている。
父さんは僕を家の中にいれて短剣を五本、両手剣を一本背負って、村の外に向かっていった。
僕もその後ろを追いかける。
村の塀の外に出ると、父さんと女の人が一人、もう一人男の人がいた。
女の人はたぶん僕の母さんなんだろう。父さんとやけに親しく接しているし。
もう一人の男は、エヴァの父さんなんだろう。エヴァと目元がすごく似てる。
三人で仲よさそうに話している。
だが、次の瞬間、母さんの首が飛んだ。
後ろから横薙ぎされた片手剣がちに滲みながら、父さんにも向かう。
父さんはそれを両手剣で弾く、左手一本で自分の身長ほどもある両手剣を扱っているのだから色々おかしい。
いつの間にか、片手剣はどこにもなく、それを握っていた人物もいなくなっていた。
代わりに、多くの鎧を着て、武器を構えた男たちが父さんとエヴァの父さんを囲んでいた。
その中から、僕も見慣れた顔が現れる。村長だ。僕やエヴァの実質的な育ての親だ。
村長が口を開ける。すると、先ほどまで無音の世界だったのに、村長の声が響いた。
「君たちは我々にとって邪魔だ。だからここで魔物の大進行によって死んでもらうことにした」
無音の世界にしわがれた老人の声が響く。震え出そうとする右手を拳を作ることで抑え、言葉の意味を理解しようとするのを必死で拒む。だが、それも虚しく父さんの言葉で理解してしまう。
「アインハルトが無事でいられるなら喜んで死んでやるよ。そろそろ俺たちの番だと思っていたしな」
「何を言ってるんだ父さん!!」
反射的に叫ぶ。だが、頭はすでに理解していた。
「お前らが造形のいい子供を育て、奴隷商に売り払っていたのは知っていた。その親がこの村にいたのならばそれを殺していたことも知っていた。だが、アインハルトに手を出すのなら、俺はここでお前ら全員を殺す」
「父さん!!やめてくれ!!」
必死で叫ぶ。だが僕はすでに理解してしまった。
――――村長は奴隷商で、父さんと母さんは僕を守るために殺された。
そして、村長がその約束を守るとはとても思えない。つまり僕が無事でもエヴァは売られてしまう。
「約束しよう。アインハルトとエヴァは奴隷にしないでおこう」
「賢明な判断だ。とっとと殺せ」
次の瞬間、父さんとエヴァの父さんの首が飛ばされた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
自分のものとは思えないほどの叫びをあげる。
その叫びの中に優しい声が聞こえた。
「アインハルト……いつかお前の本当の両親に出会えることを祈る」
その声を聞き取った。その声を聞き取ってしまった僕は誰?
僕はアインハルト・レイダガー、でも”僕”って誰?
父さんが本当の父さんじゃないのならアインハルトなんていない
だったら僕は誰?
アインハルト・レイダガーは親を殺した村の人間に育てられた可哀想な男の子。
でも、僕はアインハルト・レイダガーじゃない。だったら”僕”って誰?
アインハルトは両親に生きて欲しかった――――僕も生きて欲しかった。
アインハルトは両親にあそこにいる奴ら全員殺してでも生きて欲しかった――――僕もそうだった。
アインハルトは村人を許せる――――僕は許すことなんてできない。
「ああああああああああああああああああああああああああああああ殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!」
目尻から暖かい液体が流れていくのを感じた。きっとそれは復讐に火に燃える赤色の血液だったんだろう。
その日から、アインハルト・レイダガーはいなくなった。
目がさめると、茶髪の男がこちらを見ている。
「よう。気が付いたか?」
男は上機嫌に目を細めながら”僕”に向かって問う。
”僕”はその問いに答えずに一言だけ発した。
「”僕”は誰?」
勉強しすぎて死ぬうううううううううううう