94話 部分身
虫の鳴き声が鳴り響く
ムシトレールの森…
妾のひ孫の事が好きすぎてヤバい
ヤンデレちびっ子が目を
見開いて奇妙な笑みを浮かべながら
妾に殺気を向け続ける…。
妾の右手の中指の爪の間に刺された
毒針のこの形状は植物じゃな…
確か魔力を吸い取る性質を持つ植物の種?
魔法を使えば魔力を
種に吸い取られ不発する…
つまり魔法を封じる毒。
妾の魔法を知る者は
ごく一部の者だけじゃが…
このラーニアとか言う
ちびっ子が知っているわけはないのじゃ…
念には念を…つまり
妾が魔法使いじゃろうが
そうじゃなかろうが
100%妾の逆転の芽を初手で潰す戦術…。
怒りに任せて衝動的に妾を襲ったと
見せかけて、計算され尽くした
初手の不意打ち…
このちびっ子…戦闘においての立ち回りは
もうすでにウルツァイトに匹敵…
いや、それ以上かもしれないのじゃ…
じゃが、性格上難有り…
どうにかして戦力に引き入れたいんじゃが
変な勘違いで
妾…嫌われてるみたいじゃなぁ…
どうしようかの…この状況で
あやつを仲間に引き入れるには……
①気合いで誤解を解く。
妾の正体をバラすと
あとあと面倒じゃから無しじゃな…
②ミローナを餌にして仲間に引き入れる。
いや、こやつの性格上さらに怒りを増して
自体が悪化しそうじゃな…。
③ぷりてぃーにお願いする。
………………まぁ、妾のぷりてぃーさを
持ってすれば確実なんじゃが…
ちょっとプライドが許さないのじゃ………
ブォンッ!!!
「おわっ!じゃ!」
突然何かが風を切る音が聞こえて
妾は反射的に右上にジャンプして避ける。
バキャンッ!!!
さっきまで妾が居た場所の
木に何かが当たって砕ける。
ちびっ子の独学魔法にしては
やはりかなりの破壊力じゃな〜。
「あら、白髪女のくせに手負いの状態で
今のを避けるなんてやるじゃない。
でも、無駄な抵抗は
やめて欲しいんだけど…」
ラーニアは穏やかな喋り方じゃが顔は
殺意満々で不気味そのものじゃ…
「私はね…暇なあなたとは違うの
早くあなたを殺して天使を見つけに
行かなきゃ行けないもの…」
な…こやつ……
「暇…?妾が暇をもてはやしてるじゃと?」
「ええ、そうよ
もう、顔つきが暇人そのものよ。」
ビュンッ!!!!
妾はラーニアの方向に
向かってダッシュする!
選択肢は決まったのじゃ!
④力づくで泣かせる!
べ、別に怒っては無いんじゃよ?
これが一番手っ取り早いからの!
とりあえず、このちびっ子を
死なないくらいに軽く殴って泣かのじゃ!
どうせ妾のスピードに反応する事すら
出来んじゃろ!
妾の拳がラーニアに届く瞬間……
ツルッ!!!
どちゃっ!!
な、なんじゃ!
突然天地がひっくり返ったのじゃ!?
「ふふふ…やっぱり身体能力は
とてつもなく高いのね
身体能力は…。」
ラーニアがニヤニヤ笑いながら
地面に散らばっている
ドロドロの液体を指で突く
「これ、知ってる?
ネバット芋虫って言うの
この芋虫の体液はとても滑るのよ。
一度体液が付けばしばらく取れないし
魔物を転ばせるのに便利だから
1部の冒険者達も愛用してるそうよ?」
………………
ま、まさか!!
妾に攻撃する前に芋虫を潰して
ばら撒いたのは罠!?
そして妾が直接攻撃してくるように
挑発して誘導したんじゃな!?
「あなた、自分の事を頭いいと
思ってるんでしょうけど
とっても知識不足ね…。」
妾は普段あんな小細工使う必要無いから
忘れてただけじゃ!
ネトット芋虫じゃろ?
知ってはいたのじゃ!
一応………
「……知識があっても
影でミローナの汗の匂いを嗅ぐ
変態にはなりたく無いの。」
「あなたが愛について何も
理解出来て無いだけよ…
まぁ、どうせ一生理解出来ないわ
今から死んじゃうんだから…。」
ラーニアは拳を握り締める…
「トドメの分身は右の拳かの?」
「え?」
ラーニアが口を丸く開ける。
「射程距離は10m以内…
持続時間は約2秒くらいじゃな。」
「な、何を言ってんのよ!!
クソ白髪女ッ!!!???」
ラーニアは汗だくになって叫ぶ。
「そんなの決まってるじゃろ?
そなたの魔法の特性じゃよ。
一瞬だけ体の1部の分身を
作る事が出来るとかかの?
その代わり、本体の
数万倍のパワーが出るみたいじゃな…
この手の能力は大概本人の身体能力で
性能が左右される事が多いから
ウォーリアコースで正解じゃったな。」
ラーニアの顔がさらに凄まじい表情になる…
怒りと悔しさが混ざり合い
それを必死に堪えきろうとするものの
堪えきれてないようじゃ
「な、なんでそこまで分かったのよ…」
「単純じゃよ
そなたの攻撃魔法で手や足だけの
分身が見えたんじゃ。
そしてあれだけパワーがあるのに妾を
直接拘束しようとしないと言う事は
一瞬しか出せないんじゃろ?
多分同時に複数出すのも無理じゃな?」
……………………
ラーニアは怒りを噛み殺して
一旦落ち着くかのように呼吸を整える。
「ええ…そうよ……
でも私の魔法が分かっても
ネバット芋虫の体液がこびりついて
身動きが取れない上に魔法も使えない…
そんな状態で
私に勝つ方法なんてあるの?」
「それがあるんじゃよ…。」
「は?」
「試しにトドメの魔法を撃ってみるのじゃ
妾が勝つからトドメにはならんがの。」
………………………
「で、デタラメ言って
私がトドメを刺すのを躊躇させて
時間を稼いでからミローナちゃんが
帰って来るのを待つ魂胆かしら!?
なら今の内にさっさと
殺せば問題無いわ!!」
グッ!!
ラーニアは拳を握り、構える
ドガガガガガガガガッガッ!!!!!!
両手の拳の分身を交互に作っては消してを
繰り返し妾に
パンチのラッシュを浴びせる…
妾は殴られ続け、パンチの衝撃で
地面がドンドン掘れて
直径数メートル程の穴が出来る。
「はぁはぁ……はぁ…
やっぱり無理だったじゃない…
ミローナちゃんが今の音を聞いて
帰って来る前に早く死体を埋めましょ。」
……………………
ラーニアが地面に空いた穴を覗こうとする。
「まぁ、65点くらいかの…」
「え?」
バッギャャャャャンッ!!!!!
妾は穴の中からラーニアの方向に
向けてパンチを放ち
大地が砕けて飛び散った土や岩ごと
ラーニアが宙を舞う。
「な、何でよ!!!?
魔法は使えないはずなのに!!?」
ガシッ!
15m程の高さまで吹っ飛んだラーニアは
近くにあった木につかまって
かろうじて落下を避ける。
「もちろん、妾は魔法は使ってないのじゃよ
ただ単純に殴っただけじゃ。」
妾はえぐれた穴から地上に登りながら
木にしがみついている
ラーニアに向かって拳を見せつける。
「な、殴っただけ!?殴っただけで
こんなパワーが出るわけ…。」
「まぁ、ちなみに魔法は使えるがの。」
妾は針の刺さった指に魔法をかける…
すると毒針が弾けて指が完治する。
「魔力を吸い取る毒針ならば
毒針が吸い取れない量の魔力を
流し込めば解決じゃ。」
…………………………………
「な、何で!!何で!!何で!!
私の方が純粋にミローナちゃんを
愛してるのに!!
何で!!?
私が正しい!!私が!!
正しいのにィィィ!!!!」
「何でじゃと?
そんなの分かりきった事じゃろ?」
「は??」
「妾が強くてぷりてぃーじゃからじゃよ。」
「な、何が強くてプリティーよ!!
あんたなんかここからすぐに
降りてぶっ殺してやるんだから!!」
「そうかそうか、それは楽しみじゃな。」
「余裕を持っていられるのも今のうち…?
ってあれ?魔法が!?
私の魔法が出ない!?」
「魔力切れじゃよ。あれだけ魔法を
連発すれば、子供の魔力なんて
すぐ切れるのじゃ…
まぁ、特にそなたの魔法…
部分的に分身するから『部分身』とでも
名付けようかの…
部分身はパワーがあるから
魔力消費も激しいじゃろう。」
………………
「ま、まだよ…まだ何か
あのネーミングセンスが悪い
クソ女を殺す方法が…」
ラーニアは木に捕まったまま
ブツブツ言い始める。
ネーミングセンスが悪いは良いの
聞き間違いじゃろ…?
「まぁ、落ち着くのじゃ
妾はそなたを殺したりするつもりは無い。
妾の話を聞くのじゃ。」
「だ、誰があんたの話なんか!!」
「聞く気は無いのかの?
じゃが、こうすれば聞く気になるんじゃ。」
スーーーッ
妾は大きく息を吸う…
「ミローナ〜〜!!
ラーニアがの〜〜!!
木に登って降りれないのじゃ〜〜!!
意外と間抜けなんじゃな!!
面白いから早く見に来るんじゃよ!!!」
「ミローナちゃんを使うなんて
ど、どこまで卑怯なの!!!」
「ミローナの汗の匂いをこそこそ嗅ぐ
変態には言われたくないの〜
妾の言うこと聞かないと
匂いを嗅いでた事も言おうかの〜!」
「わ、分かったわ!!
お願いだから!!それだけはやめて!!
な、何でも言う事聞くか…」
「ミローナ〜〜!!!!
こっちじゃよぉぉ!!!」
妾はもっと大きな声で叫ぶ。
「ごめんなさい!!ごめんなさい!!
やめてください!!!
ごめんなさい!!!!!」
ラーニアは泣き始める。
「まぁ、これで話を聞く気になったかの?」
「はい……」
ラーニアはしゅん…と脱力する
「とりあえずじゃな
単刀直入に言うと20〜30年後に
世界の危機が訪れる…
それに耐えられる戦力を集めてるんじゃが
ラーニア…そなたを妾が鍛え上げ…
その戦力に入れたいのじゃ!」
「……え!?そ、そんな!修行したら
ミローナちゃんとの時間が!!」
「あ、修行中ミローナも居るのじゃ。」
「やります!!やらせてください!!」
ラーニアは、にやけながら答える…。
気持ち悪いのじゃ…。
ガサガサッ……
「あれ?おばあちゃ……じゃなくて
ディナディナちゃん?も
虫捕りに来たの?」
草むらをかき分けてミローナが
戻って来たのじゃ。
「ま、まぁ、そんな感じじゃな。」
「あれ?ラーニアちゃんなんで
そんな所にいるの?」
木の上にいるラーニアに気がついて
ミローナはラーニアを見つめる。
「ち、違うの!
降りれないとかじゃ無くて!!」
ガシッ…ガシガシガシ!!!!
ミローナが物凄い勢いでラーニアの
居る木の上に登る。
「えへへ…虫捕りと、かくれんぼも
いいけど木登りも楽しいね!
ラーニアちゃん!!」
ミローナはラーニアに向かって微笑む。
「て……天使。」
「え?どうかしたの?」
「ううん!何でもない!
木登り楽しいね!!」
はたから見ると微笑ましい光景じゃが
ラーニアのにやけ顔を見るとじゃな………
ま、まぁ、次世代の戦力となり得る
人材(性格に難アリ)を味方に
引き入れたんじゃからよしとするかの
めでたし、めでたしじゃ!!
よし、それじゃあ妾も…
「はっはっは!!ミローナ!
木登りマスターの妾のスピードに
追いつけるかの!!」
「わー!ディナディナちゃん速い〜!!」




