88話 洞窟の黒い影
魔法学校の敷地内の林で起きた
『うっかりうちのポチが
なんて事を事件』が起きて
ナーバムル先生が
自首退職しそうな
雰囲気で落ち込んでるから
ルナディナお婆ちゃんを
呼びに行こう…。
ルナディナお婆ちゃんなら
ナーバムル先生の
記憶を消す事が出来る。
この事件を綺麗さっぱり忘れてもらう。
しかし、今から実家まで走って
呼んだところで
こんな朝っぱらから
ルナディナお婆ちゃんが
動くわけがない。
学校に来た時に
僕が必死になってお願いしたら
学校に行くついでにして
くれるかもしれない程度だ。
ルナディナお婆ちゃんは
そういう人だ。
自分が興味ない人間が
いくら困っていようと
基本的には助けない。
よほど気分が良くない限り…
そして孫の僕でさえ興味がない
人間の内に入っている…
ルナディナお婆ちゃんは弱い人間には
興味が無いのだから…。
とりあえず、ルナディナお婆ちゃんと
合流する為に一旦ケルミロアちゃん達と離れなくては…
「ごめんケルミロアちゃん、
ちょっと用事が………」
「は?こんな時に何の用事よ!!」
「えーっと…お腹壊しちゃって…」
ケルミロアちゃんに一言言って
猛スピードで走って行った…
「エクルムったら……あんなに
速く走れたのね…
あれかしら、お腹が緊急事態で
一刻を争うから体のリミッターが
解除されて通常の3倍のスピー……」
ケルミロアちゃんが何か言いかけたけど
だいぶ離れたから
途中から聞こえなった。
僕が走って向かう先は学校の外にある
ミロロがスクウェア・テレポート用に
セットした転送スポット。
ミローナとルナディナお婆ちゃんは
ドラグニングで登校に飽きたから
最近はテレポートで来てる。
今から行っても早すぎるが
学校の敷地内にいると
必ずケルミロアちゃんに
ちょっかいを出される。
時間の無駄だが1時間程
テレポート先で待とう。
…………………………
転送スポットに到着した。
学校から少し離れた場所の
岩場にある洞穴の中に
転送スポットはある。
僕はゆっくり薄暗い洞穴の中に入る…。
すると中から何かいる気配を感じた…
グショ……グショ…
湿った何かが岩に叩きつけられてる
音が聞こえて来た。
この先に何かがいる!?
僕は普段転送スポットは使ってないが
ここは毎日ルナディナお婆ちゃん達が
使ってるんだぞ!?
魔物なんか居るわけない…
ぺちゃっ!ぺちゃっ!ぐちゃ!
血の匂いと共に
黒い人型の影が現れた!!
その黒い影は口に
洞窟のコウモリをくわえて食べている。
「魔物!!?」
僕は腰にぶら下がってる
剣に手を伸ばしたが両腕を
怪我していたのを忘れていた…
「うっ!」
痛みで剣を握れなかった…
その一瞬の隙をついて
黒い影が腕を上げて近づいて来た。
やられた…そう思った瞬間……
「やぁ!エクルム君やないか!!
珍しいな!」
黒い影が手を振って馴れ馴れしく
近づいてきた。
「だ、誰だお前!?
なんで僕の名前を知ってるんだ!?」
「ああ、ワイとは
一応初対面やったな!」
会話だけ聞いていたら
このおかしな喋り方で
気が抜けてしまうだろう…。
だが、この黒い影からは
なんとも言えない
恐怖を感じる…
もし、僕が怪我をしてなくても
戦ったら確実に殺される…
近づいただけでわかる
圧倒的な力の差……。
「そう固くならんでいいで!
ワイはアミネラはんが作った
ダークネス・アンノウン・ドール!
ダクたんって呼んでくれ!
この転送スポットを外敵から
守ってるんやで!」
敵じゃないとわかっても
その禍々しい見た目と
変な喋り方のギャップで
めちゃくちゃ不気味だ…。
「な、何で…ダクたんには
自我があるんだ?
というか、みのたんさんと
ちょっと被せただろう…」
「それはな!ワイらはアミネラはんの
戦闘の記憶で動くんやけど
たまにうっかりアミネラはんの
戦闘以外の
記憶も送り込まれて
自我が芽生えるんや!」
………………ありえなくはない話だ。
確かにお母さんの魔力量と技術なら
記憶を魔力の塊に宿す事は出来る。
だが、その高等技術をうっかりって…
そして1番気になるのは…
「何でそんな喋り方なの?」
…………………
「それはな……アミネラはんがな…
君のお母はんが…昔
芸人目指してたんや……」
「えぇ!??」
「まぁ、嘘やけどな!」
な、何だこいつ!?
さすがにそろそろ力が抜けて来た…
「お!力抜けて来たか?
そやそや、あんたはいつも
力入りすぎやねん
リラックスやで!」
…………………
「リラックス……?
そんな事してる暇なんかないよ…
僕は弱いから…こんなに弱いままじゃ
ダメなんだ……」
「何でそこまで頑張るんや?
ルナディナはんに
認めてもらいたいからか?」
「……………………」
「姪のミローナちゃん達が
どんどん強なってくからか?」
「…………………」
「あのキャラメルみたいな名前の
ボインなお姉ちゃんと
くっつきたいからか?」
……………………
「………お前に…何がわかるんだよ…」
「わかるで…ワイにはエクルム君の
お母はんの記憶が入ってるんや…
母親は自分の子供の事は
全部お見通しや
エクルム君ちょっと無理しすぎ
ちゃいますの?」
……………………
「じゃあ、どうしろって?
僕に弱いままでいろって言うの?」
「男は弱いままじゃあかん
でもエクルム君は
ちょっと頑張りすぎや
そんな頑張らんでも…
キャラメルはんとルナディナはんは
君が思ってる以上に君の事
大事に思ってるで!」
…………………………
「そんな訳な………」
ビュンッ!!
洞穴の奥の正方形が突然光りだし
3人の影が現れた。
「ひいお婆ちゃん!
今日も学校まで競争だよ!」
「ふふふ…妾にまた勝負を挑むとは
今日も妾は速いのじゃよ!」
「ミローナお姉しゃん!
ひいお婆ひゃん行ってらっひゃい!」
ミローナとルナディナお婆ちゃんに
ミロロがテレポートして来た。
「ほら、子供はあんな感じでいるんが
1番やで!1人子供じゃ
ありまへんけど!」
「………………」
「あ!エクルムちゃん!おはよう!」
ミローナが僕に気がつき手を振る。
…………………
エクルムちゃん?
「エクルムちゃんこんな朝っぱらから
どうしたんじゃ?
そんなに妾に会いたかったのかの?」
ルナディナお婆ちゃんまで?
「ちょっと待って!?
何でちゃん付け?」
「いや、まさかの〜
男の子だと思ってた孫が
女の子とは…噂を聞いた時は
びっくりしたのじゃ!」
噂……ケルミロアちゃんが流したのか…
何て事だ…どうりで周りの様子が
おかしいと思った……。
「で、用件は何じゃ?」
「え?」
「おぬしがわざわざ妾達を
迎えに来るなんて
何か困った事があったんじゃろ?」
…………………
「それが…その……」
パンッ!
突然、ルナディナお婆ちゃんが
僕の両手のひらにハイタッチする。
すると両手の痛みが消えて
傷口が塞がった。
「貸しにしてやる
歩きながら話すのじゃ
ミローナ、今日は競争中止じゃよ。」
「はーい!」
ダクたんが僕に向かって
自分の言った通りだろ?と
言わんばかりに自慢げに
親指を立ててGOODサインをしてきて
少し腹が立ったけど
悪い気分ではなかった。




