3話 自分は何なんだろうか?
自分は何なんだろうか?
ずっとそればかり考えていた。
自分は、暗闇の中で生まれた。
親は見た事もない。
ずっと1体で生きていた。
毎日毎日、他の生物に襲われ、
自分も食う為に他の生物を襲う。
他の生物と戦う時に苦戦した事は、
特になかった。
そんなある日、自分は
初めて他の生物との戦闘で苦戦した。
その生物は、集団で行動し
体を不思議な物で包み、
不思議な道具を使い、
鳴き声でコミュニケーションを
取っているようだ。
その生物達は6体で、
自分を取り囲み、
4体はどういう仕組みか
遠距離から炎や水を放ち、
2体の大きな個体が直接武器を持って
斬りかかってきた。
鳴き声でコミュニケーションが
取れるからこそ、
その陣形にほとんど隙がない。
何とか力ずくで全滅させた。
その生物達の屍を漁ってみると、
見た事ない道具や武器が
大量に出てきた。
その中から出てきた、
薄い物が何枚も重なって
出来ていて、ペラペラめくれる
道具には、特に興味をそそられた。
薄い物1枚1枚に細かく何か書いてある。
鳴き声でコミュニケーションが
取れるなら、
何かを書いてコミュニケーションを
取れても不思議じゃない。
なんて面白い生物なんだ!
生まれて初めてだ、
何かを面白いと思った事は!
この生物達の文化や技術を
学んでみたいと思った。
この生物と同じ「種」を
見つけなければ……
自分は、この生物と同じ種を
探しに歩いた。
何日も何日も…歩いた。
全く見つからない…
探しても探しても……
諦めようか…元いた場所には
帰り道がわからないから帰れないが、
元いた場所に帰る必要もない。
その時だった。
「現れたな!
私の剣の錆第一号!」
あの鳴き声だ!
振り向くと、あの生物と同じ種の
生物がいた。
自分を襲った奴らより、
体が小さく、おそらく雌だろう。
自分の姿を見て、
怯えて地面に膝を着いている。
………可愛い…。
生まれて初めての感情だ、
何かを可愛いと感じた事は。
しかし、どうやって
コミュニケーションを取ろう…。
雌も怯えたまま動かない。
………………………。
とりあえず、あのペラペラめくれる
道具を雌に見せながら、
適当な位置に指を差さしてみた。
「本…?」
雌が鳴いた。