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prologue
闇夜を舞う姿があった。
それはシルエットしか分からず、少女の様な姿に見えた。
しかし見た人はその美しさに時を忘れる事だろう。たとえシルエットだけであろうとも。
その少女は何かから離れる様に空を駆けた。
その少女が離れる何か、それを見てみよう。
そこは、ただの住宅街の道路だ。
ただし、それは、そこにある「ある物」がなければ……の話だが。
それは人だった。
いや、人ではなくなっていた。
中肉中背のどこにでもいそうな40代くらいの男性。
その男性が道端に倒れていた。
体中に氷の結晶をこびりつけた、体中を氷で覆われた男性。
その男性は死んでいた。
死体だった。
その死体の前には1人の少女。
小学生ほどの背丈で、茶髪の髪をお下げにした快活な少女。
死体の前には人間体の蜜柑が立っていた。