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前編

短編です。

少し長くなりましたので、3話に分けて投稿します。


勢い任せで仕上げた物語ですので、申し訳ありませんが、設定は穴だらけです。ご容赦ください。


この物語が、少しでも暇つぶしのお供になれれば幸いです。




「ちょっと貴女! ちゃんと自分の役目を果たしなさいよ! 貴女が何もしないから、あたしの計画が全然進まないじゃないの!」




 学園の片隅。

 小さな森の中にある泉のほとりに立ち並ぶ木々の一本。

 その幹に背を凭れさせながら本を読むのが私の日課。

 ここは、人の目の煩わしさから逃れるために探して見つけた私のお気に入りの場所。


 そのお気に入りの場所で読書を満喫していた私の耳に、突如小鳥のような愛らしい声に似つかわしくない罵声が聞こえてきました。


 その声は、私の頭上から聞こえます。

 ゆっくりと顔を上げたら、目くじらを立てて私を睨みつけてくる少女と目が合いましたわ。


 ――あら、この方は……。


 その容姿には見覚えがあります。

 緩やかに波打つ朱金の髪と翡翠色の瞳。誰もが目を奪われるのではないかというほどの美少女ですが、顔立ちとしては、美しいとか妖艶、というよりは愛らしい、につきますわね。遠巻きにですが、よく殿方と一緒にいるところを見かけますわ。


 ――その方がどうしてここに?


 腰に手を当て憤慨しているその姿、その表情さえ可愛らしく見えるとは何ともうらやましい限り。私がそのような顔をしたなら、途端に皆さん青褪めて逃げてしまいますわ。

 なぜって?

 だって私は、目が吊り上がっているせいか、かなりきつい顔立ちをしていますもの。軽く笑みを浮かべた――たまたま読んでいた本が面白くて思わず笑ってしまったのですわ――だけで皆さん後退るのに、怒った顔など見せたら、それこそ周りから人がいなくなりそうですわ。


 そんなことを思いながら少女を見つめていると、なぜか少女のこめかみ辺りがぴくぴくと動いていました。


 何をそんなに怒っているのでしょうか? まあ、言われていることはなんとなく分からなくもないけれど……。なんにせよ、このような方には関わらないほうが無難ですね。


「黙っていないで何とか言ったらどうなの!?」


 少女の罵声を無視して再び本を読みだした私のその本を少女は取り上げるように奪ってしまいました。


「あら……。本が無くなってしまいましたわ。どうしましょう?」


「本なんか読んでる場合じゃないでしょう! いつまでのほほんとしているつもりなの? あたしの将来は貴女の行動次第なのよ! ちゃんと仕事しなさいよ!」


 なぜ私が怒られているのでしょう? 仕事をしなさいと言われても、何の仕事なのでしょう? 今の私は学園に通う一生徒にすぎないですわよ。それに、この方の将来にも全く興味ないですし。


「いい加減にしてよね、ティルキナ。分かっているんでしょう!? 貴女はこの世界の悪役令嬢なのよ。もっとあたしを虐めなさいよ!」




 悪役令嬢―――



 

 ああ、そういえばそうでした。すっかり記憶の彼方に閉まっていたもので忘れていましたわ。

 

 そう、私はこの世界『悪役令嬢と守り人』とかいう何とも言えないタイトルの乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢こと、レフリスタ侯爵家長女ティルキナと申します。




 お見知りおきを―――






 さて、タイトル『悪役令嬢と守り人』にもある通り、このゲームは、エティラス王国の王都にある王立学園を舞台にして繰り広げられる、ヒロインに絡む悪役令嬢とそのヒロインを守る守り人こと攻略対象の殿方との戦い――確か、この戦いがなぜか落ちゲーのようなミニゲームだったのですわよね。悪役令嬢の口撃(こうげき)に対しヒロインがミニゲームを駆使して攻略対象の口撃力を上げるという、なんとも恥ずかしい名前のミニゲーム――でもあるのですが、その口撃で悪役令嬢からヒロインが守られるたびに攻略対象との好感度が上昇するというものなのです。

 その為ヒロインは、意中の殿方のいるイベント発生場所に行き悪役令嬢とのバトルを繰り返して好感度を上げ、その後に発生する恋愛イベントを成功させた後晴れてエンディングで結ばれる、というゲームですわ。


 そんな記憶を思い出したのは、確か10歳のころでしたわね。かといって、思い出したから何かがある、というわけでもありませんでしたけれど……。


 ただ、ふいにストンと落ちてきたのです。膨大な世界観とゲームの内容が……。

切っ掛けがなんだったのかまでは覚えていませんが、本当に突然「ああ……ここ、乙女ゲームの世界だわ」とぼんやり口ずさんだことは記憶しています。


 そうなのです。思い出したのはたったのそれだけなのです。


 前世の自分自身の記憶なんて欠片もないくせに、不思議と転生した、という自覚はありました。それをすんなりと受け入れる自分にも心底驚きましたが、焦りは全くと言って良いほどありませんでしたわ。

 だってこのゲームの悪役令嬢には、家を追い出され追放されるとか、最後は自分で命を絶つとか殺されるとか、そういう目を覆いたくなるような悲惨な最期は無かったのですもの。唯一あるのは、誰のエンディングでも婚約を破棄されるというだけ。


 そう、婚約を破棄されるのです。

 それも学園最後の卒業パーティーの最中に……。


 因みに今現在私には婚約者などいませんわよ。

 ゲームでもそうです。序盤はいないのです。なぜかヒロインのルートが確定するとその攻略相手との婚約が決まるのです。


 でもこれ、現実ではありえないことですわ。

 そもそも、誰が好き好んで破棄されると分かっている相手と婚約するというのです? 私はいやですわよ。そんな道化じみたまねなど恥ずかしくて出来ません!


 だからゲームの記憶がよみがえって最初に決めたのは、何もしないこと、でしたわ。だって、悪役令嬢が何もしなかった場合、攻略対象とのイベントは起こらないでしょう? 


 それを確信したのもここ最近ですが――――


 私も学園入学時は少なからず警戒はしていたのです。

 ゲーム期間は学園入学から一年間ですもの。関わらないと決めていても安心は出来ないでしょう? なぜかって? あれですよ。よくある強制力、というものです。


 私がいくら避けていても、偶然ヒロインと出会い自分の意志に反して激昂して口撃を仕掛けるのではないかと、そう危惧していたのですわ。


 でも、入学から半年。

 今まで何事もなく平穏無事に過ごせているという事は、強制力等は存在しない、と言ったところでしょうか。

 となれば、もう何も恐れることは無い。

 これから先も誰にも関わらず大人しく学園生活を送ればいいだけのことです。

 幸い、というべきか、今の私には誰も近づきませんからね~。このいかにも悪役令嬢というような顔立ちが、逆に良かった、という事でしょう。


 親しい友人がいないのはちょっと寂しいけれど、ゲーム終了時までは身を潜めていますわ。




 と、そう思っていたのに、どうしてここにきてヒロインが突撃してくるの? それも、私が転生者だって気づいているみたいだし………。


 いったい、どこで気づいたのかしら?

 とりあえず誤魔化して置いた方が良さそうだけど、誤魔化せるかな、私に……。


 ふぅと、どこか諦めのため息を一つ付くと、私はずっと睨みつけてくるヒロインに視線を向けました。


「貴女が何をおっしゃっているのか分かりかねますが、私が悪役令嬢なのですか? まあ、自分の容貌が悪役じみているのは自覚しておりますが、貴女にそう言われる謂れはありませんわよ」


「とぼけても無駄よ。貴女が転生者だっていうのはとっくに気づいているのよ!」


「転生者…ですか?」


 ちょっと困り顔で首を傾げてみましょうか。

 いかにもそんなことは知らないですわよ~と言わんばかりに。


「なに、『私はそんな事知らないです~』みたいな顔をしているの! あたしに誤魔化しは効かないわよ。貴女は転生者なの! これは間違いないの! だって、学園が始まってから一度もイベントが起きないんだもの! そんなことになる理由なんて一つだけだわ。貴女が転生者で、このゲームを知っているからに決まっているわ! そうよ、肝心の悪役令嬢が私を口…虐めてこないからイベントが起きないのよ!」


 あら、今口撃と言いかけましたわね。言いなおしたという事は、この少女もその言葉を口にするのは恥ずかしい、という事でしょうか?


 思わず、にやり、と口の端を上げて微笑んだら、なぜか青褪めて後退るヒロイン。目を合せたくないのか、しきりに視線を泳がし顔を強張らせるその姿に、ますます笑みが深まりますわ。


 ふふふ、さっきまでの勢いはどうしたの、ヒロイン。もしかして、その小動物のような姿があなたの本来の姿なのかしら? だとしたら、さっきまでの態度は思いっきり虚勢を張っていた、とか?


 まあ、そんなことはどうでもいいのですが、私に怒る理由が、ね。


 虐めないから……。

 イベントが始まらないから……。

 その理由が、私が転生者だから……。


 あながち間違ってはいませんが、私に憤るのは止めてほしいですわ。


「はあ……。貴女を虐めろと言われましても、虐める理由がありませんわ」


「あるでしょう!? ロスタリク様に近寄るな、とか、ケイラス様から離れて、とか、ナキレイド様は私のものよ、とか、いろいろ……!」


 えっと、最初の方から王太子殿下、宰相御子息、私のお兄様、ですか?


 まさか、具体的に名前が出て来るとは思いませんでしたわ。

 驚きです。

 まあ、確かにその御三方はかなり私とは近しい――王太子殿下は幼馴染、宰相子息はお兄様の御友人で公爵家の次男、お兄様は……はい、紛れもなく血のつながった私のお兄様です――間柄ですが、別に彼らがどこのご令嬢と仲良くされていたとしても、私は一向に構わないのですが………。


 というより、むしろ早く相手を見つけてください、と常々言っているのですよね、私。なぜか、皆さん苦笑浮かべていらっしゃいましたが……。


 それにしても、ここでその御三方の名前が出るという事は……。


「……その御三方が、貴女が攻略しようとしていた相手……なのですか?」


 でも、お兄様…って?


 前世の記憶と今の彼らの姿を頭の中に思い浮かべながら問いかければ、なぜかヒロインはとてつもなく輝かしい笑みを浮かべて私の手を取ってきました。


「そうよ! 隠しキャラ入れて6人いるうちの三人よ! あたしのお気に入りの相手なの! ロスタリク様は輝ける金の髪と深い青い瞳の端正な顔立ち。その性格も優しくて、包容力があって、なんといっても正真正銘の王子様! ケイラス様は、漆黒の髪と光を当てると金色にも見える薄茶の瞳の持ち主。すごく秀麗な顔立ちでケイラス様が微笑んだ時は、そのあまりの神々しさに一瞬で虜になったわ。そして、悪役令嬢のお兄様であるナキレイド様は隠しキャラでもあるんだけれど、これがまた素敵なのよ! 夕焼けの空のような赤紫の髪と青緑の瞳の少し吊目がちできつめの顔立ちをした青年なんだけどね、普段からとても寡黙であまり笑わないその彼が、目を細め柔らかく笑んだ姿はもう、一見の価値ありよ!」


 怒涛のように語るヒロインに、思わずドン引き。


 いや、そんなに熱く語ってくれなくても良いですわよ。

 知っていますし……。

 いや、ゲームで知っているというより、現実で良くその御三方とはお話しますし、ヒロインが言う貴重な微笑みも見たことはありますから……っ!


 全然、ときめきは感じませんでしたが―――


 喜々として私の前にしゃがみ込み、まるで同意を求めるかのようなヒロインに、思わず腰が引けてしまいました。


 それにしても、お兄様、隠しキャラでしたのね~。

 今の私にはそこまでの記憶はありませんから、前世の私はあまり入れ込んで遊んでなかったのでしょうか? ともかく新情報ですわ。あら、この場合、私の婚約はどうなるのでしょう? いくらなんでも、実の兄との婚約など出来ないですわよ。


「でもこれではっきりしたわね」


「何が、ですか?」


 少し落ち着いたのか、ヒロインが訳ありな笑みを向けました。


「貴女が間違いなく転生者ということよ。ああ、今更隠したって意味ないわよ。だって、言ったでしょう? 攻略、って」


 あっ………。


 言いましたわね。

 確かに……。


 というか、あれだけ興奮していて良く覚えていましたわね、私の言葉なんて……。まあ、今更声に出した言葉は取り消せないし、ばれたところで、問題があるわけではないし良い事にしましょう。


「本当にここまで長かったわ~。貴女が学園にいるのは入学した時から知っていたけど、イベントを起こそうと思っても、貴女は全然虐めてこないし、というより、イベント場所にいないしで……」


 ええ、ずっと避けていましたからね……。


「だから、探したの、貴女を! 誰も貴女の居場所を教えてくれなくてイライラしたけど、根性で見つけたわ!」


 いや、根性で見つけた、と言われても困りますが……。


「もう半年よ! 我慢の限界なの! あたしこのままだとエンディングが迎えられないじゃない!」


 そんなの私の知ったことではありませんわよ。


「なに、知らないふりしてるの! 悪役令嬢の貴女がヒロインのあたしを虐めないからここまであたしが苦労してるんでしょう!」


 そんなの知りませんわよ。

 なんなのですか、この方は……。


「だから、ちゃんとあたしを虐めてイベントを起こしてって、貴女に言うためにここまで来たの! このままだと、本当にゲームが終わってしまうからっ!」


 はぁ………。

 なんというか、ずいぶんと自分勝手な考えを持っているようで、他人の都合などお構いなし…ですか。


 本当にはた迷惑なヒロインですわ。


 どうしましょう―――











ありがとうございました!

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