異世界:王都到着
風が冷たく頬を叩く。
日が沈んできた。
これからもっと寒くなるだろう。
そういえば、この世界って元の世界での太陽にあたるものがあるんだよね。
分かりやすくていいけど。
どこからか獣の遠吠えが聞こえる。
あれは狼か?いや、魔物かもしれないな。
「よし、レン。目の前に見えてきたぞ。あれが、王都ヴェルディアだ。」
ファルクさんが声を上げる。
まだ先だが、やたらとデカい壁のようなものが平原の中にいきなり聳え立ってる。
なんだあれ。
「ファルクさん、あの少し見えている壁のようなものの中に都があるんですか?」
「あぁ、そうだ。あの壁は二重になっていてな。まず、最初の壁の内側に平民の地区があり、その内側に王族や貴族が住む地区になっているんだ。まぁ、行ってみりゃわかるさ。」
ファルクさんが歩く速度を速める。
置いてかれないように、と俺も急ぐ。ファルクさんはやたらと歩くのが速い。
……案外近いように見えて遠かった。
壁が見えてから優に一時間くらいはかかっただろう。
ようやく、壁の前にたどり着いた。
ここに来る前にイグニスには姿を消すように頼んである。
驚いたことにそんなこともイグニスはできた。それでいてどこにいても意思疎通ができる。
素晴らしいじゃないか。
さて、壁には巨大な門があり、銀色の甲冑をきた兵士らしき人が四名、入場を管理しているようだった。
「よし、通って良し。次の者!」
目の前の馬車が門の中へ入っていく。
規律正しく並んでるなぁ。あ、でもあそこで揉めてるやつもいるな。
どこの世界でもこういうとこは変わらないな。
「よし、次!」
それにしても馬鹿でかいな…こんなのどうやって閉めるんだろう。
そうぼんやり思っていると、俺たちの番がやってきた。
「おや、ファルクさんじゃないですか。珍しいですね。」
門番はファルクさんに向かって話しかけていた。
「あぁ、娘の為の薬を買いにね。」
「そうなんですか。もうすぐ闘技会があるから出場するのかと思ったんですけど…ファルクさんのファンは一杯いますからね!」
「あぁ、ありがとう。ただ、今回は出場しないんだ。また来年だな。」
「そうなんですか、残念です。」
「ふむ、そろそろいいか?後ろの奴らの迷惑になってしまうからな。」
「あぁ、失礼致しました。恐れ入りますが、規則なので証明証をお見せいただけますか。お連れの方もお願いします。」
いつのまにか、俺はお連れの方だ。
いや、事実その通りなんだけど。
「これでいいか。…それから、こいつは今証明証をもってないんだ。すぐに組合で作らせる予定なんだが。」
ファルクさん、言わなくても分かってくれてた!
俺、身分を証明するものなにも持ってなかったんだよ……
そわそわしてたから分かったのかな?
「あぁ、そうなんですね。……ファルクさんのお連れさんですから信用します。ただ、組合で作成ができましたら、一度こちらへ来ていただけますか。」
「そうするようにする。すまんな。面倒をかけて。」
「いえいえ、それではお通りください。」
ファルクさん、すげぇ。VIP扱いだな。
黒竜を倒せるくらいなんだからそりゃ有名だろうな。
あんなのを倒せるのがちらほらいるんだったら怖い世界だし。
ファルクさんについて門の中に入ると、目の前の光景に圧倒された。
「うわぁ……」
そこには異世界ものではありきたりな中世ヨーロッパくらいの光景が広がっていた。
但し、人の多さは現代なみではないだろうか。
なんていうか、アメ横みたいな感じだ。
あらゆる所に出店があり、色々な種族が行き交っている。
とても活気があり、さっきまでいた壁の外が嘘みたいだ。
「凄い…こんなに活気があるなんて。」
正直、王都とはいえ寂れたイメージを持っていた俺は呟く。
人恋しかったこともあり、若干興奮気味だ。
「ふふ、まぁ、王都だしな。……さて、それじゃ、ここで別れよう。俺の用事はちょいと急ぎなんでな。」
「あっ、すいません!ここまで本当にありがとうございました!」
「また、どこかで会えるといいな。そうだ、身分証ははやく作っておけよ。組合はここの通りをまっすぐ行ったとこだ。」
「なにからなにまでありがとうございます。また、どこかで……」
俺はファルクさんとがっつり握手を交わし、別れた。
短い間だったけどこの世界で初めてあった人がファルクさんで本当に良かった。
また、いい出会いがあるといいな。
さて、組合にまず行くか。
そう思い、ファルクさんに言われた通り大通りを真っ直ぐ歩いていると、一際大きな建物があった。
看板を見てみると、
『冒険者組合・本部』
と書かれていた。
…冒険者って…儲かるんだなぁ…
なんか建物の前にやたら立派な彫像とかあるし。
一時期骨董や彫刻に嵌まったことがあるから少し気になる。
少し挙動不審になりながらも、建物の中に入っていく。
中に入ると、街中ほどではないものの、かなりの人数がいた。
大きな斧を背負っている背の低い男性。ドワーフかな。
耳の若干長い金髪の女性は弓を持っている。あれはエルフかな?
緑色の鱗が腕や足に生えている人もいるな。なんていう種族だろう。
異世界にきたーって感じだな。
キョロキョロしていると『新規』と書かれた窓口を発見した。
役所みたいだな。
とりあえず行ってみると、栗色のショートカットで綺麗というよりは可愛らしい女性が窓口に座っていた。
「冒険者組合へようこそ。どのようなご用件でしょうか。」
うん、声も可愛らしいね。
「えっと、身分証を発行してもらいにきたんですけど…」
「他の町からいらっしゃった方ですね。それでは、こちらに必要事項をご記入いただけますか。」
そういうと女性はいろんな項目が書かれた紙を出してくる。
あれ?俺って文字を読むことやしゃべること出来るけど、こっちの文字かけないぞ?
俺が困っていると、
「書いていただく文字は自国の文字で問題ありませんよ?組合には特に色々な種族の方がいらっしゃいますから、用紙には特殊な魔法をかけてますので。」
この子はエスパーか。
ま、まぁ、それなら大丈夫か。
名前、年齢、性別、種族、住所など順に埋めていく。
ん?住所って…いいや。特になしにしよう。
…おや、冒険者登録をするか、否かの項目もあるな。
一応、する、にしとくか。楽しそうだし。
全て記入し終えて窓口の子に渡す。
「はい、ありがとうございます。それでは確認させていただきますね。」
そういうと用紙に手を当て、なにやら呟いたかと思うと、用紙がピカッと光る。
「ふむふむ、偽の記述はないですね。それでは登録を開始させていただきますね。」
? という顔をしていると、
「稀に犯罪者やこれから良くないことをしようと偽装して身分証を作ろうとする者がいるんですよ。これはその確認用紙なんです。」
そう教えてくれた。良かった、嘘書かないで…
「それでは本登録しますね。少々お待ちください。」
そういうと部屋の奥の方へ用紙をもっていく。
3分くらいたつと、1枚のカードを持って戻ってきた。
「お待たせしました。それでは、こちらが、身分証兼冒険者カードとなります。このカードに今から血を垂らしていただき最終登録完了となります。」
にこやかな顔で小刀を差し出してくる。
怖いな、おい。
まぁ、いっか。少し指の先を切り、カードに垂らす。
するとさっきの用紙のようにカードが光るが、その光もすぐに消える。
「お疲れ様でした。これで登録は全て完了です。カードの説明をさせていただきますね。」
「このカードは身分証にもなりますが、貴方のステータスを知らせるものにもなります。但しこのステータスは、自らのものはいつでも確認できますが、他人のものは、組合の特殊な設備または高レベルの鑑定スキルを持った人にしか確認することは出来ません。高レベルの鑑定スキルを持った人はこの国にも2人しかいないですから気にすることはないでしょう。」
「自分のステータスを知りたいときは、カードを持って表にして『ステータス』と唱えてください。スキルなどを確認したい場合は裏面にして『スキル』と唱えれば、目の前に浮き上がるようになっております。」
すげぇ技術だな。
「また、冒険者ランクも登録されます。現在はEランクですが、D,C,B,Aと上がっていき、最高はSランクまであります。冒険者ランクを上げる時には試験がありますので、ご注意ください。さて、これまでの中で不明な点はありますか?」
一気に話し終えた窓口の子はやりきった!という笑顔だ。なんか初々しいな。
「一般的な人のステータスってどれくらいなんですか?あとどんな項目があるんでしょうか」
やっぱり平均は聞いておかないと。
「ステータスには、レベル・体力・精神力・魔力・筋力・敏捷・器用・運などがあります。 基本的にはレベル1~20が初心者、レベル21~40は中堅、レベル41~がベテランの域になります。」
「王都での最高レベルってわかるんですか?」
ちょっと気になったので聞いてみると、
「ここでの最高レベルは、90レベルですね。Sランク冒険者のミルディア氏です。ミルディア氏は王都の近衛騎士長でもあります。」
ほー。すごい人がいるもんだな。
恰好いいな。近衛騎士長とか。
「ちなみに同じく90レベルにはファルク氏がいらっしゃいます。ファルク氏は当組合員ではないものの、ミルディア氏に勝るのではと言われている猛者です。巷では剣鬼というあだ名が広まってますね」
…やっぱりファルクさん凄い人だったんだな。
黒竜倒した時も傷一つなかったし。
剣鬼とかぴったり……
そう考えてると女の子は続ける。
「ステータスに関しては、人それぞれな点があるので、何とも言えませんが、冒険者初心者さんの間では値が100を超えるのが中級になる目安、と言われてますね。」
ふぅむ。まだ自分のを見ていないから高いか、低いか分からないな。
こっから出たらすぐに確認してみよう。
「他になにか聞きたいことはありますか?」
「いえ、特にありません。ありがとうございました。」
「そうですか。それでは今後の貴方の冒険に幸多からんことを!」
気合の入った祝福の言葉をもらい、組合を後にする。
あっ、あの子の名前聞き忘れた!!可愛い子だったのに。
次に来る時には聞いておこう。
今はそれよりもステータス・ステータス。
ちょっと人のいないとこに行くか。
知られる可能性は少ないだろうが用心に越したことはない。
人気のなさそうな裏路地を探して、少し隠れたかのようになりながら、さっき教えてもらったステータス開示の方法を試してみる。
「ステータス!」
少しずつ書いてます。更新遅くて申し訳ございません。