異世界-王都へ-
「先ほどは有難うございました! 本当に助かりました!」
「どうやら、怪我はないようだな。それにしても災難だったな、まさか黒竜と出あうとは。」
お礼の言葉を述べると、その男性はこちらの状態を確認し、少し憐みの目で見てきた。
あれ、やっぱりあんなのと出あうのって珍しいのか。
「すいません、俺、ここら辺に全く詳しくないんですけど、あんな竜が出るのって良くあることなんですか?」
「いやいや。ここら辺は竜どころか魔物が出ることさえ珍しい場所なんだがな…竜が出ることなんか何十年振りじゃないか?……これもあの影響か。」
あの影響?
男性が言っていた言葉に首をひねる。
「いやな。最近噂で勇者が魔王にやられたってのを聞いたからそれが影響してんじゃないかと思ってな。」
あっ、そうか。この世界ってそんな状況だったよな。
「ふむ、それはそうとして。坊主の名前はなんていうんだ? 俺はファルクっていうんだが。」
「あっ、すいません。名前すらまだ言ってなかったですね。」
命の恩人に対してとても失礼なことをしていた。
「俺は蓮って言います。ファルクさん、改めまして、本当に有難うございました。」
「おう、まぁ気にするな。たまたま居合わせただけさ。」
そういうと、ニカっと笑うファルクさん。
うーん、獲物を前にした猛獣のような笑みだ。でも何故か安心できる。
「それにしても、レンは何であんなとこにいたんだ?旅をするような格好もしてないし。」
ファルクさんの発するレンって響きがなんか違う。
あれ、そういうえば、何で普通に会話で来てるんだろう。日本語……じゃないよな?
まぁいいや。意思疎通がしやすいのはいいことだ。
それにしても、いきなり異世界からきましたっていうのもおかしいか。
「どう言えばいいのか……俺も気が付いたらこんな場所にいて。ここがどこだかも分からないんですよ。」
うん。嘘は言ってない。
「気が付いたらって、ここに来る前の記憶とか飛んでんのか。それにしては自分のことはわかるんだろう?」
ファルクさんの言葉に対してうなずく。
傍から見たら怪しいことこの上ないよな。
何の装備もしていないやつが人気のないとこで、黒竜に襲われてるとか。
ただ、ファルクさんはそんなことお構いなしのようで。
「ん~、まぁそのうち思い出すだろう。俺はこれから王都に向かうところなんだが、付いてくるか?」
「ぜ、是非! 一人じゃ不安で仕方なかったので……」
有難い! 竜なんて倒せる人についていけばよっぽどのことがない限り安全だろう。
「よし。そんじゃ付いてきな。……あぁ。なんか坊主にくっついているやつも一緒に連れてってやる。さすがに王都に入る際には首輪をしなきゃだが、な。」
ふと振り返ると俺の腰のあたりうイグニスがくっついていた。
初めてみるこの世界の人にびくびくしているようだ。
可愛いな。
「…イグニスです。よ、よろしくお願いします……」
消え入りそうな声でファルクに向かってイグニスが答える。
「ほう、珍しい。しゃべることができる竜か。まぁ、宜しくな。」
ファルクさんはそう言うや否や黒竜の爪と牙を背負っていた袋の中に入れ、歩き始める。
遅れないように俺も付いていく。
あぁ、女神様。なんとか今回も生き残れました。有難うございます。
でも波乱万丈な人生は求めてないんだけど…
と、ぼんやり歩いていると、ファルクさんに怒られた。
「おい! 急ぐぞ! このままだと王都につく前に夜になっちまう。」
「はいっ、すいません! 今行きます!」
俺たちは王都へ急いだ。