異世界:蜥蜴さん
拝啓
女神様
如何お過ごしでしょうか。
ワタクシの友人たちは幸せに過ごしてますでしょうか。
また、あの得難き最高の友人たちのような存在ができるよう加護をください。
今、目の前にいる漆黒の鱗を持った巨大な蜥蜴さんは友達になるのは難しいと思うんです。
できるだけ早く。
今すぐにでも。
加護を!
「ま、ますたー」
「グルルルルゥ」
泣きそうな声と唸り声が聞こえる。
泣き声は俺の相棒兼ペットのイグニスだ。
「マスター! 逃げましょう!!」
イグニスが尻尾を丸めブルブル震えながら叫ぶ。
うん、分かるよ。俺も震えているもの。
でも、言わせて。
「こら!? イグニス! お前名に恥じない働きをするんじゃなかったのか?」
「で、でもボクのブレスが全く効かないんです!」
「グルルルァッ」
「あぶねっ」
唸り声の主はそんな俺らのやり取りを黙って見ていてはくれなかった。
目の前を巨大な火の玉が通りすぎる。
よ、良かったぁー。
あれ当たったら骨も残らないだろ。
現に最終的にぶつかった岩が溶けてるし。
「よ、よし、とにかく、逃げるぞ!!」
イグニスに向けて叫ぶとともに、とにかく逃げる。
黒い蜥蜴さん=黒竜は飛んでくるのかと思ったら、でかい牙が生えた口を開け走って追ってくる。
昔見た恐竜映画の一シーンみたいだ。
さすがに、人里に向かって走るのはまずいだろうなぁ……と思いながらしばらく爆走していると、途中何度か自分の周りに火の玉が飛んできたが、なぜか自分には当たらなかった。
もしかしたら、あいつは逃げ回る獲物を見て遊んでいるのかもしれない。
くそぅ……むかつくなぁ。
そう思っていると、また火の玉が飛んできた。
今度は目の前の地面にぶつかり暴散する。
「うわぁぁぁっ」
直撃こそ避けたものの、めちゃくちゃな熱風が顔を叩く。
あぁ、これ、もう駄目かな。仕留めに来たのか。
異世界転生後すぐこれとか運命酷いな! 女神様、酷いよ!
イグニスは大丈夫かな。途中ではぐれちゃったけど…生まれたばかりでこんなことになって可哀そうだったなぁ。
女神を恨みならがほぼ、生を諦めかけていたその時、耳元に響くくらいの声が聞こえた。
「そこの奴! こっちに急いで来い! 黒竜がまだ狙ってるぞ!」
顔を上げると100メートルくらい先のところに大柄な男性がいた。
えっ、あんなところから今の声聞こえてきたの?
混乱した頭でそんなことを考えていると、
「ぐるぅぅぁぁぁっつ!」
「はやくしろ!」
黒竜の唸り声と男性の叫びが。
その声に、とにかく無我夢中で走った。助かるかもしれない。
そう思いオリンピック選手より速く走ったんじゃないかと思えるくらい頑張った。
そうして何とか、男性のところまで辿り着く。
「よ~し、よく走った! あとはこっちに任せな。」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
そう言い放つと共に男性は背負っていた馬鹿でかい剣を片手で持ち、黒竜に向かって走り出した。
俺は限界を超えて走ったせいで息も絶え絶えになりながら、その男性を見ていた。
すると、黒竜が男性に向けてさっきの火の玉よりも出かいものを吐きかけようとしていた。
「あ、あぶないっ!」
俺は叫んだ。そりゃそうだろう。あんなものどうしようもない。
だって、岩でさえ溶かす火の玉だよ?
人がどうこう出来るわけない……
と思っていました。一瞬前まで。
その男性はフンッと気合一閃、剣を振りおろすと黒竜が吐きだした火の玉と共に、黒竜自体を真っ二つにしてしまっていた。
「うっそぅ・・・」
俺が驚きに固まっていると、いつの間にか俺の目の前に来ていたイグニスが謝ってきた。
「ま、マスター、ご無事で…!すいませんでした……」
「いや。あれは仕方ないよ。あぁ、でもイグニスも無事で良かった。」
「ますたーーーー」
俺の胸にしがみつき泣きじゃくるイグニス。
仕方ないよな。まだ生まれたばかりだし。それにしても可愛いな。こいつ。
「坊主、大丈夫だったか?怪我はどうだ?」
背後からの声に振りかえると、そこにはさっきの黒竜の牙と角を持った男性の姿があった。