-田舎村-ファルク編
「さて、行くかな」
男は窓から外を眺めつぶやいた。
まだ、外は暗いがもうすぐ日が昇る時間だ。
「ルイ、大人しく留守番してろよ?美味しいもん、買って帰ってやるからな。」
窓から目を離し、振り返って目の前の小さい女の子に話しかける。
「うん! お父さん、気をつけてね! 最近夜はバルムやルドなんかが群れてるって村長さん言ってたから。」
ルイは父親に心配そうに声をかける。
「おお、ありがとな! それじゃあ、行ってくる。」
心配してくれる娘も可愛い、と親馬鹿を全開に、ニヤニヤしながら家を出る。
ガタイの良いおっさんのにやけ顔は気持ち悪いが、指摘するものはいない。
「おや、ファルクじゃないか!なんだ、こんな早くから。」
「よぉ、その声はガンツか。今日も朝っぱらから釣りか?どうだ、釣れたか?」
草藪から釣竿を持った男、ガンツと呼ばれた男はニカッと笑みを浮かべながら右手で籠を上げる。
「大量だ!最近じゃ珍しいくらいに釣れたな。あとでお前んちにも寄ろうと思ってたんだがな、どこか行くのか?」
「ああ、今日は王都に行こうと思ってな。そろそろ薬を買いにいかなきゃならん。」
ファルクは歩みを止め、ガンツに向き合い答える。
村から王都まで、どんなに早くとも二日はかかる。
薬の残りがあと二十日分しかないため、少しでも余裕のあるときに買いに行こうと考えたのだ。
その間ルイを家に置いたまま、というのは心配ではあるが、竜種がでる危険のある森を突っ切らなければならないため、一緒には連れていけない。
万が一ということがある。
「なるほど、ルイのためか。しかし・・・お前さんも変わったなぁ。剣鬼と呼ばれたお前が、いまや優しい父親にしかみえん。」
そう、薬はルイのためのものだ。
ある病にかかっており、毎日薬を飲まなければならないのだが、特殊な薬のため、王都でしか売っていない。
「今まで家庭を顧みなかったからな。そのせいで、あいつは死んだ。だからルイには出来る限りのことはしてやりたいんだ。」
少し悲しい目をしながらファルクは少し昔を思い出す。
「そうか、そうか。ふむ、お前が都から帰るまではちょこちょことルイの様子を見といてやろう。うちの息子もルイのことを妹のように見ているからな」
ガンツはそういいながら、ファルクの背中を軽く叩く。
「ありがたい。そうしてくれるか。」
「あぁ、安心して行ってこい。ただ、出来るだけ急いでな。儂も飲み相手がいないとつまらん。」
「ははは、家で飲み過ぎて嫁さんに怒られるなよ?」
それじゃあ、と二人は手を上げ、別れる。
少し時間は取られたが、家のことを安心できる者に任せられたことに気は楽になっていた。
なにせ、少し前に救世の英雄、勇者と呼ばれた者が魔王に殺されたと風の噂に聞いていた。
その頃から魔物が増え始めている。
「さて、少し急ぐか」
夜になる前にある程度安全な場所まで進んでおきたい。
ファルクは王都に向け、少し速度を速めた。
今回は蓮とは違う視点から。この後物語は少しずつ動き始めます。