異世界での目覚め・相棒
「ますたー。」
んんっ、なんか子供の甲高い声が聞こえる。
「マスター!」
うるさいなぁ、起きますよ。
「んっ、眩しいな。」
伸びをして起き上がりながら目を開けようとすると、あまりの眩しさに若干目がくらんだ。
「あっ、すいません!」
そんな声がすると周囲の光が段々弱くなっていく。
すると、目の前には頭の上に2本の角を生やした小さな赤い竜が浮かんでいた。
なんていうんだろう。某携帯ゲームとかでデフォルメされた竜みたいな姿だ。
「うおっ!? なんだ!?」
「マスター、おはようございます。ご気分は如何ですか?」
こてんと首をかしげながら、その竜は俺に対して尋ねてくる。
やたら愛くるしい。
「マスターって、俺のこと? お前は何?」
どうやらこちらに危害を加える様子はない。
だが、それにしても目が覚めたら竜とか、危険信号出まくりで当然だよな。
「マスターとは貴方様のことです! 私の主様です! あの時、私を選んでくださったでしょう?」
選んだ? 何を言ってるんだ。俺はこんな竜なんぞ選んだ覚えは・・・・・・
「あっ、もしかして、あの女神んとこで選んだオーブのことか?」
それしか覚えがない。
「そうです! あのオーブの力の結晶がこの世界で私を形作りました。ですから、貴方は私のマスターです!」
竜は犬のように嬉しそうに尻尾をブンブン振り、俺の頭上を飛び回る。
「特典って、よくある能力向上とかのチートじゃなく、この竜のことだったのか。」
少し自分がチートで無双をすることを夢見ていたので、若干ショック。だって、異世界転生ってそういうものじゃない?
「マスター、どうかされました?」
こんな円らな瞳で見られたらそんなこと言えないよね。俺、動物大好きだし!
「いや、何でもない。それにしても、ここはどこ?」
自分が死んで、女神に別の世界に転生してもらったところまでは覚えているが、今どこにいるのか全く分からない。
周囲は樹木で囲まれており、草が生い茂っている。
遠くのほうには少し人がいるような明りが見えるが、定かではない。
こんなところで寝ていてよく無事だったな。
「ここって、魔王とかいる世界なんだよなぁ。んじゃ魔物とかもいるだろうし。」
転生しました。目が覚める前に魔物に食われて死にました。
<おおっ勇者よ。死んでしまうとは情けない>ってならなくて本当に良かった。
あれ、そういやこの世界の勇者って死んでるんだっけ。
「ご主人様が目が覚めるまでの間、僕が周りを見ていましたけど、魔物は来ませんでしたよ? 来たって僕がやっつけるのでご安心ください!」
色々考えていると、竜が頭上でボッと火を吐きながらそんなことを言った。
「あ、あぁ、ありがとうな。」
若干吐いている火に驚きながら、一応お礼を言っておく。
「それにしても、まずは、どっか人がいるところに行くのがいいよな。こんなとこにいたら何時魔物に会うかわからないし。」
「魔物がきたら僕が倒します!安心してください!」
うん、さっきも言ってたね。頼もしい。頼もしいんだけど、俺は生身なわけで。
魔物よりも人が恋しいんだよぉぉぉ
魔物にすぐ遭うとか怖いから!無理。絶対。
「あぁ、そういえば、お前の名前ってなんかあるの?」
今更だが、竜の名前を聞いていなかったことに気付いた。あれ、そういや竜も魔物の一種か?
「ないです! ですから、もし宜しければマスターが付けてくださいませんか?」
そうでもなかった。あんな目ができるやつが魔物なわけがない!ペット枠だ。
しかも、俺に名づけろときた。
俺ネーミングセンスないんだよなぁ。大体どっかのパクリになっちゃう。
「んー。じゃあ、イグニス。どっかの神様の名前だったよな」
やっぱりパクリだ。
「ありがとうございます!! 名前に恥じない働きをしてみますね!」
そんな俺の内心に気付かず、イグニスは喜んでくれた。
どうやらこの竜は本当に俺を助けてくれるようだ。
新たな世界の始まりに頼もしい相棒ができた。
さぁ、街を探そう。