現実は酷いものだった。
――――あぁ。 思い出した。
俺、死んだな。 確かに。
あれ、待って。 俺、なんか意識あるんだけど。
でも、さっきから誰も俺に気付いてないし、俺の身体あそこにあるし。 これが幽霊ってやつか? 地縛霊にはなりたくないが。
それにしても、裕也も穂香も由愛も無事でよかった……まぁ、裕也は大怪我のようだが。
未だに俺が死んだことに対して、泣き叫んでいる三人を見ているのが辛くなった。幽霊も辛いんだな。
俺も本当は死にたくなかった。でも、あの時はあぁするしかなかったし。俺の頭がよかったら、もっといい方法が取れたかもしれないけど……
「いえ、あれが一番いい結末よ?」
ん? なんか聞いたことのある声が。
「あれ、見えないのかしら。 うーん、ちょっと待ってね。 よいしょっ、と」
その掛け声と共にポンっと目の前に現れたのは、銀色の髪をしたスタイルのいい女性だった。
ただ、背中に羽が生えている。
「どう? 見えてる?」
「えっと。 凄く美人なんだけど、翼を生やした女性が目の前に。 えっ、天使?」
俺が戸惑いながら答えると、目の前の女性は苦笑いをしながら、
「うーん、そうねぇ。 この世界の特に日本で呼ばれる天使とは若干違うんだけど。 どちらかというと神様……かな?」
と首をかしげなら言ってきた。
「……あぁ、俺を迎えに来たんですね。こういうのって本当にあるんだ。臨死体験の話、馬鹿にしてたよ」
奇跡体験●●ビリーバボー。 もっと見ときゃよかった。
「あ~。 この世界では神との結びつきは少ないからね。 人が死んだときくらいしか会うことが出来ないし。 運よく仮死状態から生き返った人が色々伝えたのかもね」
そういうことだったのか、と死んだ後に納得できても仕方ない。
「それで。 貴方の今後なんだけど。」
急に真面目な顔をして、目の前の自称神様は話しかけてきた。
「本来だったら、貴方は死ぬ運命になかったのよ」
いきなり衝撃的なことを発してきた。
「はい?」
「……今回本当は貴方の友人三人が死んで、貴方だけ生き残るっていうのが本来の予定だったのよ」
「それが何で俺が死ぬことに?」
「それがねぇ。 こことは違う世界。 それこそ、貴方たちがよく読んでいた漫画やゲームの中の世界によく似たとこなんだけど。 そこでね? 勇者って呼ばれた存在が魔王に殺されちゃって。 しかもその魔王がその世界の神を一柱封印しちゃったのよ。 驚いたわ」
「はぁ、それが何で俺が死ぬことに繋がるんですか?」
「えぇ、本来全ての人間の魂はメビウスリングってものに乗っていて、運命にズレがないように担当が見張っているんだけどね?」
……なんかいやな予感が。
「ビックリした拍子に貴方をそこから動かしちゃったのよ。 慌てて戻そうとしたんだけど、なんか勝手に運命が分岐しちゃって戻せなくなっちゃった。 普通ならそんなことないのに。」
俺が目の前の女神を見ている目が冷たくなってきているのに気付いたのだろうか。
女神はうっすら額に汗をかきはじめている。 てか神様でも汗はかくのか。
「そ、その分岐した中では今回の結末が一番いいものだったのよ。 貴方がこっちを選んでくれて助かったわ。 これで、何とか辻褄合わせができる!」
「このくそ女神! 俺が死んだのってあんたのせいじゃないか!」
「そ、そうは言うけどっ、貴方、あの三人が運命通り死んじゃってたら、死ぬまでほぼ廃人のように生きることになってたのよ!? 目の前の三人を助けられなかったって悔やんで。 今回の方がよっぽどよくない??」
「くっ」
説得力がる。あいつらが目の前で死んでたらそうなっていただろう。
「まぁ、それでも私も悪いと思っているわよ。 だから、魂もそのままにしている訳だし。」
バツの悪そうな顔をして、そうのたまう神。
「そうか。 それで、これから俺はどうすればいいんだ? 幽霊でずっといるのか? それとも転生でもさせてくれるのか?」
神に対する言葉遣いではないが、あんまり気にしないみたいだ。
「貴方次第ではあるのだけど」
そう前置きをして、神は続ける。
「今さっき話をした世界に転生することになっているわ。 いやっそんな目で見ないで!? 勿論ただ転生させるだけじゃなくて、色んな特典をあげるわよ!! さすがにただ死にに行けとは言わないわ」
神に匹敵する力をもった魔王がいるところに転生とか聞いて、じとめで見たことが効いたのか、割といい条件らしい。
「このまま幽霊でいても辛いだけだしな。頼むよ。」
「決めるの早いわね。」
すぐ決断したことに若干目を瞠ったようだ。
「正直憧れている部分もあるしな。剣と魔法の世界だったりするんだろう?」
「まぁ、そうね。魔物もいるし。さぁ、じゃあ早速特典をこの中から選んで。」
そういって神が懐から取り出したのは、虹色に光り輝くオーブが五つ。
「この五つの中から自分の好きなものを選んで。残念ながら何が当たるかは、メビウスリングから外れた貴方のものは分からない。」
「まぁ、何が当たってもある意味運命だとは思うけど。」
ぼそっと最後に呟いたのが本音のようだ。
そう言われ、俺は五つのオーブの前に立ってみた。すると一際強い輝きを持ったオーブがあり、それに惹かれて持ちあげてみる。
「これにする。なんか輝いてるし。」
「ん、それでいいのね?じゃあ、魂と合わせるわね。よっと。」
神は俺にそのオーブを押し当てると、目を閉じて念じ始めた。
するとオーブはすぅっと俺の身体の中に入り込んでいく。
「これでよし、と。効果は転生先で現れるから。さて、それじゃあ、早速だけど、その世界に転生させるわよ?準備はいい?」
「あ、ちょっと待ってくれ。2つほど願いがあるんだが……聞いてくれないか?」
「うーん、私が今できる範囲でなら。何?」
「一つは、俺のこの姿のまま転生させてほしいということ。」
この姿は結構愛着があるんだ。まぁ、容姿がいいわけでも何でもないんだが。
「あぁ、それは大丈夫。元々そのつもりだったしね。今の世界は生まれてすぐの赤子には厳しい世界だから……」
「くっ、怖いことを聞いたな。じゃあもう一つ、あの三人に俺は死んだけど、お前らは幸せに生きてほしい、そう願っていると何らかの手段で伝えてほしいんだ。神様だからできるだろ?それくらい。」
「えぇ……出来るわ。分かった。必ず、伝えましょう。」
「そっか。んじゃ、転生させてくれ。もうこれ以上あいつらの泣き声は辛すぎて」
神と話している間もずっと泣きやまなかった三人。
あぁ、俺は本当にいい奴らと生きてこれたんだという実感が湧いてくると共に、悔しさと寂しさもやってきていた。
あいつらともっと生きていたかった。
「じゃあ、行くわよ。――今回の件、本当に悪かったわ。少なくともあの三人が幸せになるように見ていてあげる。あと、今後の貴方の生が素晴らしいものになるように」
「あぁ、頼むよ。」
段々と周りが白い光で満たされていく。
「あっ、そういえば…… あんた、いや、神様の名前は……?」
光で女神の姿が見えなくなりかけながらも声が響く。
「――私の名はアローラ。運命を司る神。」
そして光が弾けた。