非日常
「ぎゃぁぁぁあああああっ」
突然すぐ近くから悲鳴が聞こえた。
「な、なんだ!?」
俺たちが悲鳴の聞こえた方を向くと、そこには血を流して倒れている人が一人と、異様な目をして手に血の付いた日本刀らしきものを持っているスキンヘッドの男がいた。
俺たちから50メートルも離れていない。どこから出てきたんだ!?
「おいおいおい、やべぇよ! こっちにくるぞ…逃げろ!」
裕也はそれを見るなり叫んで行動に移そうとする。俺も逃げようと隣にいた穂香と後ろにいた由愛を見ると、
「ど、どうしよう、あ、足が動かない……」
「せ、先輩……」
穂香と由愛は腰を抜かしたかのように怯えて動けないでいた。そりゃそうだろう。俺も怖い。
慌てて俺は穂香を、裕也は由愛を引っ張り左右に分かれて逃げようとするが、如何せん人を抱えた状態では早く走れない。
くそっ、なんでちょうどこんな場所で!!
俺たちの今いる場所はちょうど家や店が途切れた空白地帯だった。
逃げ込む場所がない!
そうこうしている内にスキンヘッドの男は奇声を発し、日本刀を振り回しながら近づいてくる。
「裕也! 避けろ!!」
左の道のほうへ逃げていた裕也にスキンヘッドの男が日本刀を振りかぶる。
ブンっ
バットを思いっきり振った時のような音がした。
手加減なんかしてない。本当に殺す気だ。
スキンヘッドは思いっきり振り過ぎたせいか、転んでいる。
由愛を担いでいた裕也はなんとか俺の声で反応することができ、避けられたようだ。
ほっとした、と思っていたら裕也は右足を抱えて蹲っている。
避けきれてなかったのか!!!
スキンヘッドは体勢を整えて近くにいた人を襲おうとしている。
「うわぁぁぁ、こっちにくるな!」
通りがかりの男性のようだ。カバンを振り回し、逃げていた。
「穂香っ、動けるようになったか!?」
「う、うん、大丈夫!」
「裕也が切られたみたいだ。 助けに行ってくる!」
「えっ!? む、無茶はしないで!」
穂香は泣きながら言ってくるが、問答している時間ももったいない。
いつスキンヘッドが裕也に向かうかわからない。
震えていた穂香を地面に下すと、俺はスキンヘッドを刺激しないように裕也の方に近づき、声をかける。
「裕也! 由愛! 逃げるぞ!!」
裕也は足から夥しい出血をしながらも頷き、「悪い」と一言、由愛はただこくこくと泣きながら頷くのみであった。
火事場の馬鹿力だろうか。
何故か二人を担ぎ上げることができ、穂香の傍まで、運ぶことができた。
あと少し走れば家がたくさんある。どこかに逃げ込めば大丈夫だろう。
「よし、早く逃げよう!」
そう声をかけた瞬間、
「蓮!! 危ない!!」
振り向くと、銀色の刀身とスキンヘッドのにやついた顔が目に飛び込んできた。
ズバッ
(あぁ、日本刀で切られたときって本当にこんな音がするんだなぁ)
首から胸にかけて焼け付くような痛みと、何かが無くなっていくのを感じながら感心していた。
「いやぁぁっ、蓮、蓮!!」
「くそ! 来るな!」
「誰かっ!! 助けて!!」
「あぁはははぁっ」
スキンヘッドは俺を切っただけじゃ飽き足らず、他の三人をも手にかけようとしていた。
「それだけは――させない!」
どうやらさっき襲われていた通行人の男性は逃げ切れたようだ。姿が見えない。助けを呼んでくれていればいいのだが……
自分は死ぬだろう。足元は血だまりになっている。
もう、さっきまで感じていた痛みもなくなっている。
だけど、あの三人だけは。
「……く、そ」
スキンヘッドに抱き着き、身体を倒す。
同時に、血と共に力が抜けていく中で、それでも全力でスキンヘッドの足首をひねり、折る。
ボギッ
「ぐぁぁ!! ぎゃあぁぁぁ!」
「ざまぁ……みろ……」
スキンヘッドは足首を押さえ転がりまくっている。
この隙に皆逃げられるだろう。
やり遂げられた。
「……ふぅ」
安心した途端、目の前が真っ暗になってきた。
(あぁ、死ぬのか。 仕方ない、か。 あいつらが無事だということでよしとしよう。 ……そういや、生まれ変わりってあるのかなぁ)
そんなことを思いながら、俺の意識は完全に暗闇に沈んでいった。