日常
事の起こりは、三時間前。
学校帰りに部活のメンバーでどっか遊びにでも行くか!ということになり、遊び場所を話ながら歩いていた。
いつも通りなら漫画喫茶直行だ。一般的な漫喫の設備は完備。それに加え、カラオケ・ビリヤード・ゲーセン全てがついている素晴らしい場所だ。
ちなみに俺の入っている部活は、漫画研究部。運動が苦手なわけではないが、昔から漫画やゲームが好きだったせいで迷わず飛びこんだ。
それにしても、よく学校認めたな、こんな部。
「そういや、そろそろ試験勉強はじめなきゃいけないよなぁ」
部長であり、俺の幼馴染の一人、裕也がそんな事を言い出した。
今から遊びに行こうってやつの話じゃないな。
「そうねぇ。 私は大丈夫だけど、貴方達、成績悪いものね。」
ちょっと上から目線なのが気になる言葉を発したのは、これまた幼馴染の一人、穂香だった。
「む…… 失礼な! 英語の成績は最低評価だが他はそれなりだぞ?」
俺がそういうと、裕也も続く。
「そうだそうだ! 穂香の頭の出来がおかしいだけだ!」
事実、穂香は全国模試で毎回十位以内に入っている秀才だ。ここで天才と言わないのは悔しいからではなく、本当の天才を知っているからだ。
「……先輩たち、本当に仲がいいですね。 羨ましいです。」
その天才であり、後輩である由愛が、後ろから、こちらを見て微笑んでいた。
「いやぁ、俺は由愛が羨ましいよ。スポーツ万能・成績全国トップ、容姿は可愛すぎって…… 天よ! 俺に少しでも才能を与えてくれよ!」
一番成績が悪く取柄のない俺がそう呟くと、
「そ、そんなことないです!私なんか……」顔を真っ赤にして俯く由愛。
由愛は天才ではあるのだが、極端な人見知りだ。どちらかというと恐怖症に近い。
そんな由愛が懐いてくれているのは、入学式の時、その容姿から色んな男に言い寄られているところを助けてやったのが理由だろう。
以前、それとなく少し聞いてみたら、それだけではないらしいが。
そんな俺を含めた四人は部の中でも特に仲がよく、ちょくちょくと一緒に遊びに行っていた。
裕也と穂香は俺が物心つくぐらいの頃からの遊び仲間だったし。
実は俺は孤児だった。
生まれて間もなく孤児院に預けられたらしい。
とはいうものの、不幸だったわけではない。
そこの院長がとても優しい人で、自分の本当の子供のように俺や他の孤児たちを育ててくれた。
住民にも慕われており、俺たちは街のイベントにもよく参加していたのだが、そんな時に裕也と穂香出会い、今まで学校も一緒だった。
この二人と出会ったことで寂しさなどとは無縁だったのは幸せだったな。
ん~何で俺こんな回想してんだろうなぁ。
由愛の真っ赤な顔を見て、昔のことを少し思い出しながら笑っていると、ふっと意識が急に遠くなる。
「うおっ、何だ……?」
倒れそうになるのを必至で堪えると、聞いたことのない女性の声が聞こえてきた。
「今、運命がいくつかに分かれた。貴方は死ぬけど、他の全員が助かる道。貴方は助かるけど、他の全員が死ぬ道。そして、誰も助からない道。……時間はないわ。決断して。」
声が終わると、意識も次第にはっきりしてきた。
「なんだったんだ、一体」
「ん?蓮、どうかしたか?」
「いや、急に意識が飛んで、何か変な声が聞こえてきてさ。あれ……?何だったかな。女の人の声だったと思うんだが……」
そう伝えると、裕也と穂香は可哀想なものを見る目つきで俺を見始めた
「蓮……ついに白昼夢で女を見るように……人生イコール彼女いない歴だもんな。仕方がない、か。」
「駄目よ、蓮。二次元の女の子をこっちに持ってきちゃ。確かに二次元では可愛い子が多いけど、ちゃんと三次元に恋しなさい? こんなに近くに可愛い子が二人もいるんだし!」
「えっ、由愛が可愛い子なのはわかるけど、あと一人ってどこに?」
キョロキョロ見回すと穂香は少し顔をひきつらせて、
「ふーん、いい度胸ね。そんなに殴られたいのね?」
「嘘です!! 超絶美少女の穂香様! 穂香様と幼馴染で私はなんてついているんでしょうか!」
「そうよね~。裕也もそう思うよね……?」
「えっ!?も、勿論だ!」
飛び火した裕也は汗をかきながら答える。そんな俺たちを後ろから由愛がくすくす笑っている。
「あぁ、こんな日がずっと続けばいいのに。」
俺は心からそう思った。