イマドキのサンタクロースは煙突から入らない!
24日、25日のうちに書ききる
日本の家屋から煙突は消えた。
とは言うものの、西洋の暖炉に比べて煙突の頑丈さが欠けるので、昔からあの侵入ルートを選択する同僚は少なかったのだが。
赤い服をまとったその男は、その家の窓の前に降り立った。
離れたところでトナカイが待機している。庭の影を選び、隠れるためにそそくさと歩いて行った。
訓練を積んでいるため、気配を殺すこともできる。
「………赤服七つ道具」
男が取り出した―――
「『窓切りカッター』」
―――手の平サイズの小刀に見えるそれ。
静音で動作する超振動ブレードで窓に穴をこしらえながら、男は手紙の内容を思い出した。
フィンランドの本社に送られてきたたくさんの、子供たちの手紙。
その中から、一つを選びここに来た。
プレゼントはこれがいいです、というような内容まで書いてあった。
ご丁寧に、自分の家の住所と、僕の部屋はここですという侵入ルートの図説まで書いてあった。
この窓から入ってください、という指示も。
文法がややめちゃくちゃだったが、英語バージョンの文章もあった。
日本語では通用しないのでは、という理由からだろう。
(ちなみにフィンランドの公用語はフィンランド語とスウェーデン語である)
こちらの業界にはもうやり方があるので、子供たちのその手紙には、あまり意味はない。
しかしぜひともそういう、夢を信じる子供の顔は見ておきたいものだ。
窓切りが終わり、穴からそっと手を入れて錠を回す。
闇夜の中で聞く音が、男はなんだか好きだった。
かちゃりと回る錠の音。
感情的でない、しかしどこか悪戯っぽい音。
窓の破片は慎ましやかな庭の、草むらに置いておく。
帰るときに痕跡が少ない接着剤を使い元に戻すのだ。
窓をしっかりと開け、カーテンの隙間を手で素早く握った。
素早くカーテンを開ける。
常人には見切れないスピードだが、数十年の研鑽が、その動作を高速化した。
夜風のような衣擦れの音だけを残し、男はその部屋のカーペットの上に着地した。
「―――ん?」
男は顔をしかめた。
カーペットの素材に違和感がある。何か網目のような変な模様が―――。
「今だッ!」
少年のような声とともに、世界は白と黄色に染まる。
部屋の明かりがついたのだ。
「う………」
暗闇から、とつぜん光へ。
明るい子供部屋が、視界に現れる。
男は眼を細める………ということはなかった。
彼が装着しているコンタクトレンズは暗闇での視認性を上げる性質を持つ、サンタ業界の常識的アイテムで、ユーザーの9割が「大変満足している」という実績を持つ。
夜間での活動に適している。
それでいて明るい時にはサングラスのように目を保護する性質を持ち、
突然の明度の変化にも『仕事』をわずらわされないように一定に保つことができるのだ。
ゆえに、男には『それ』が視認できた。
「右にひとり」
ブルーのパジャマを身に着け、低くタックルを仕掛ける態勢で走ってくる男の子がいた。
見るからに腕白そうである。
「左に、ひとり」
部屋の入り口、照明のスイッチ付近にピンクの柄物のパジャマを身に着けている女の子がいた。
照明をつけたのはこちらの子らしい。
「ふん、こざかしい―――」
男は赤い服のポケットに手を入れて弄った。
その時、女の子は手に持っていた何かのひもを、引っ張る。
網。
網である。
男の足元にあった、網目状のもの、それは紛れもなく、変な模様ではなく100%、網だった。
子供がたこ糸で編んだ拙い網だった。
その網がみるみる天井にせり上がり、男はそれに対して―――。
「むぐっ!」
網が顔面に食い込む。
「『捕獲』だァ―――ッ!」
動きが取れなくなったところで、男の子のタックルが男の大腿部をとらえた。
バランスを崩して、床に倒れこむ赤服の男。
肺から息が押し出される。
その身体の上に、男の子がのしかかった。
「『サンタ』ゲットォオオオオオ!」
「きゃああー!『サンタさん』だァ―――ッ!嘘みたいやった―――!」
「やったああああ!来たあああ!」
家庭に響く子供たちのにぎやかな声。
ふふふ、悪くない。
………さあて、どうやって逃げようかな。
クリスマスのうちに投稿




