貧困の勉強(2)
「まあ、俺たちも他にクライアントがいるわけでもなし、頑張ってお坊っちゃまに一般常識がなんたるかを教育していこうぜ!」
「そうすると先ずはじめは‥‥」
「就職先」
「か!」
「ね!」
確かに俺達の最も得意とするところではあるのだが、いかんせんオーダーが『給料を払って貰えるかどうか怪しい会社』だ。しかも『危ない会社は困るの!』ときている。
とりあえず俺達3人は、求人チラシ、ハローワークからあたることとした。ネットを使わなかった理由は、ネット広告を使えるような会社は給料の支払いに困るような会社ではなく、かつ危険性としては『ブラック』の可能性があるからである。
と、言うわけで候補先の会社の目処をつけたあと直接見に行き、かつ周辺調査を行って裏をとると言う我々エージェントとしては前代未聞の作業が始まった。
「なんか私たち探偵みたいじゃない?」
「それはまだ自分達を美化していると思わないかい?はっきりと言おうじゃないか?まるで‥‥」
「一昔前のコソドロ」
「ですな」
「ね!」
しかも、下手にスーツでこのての聞き取りを行うと与信や信用調査、下手するとマルサと思われ対象の会社に迷惑をかける。これが元でつぶれてしまってはそれこそ俺達が困ってしまう。
なまじ大手の人材会社にいたことでスマートな仕事しかしたことがなかった俺たちにとっては、この聞き取りが最も大変だったことは言うまでもない。
渡部は近所のおばさんに情報の代わりに食事でもと色目を使われ、リサはおばあちゃんの話し相手に半日費やし、そして、書く言う俺真田は、なんと不審者と疑われ職務質問を受けると言う目に逢いながら何とか裏を取っていった。
最終候補に残ったのは三社、
東急線急行の止まる駅と隣2駅の計3店舗を持つ八百屋。20年位前までは、親父の愛想の良さで近隣のおばさんたちほぼ全てを客としていたらしい。今は、おばさんたちの代替わりによって毎年売り上げを落としている。
そして、同じ駅に店舗を構える不動産屋。どうもここは情報化の波に乗り遅れ、新規仲介がほとんどないらしい。昔からのお客の不動産管理で何とか成り立っているようだ。
そして、またまた同じ駅に本社事務所を構えるビルメンテナンス会社。現在は50歳手前の2代目が社長として座っている。親父の代、つまり80年代後半から90年代にかけてのバブル全盛の時は、それはもう羽振りが良くその時期に事務所のある5階建てビルを建てている。だが、単なるビルメンから脱する事が出来ず鳴かず飛ばず。2代目は何とか新規事業を立ち上げたいと表裏両面のつてを頼りに頑張って(?)いる。
3人の結論はあっさりとまとまった。3社目のビルメンテナンス会社である。理由は、それなりの規模の株式会社であると言うこともあるが、ビルメンという業態から他の多くの会社を知ることが出来、1社で多くの事を学べることにある。
「じぃさん、この会社でどうかな?」
まず、俺が『爺』に感想を尋ねる。
「凛々はどうかしら?汚い仕事も多いけど恐らく危ない仕事はないはずよ。」
凛々に尋ねるのはリサの仕事だ。
「この仕事は、ビルの掃除が多いのだな?総司なら凛々も手伝えるし、凛々が隠れられる場所も多い。二人で隠れて色々出来る。凛々は良いと思う。」
(おい、二人で隠れて色々なにやるんだ!)
「凛々はぼっちゃんの全てをお相手するのだ!ぼっちゃんがビルに勤めるOLに突如発情したらどうする?過ちが起こる前に対処するのが当たり前だろう!」
「だから、掃除しているトイレの中で凛々が壁に両手をついてぼっちゃんに後ろから‥‥」
「ストップ!」
(だから勝手に人の頭の中を読むな!そして、お前露骨過ぎ!)
「爺は何も意見はございません。人に倍する能力をお持ちのぼっちゃんがビルの掃除とは、まさに能ある鷹は爪を隠す。そのものでございます。自分に倍する能力を持つ部下がすぐ間近にいるとも知らずに毎日の仕事の確保に窮する社長。クゥー、たまりませんな!」
(おいおい、あんたはそっち系かい?)
「はい、その通りでございます。執事足るもの忍び足るもの常に自分を殺し、業務を遂行致します。よってそのストレスは‥‥」
(あんたも毎度人の頭の中を読むな!)
「まあ良いじゃないか。爺 も凛々も異論ないようだし、この会社に決めよう。」
渡部の声によりこの会社に決定となった。
「では、ぼっちゃま明日から仕事でございますので‥‥」
「待て待て、まだ候補の会社が決まっただけで」