クライアントはお坊っちゃま!(執事、メイド付)
(あの~)
(この人何でうちにきてんだ?)
ヒアリングをすればするほどこのクライアントの来社理由が解らなくなる。想定外のクライアントと言うべきだろう。
(まあ想定外と言っても初めてのお客なので説得力はないな)
此花岳彦
1990年7月7日生まれ
A型
家は九州の神話と観光で有名な神社。その有名さを生かしたホテル等の経営は母が行うという超合理的センスを一族で有している。
しかも祖先はこの国の象徴の方につながる由緒ある血筋。
身長185センチ、体重68キロ
隣の県のNO1私立高校から東大在学中
「私は、」
「お待ちください!ぼっちゃま。そこから先はこの爺にお話させてください。」
(ぼっちゃま?というかあんた何処から沸いて出た?)
「ふふふ、私らベテラン執事はお仕えする方の影、普段は完全に気配を消した上でぼっちゃまのお側にいる、いや、存在するのです。」
「ぼっちゃまのお考えはこの爺、全て解っております。」
(いや、俺の考えを読まないでくれ。)
俺がこの世で初めて出会った執事は、テレビや小説に出てくる執事そのままである。やせ形の体型にタキシードをはおり、そして、『ぼっちゃま』
若干なりとも違うところは、
『なぜ黒覆面に黒頭巾。足袋を履いて腰に短刀なんだ?忍者か?』
「私が忍者のようななりをしていますのは‥‥」
(いや、だから俺の考えを読むな、つっうの)
「爺、話を進めて下さい。」
「失礼いたしました。ぼっちゃま!」
どうもこの執事という生き物は、小説でも現実でも話好きらしい。
「端的に申し上げますと、ぼっちゃまは給料を貰えるか貰えないかというような会社に勤めたいのです。」
「はあ?」
「いや、ですから給料を貰えるか貰えないかというような会社に勤めたいとおっしゃっているのです。」
「申し訳ありませんが、ミニマムエクセレンスについては先程ご説明したかと思います‥‥、どう考えてもご要望がミニマムエクセレンスに当てはまるとは考えづらいのですが」
申し出は簡単な要望であり、実績を創りたい我が社として飛び付きたい気はする。しかし、このような申し出をすんなりと受けるのは、プロの人材コンサルタントとしての俺の気がすまない。
「岳彦様のお願いを貴方はおかしいと言うの!」
真夏に冷たいかき氷を掻き込んだ時のような頭に突き刺さる声が、俺の真後ろから飛んできた。
(今度は何だよ?)
「ごめんなさい!岳彦様も申し訳ありません。でも、岳彦様のお考えを否定するような発言は、この私、岳彦様の朝ベッドから降りられる際の室内履きのお世話から、夜お眠りのお相手までをお世話する、凛々が許しません。」
振り返ると、ホウキを逆さに立て膝まづいたメイドのような人物からこの声は発せられている。頷きかげんのため、顔はよく見えないものの頭の先から赤い炎のようなものが見えている。地鳴りのような音が聞こえるのも気のせいではないだろう。
(お眠りのお相手までするメイドのくせに殺気かよ。ホウキは仕込みじゃないよな)
「もちろん仕込みになってます。ぼっちゃまの敵と私が判断する者。ぼっちゃまの邪魔する者。全て私がこの命に代えて排除します。」
どうやら本物のぼっちゃまで間違いないらしい。
しかし、
人の考えを読めるし、経んな格好だし、あまりにも怪しい。
などと考えながらメイドの米倉 ○子なみのスタイルとアニメの主人公ばりの美貌を見てしまった以上、このクライアントの願いを叶えるしかないと思う俺が少し悲しい。
(まあ、報酬はしっかりいただけそうだし‥‥、やるか)
「わかりました。最善を尽くしましょう。しかし、普通とはかけ離れたご要請。費用も特別料金となります。そして、何より理由を聞かせていただきたい。」