騙し言葉が最高のコマーシャル
「あのー」
「いらっしゃいませ!皆様に最適の人生をプロデュースするミニマムエクセレンス合同会社お客様ご担当の真田之広でございます。メールにてご連絡の此花様でございますね。」
聞く人によっては怪しい会社と聞こえなくもないが、真面目な話これが俺の経営(?)する正真正銘の会社だ。ついこの前までは、メール、電話の一本も入らなかったのが、
「皆様に最適の人生をプロデュースする」
「誰でも勝ち組に」
などと怪しい言葉をHPに追加したとたんの来客。
自分としては納得したくはないが、まあいいとしよう。
「本日はお客様ご自身のご相談ですね?」
大学卒業後、超大手と言われる人材会社に一応10年勤め、まあその時の異能と言えば聞こえが良いが、はみ出しぎみの男2人、女1人で独立3ヶ月目。
初めてのクライアントは‥‥‥
「本当にお客様ご自身のご相談ですよね?」
ブラウンの細身のスーツに濃いブラウンのスリップオン。ネクタイの代わりにおそらくシルク製と思われるチーフを巻いたその青年は、どう見ても勝ち組だ。色白で大きな目が伏し目がちでありながらも背筋はしっかりと伸びている。
想像と違うな!まあ、とはいえお客様はお客様。
「まず当社のご説明から‥」
「此花 岳彦と申します。どんな人でもミニマムエクセレンスを実現出来ると考えてよろしいですか?」
「もちろん、(貴方ではなく俺達が考える)ミニマムエクセレンスを実現させてご覧に入れます。」
(俺達が考えるな!)
重要なのはここ「俺達が考える」。簡単に言うと、クライアントを丸め込む。いやいや、洗脳する。おっと、考えを変えていただくのだ。
10年この業界を生きてきた俺達だから出来ること。
そして、もしもの場合俺達には
「あれ」 がある。
「では、普通のサラリーマンでお願いします。」
(いやいや、ミニマムエクセレンスの結論は我々が‥‥)
「普通のサラリーマンに私を導いてはいただけないのですか?」
「ゴホン!」
軽く咳払いをした後で私はホワイトボードに歩みより説明を始める。こういう時に慌ててはいけない。
そして、対面の形のまま話を続けてもいけない。我々が行うことが説得と取られては意味がない。今から行うことはあくまでも説明・講義なのだ。
「ではまずミニマムエクセレンスの意味からご説明をいたしましょう。我々が定義するところは、簡単に申し上げると人にはその人としての『分』というものが存在し、その『分』相応の最適を最小の努力で手に入れる。ということです。」
「つまりは‥‥‥」
「簡単に申し上げると」
『無駄な努力をしない!』
その通り。この考えは、我々の大先輩であり当社の代表である渡部健の持論である。彼は1960年代の生まれで所謂受験戦争を体験し、その後のゆとり世代から何からを見てきている。そうした中から生まれたもののようだ。
彼の実体験からだと、どうも受験戦争時代は何が何でも有名大学(東大、早慶等)に入り、その後ソ○ー、ト○タ、三○商事などの大企業に入るのがベストで、とにかくどんな学生でも勉強勉強。
最終的にその後MARCHと呼ばれる大学に入るのが精一杯、と言う学生でも親と共に
「目指せ東大!」
と無意味な時間を勉強に費やしていたようである。
そして、志望大学に落ちてしまうと‥‥ノイローゼや引きこもり、揚げ句のはては自殺。親は半狂乱!あの時代はこういう家庭が結構あったらしい。
今は、どちらかと言うと逆だ!
親の家があり子供は自分しかいない。家の心配がないので金はあまり必要ない。どちらかと言うと慎ましい食事をし、趣味には好きなだけ金を使う。見栄も要らない。だから大学や会社は楽をして行けるところが良い。
一見真逆の様であるが実はこの両者意外なところで共通点がある。
それは、
『とてつもなく低い生産性』
失礼な言い方かもしれないが、無駄なことに費やす多大な労力。やれることをやらずに流していく膨大な時間。これを低い生産性と言わずに何を低い生産性と言えようか。
我々のビジネスは、クライアントのこれら能力と労力の調和をとることにより無理なく適度な成功を修めさせることにある。
「我々は先ずお客様に簡単なヒアリングを行わせていただきます。その後、必要により簡単なテストを受けていただくこともございますのて予めご了承下さい。」