高得点に取り憑かれて
幼い頃から――点数にばかりこだわっていた。
恐らく、教育熱心な母親のせいだろう。
母は小学校の教員をやっていて、僕に可能な限り最高の教育を与えようと思っていたのだ。体裁のこともあったのだろう。小学校の教師の息子が、勉強できないでは、教師としての能力も疑われる。そんなことは、当時まだ小さかった僕でもわかっていた。
小学校の頃から、塾に行かされた。いい成績を取ることを強いられ、元々負けず嫌いの気質のせいもあり、自分でもテストでは常に満点を取らなければ気が済まなくなった。
しかし、勉強だけでは飽き足らず、母は僕に文武両道を求めた。僕は地元のミニバスケットボールチームに入れられた。そしてそこでも、点数をとることを強いられた。試合に出れば、他のどんな奴よりも得点をとらなければならなかった。僕はそんな母の期待に応え続けた。
中学、高校と進学しても、それは全く変わらなかった。いい点数を取り続け、トップであり続ける。それだけだった。運動のほうもミニバスからバスケ部に舞台が変わったが、同じことだった。
大学は日本でも有数の一流大学に進学した。その大学に魅力を感じていたわけではない。ただ、国内で指折りの大学だったからというだけだ。親の期待に応える為。そこに自分の意思などなかった。
しかしここから、僕の人生はおかしくなり始めた。進学したのは良かったものの、その大学には僕よりも何段も上の人間が山のようにいた。僕の努力など、そこでは何の意味もなさなかった。それだけでなく、学年が上がる毎に、講義内容もより複雑になり、僕の理解力を遥かに超えていった。いい点を取るなど、最早不可能。それどころか、留年ギリギリだった。
スポーツも同じくだ。大学でもバスケ部に入ったが、やはりそこにも、突出した能力を持つ人間が必ずいた。レギュラー争いに負けてから、僕は自ら墓穴を掘るように二軍落ち。それまで築き上げてきたものも、崩れ去るのは一瞬だった。エースとして活躍していた高校時代が恋しくなった。
それから今までずっと、この上ない挫折を味わい続けていた。
殆ど自暴自棄になっていた、そんなある日、僕はある年配の男に声をかけられた。
「君、九十七点だ。これは今季最高得点だよ」
その言葉に、今までの敗北感が吹き飛ぶようだった。素直に嬉しくなった。最高得点。今や喉から手が出るほど欲しくなっていたその言葉。この言葉を聞いたのは、何年振りだろうか。涙が出そうになるのを抑えながら、過去を振り返っている僕の腕に、水を差すような冷たさが走った。その冷たさは、酔って火照った僕の頭に、まるで冷水を浴びせかけたかのように伝わった。
男が僕の手首に手錠をかけたのだ。
「危険運転致死。救護義務違反。酒酔い運転。これらの合計で違反点数九十七点だね。ちょっと署まで来てもらうよ」
サイレンを辺りに響かせながら、パトカーは僕を乗せて走り始めた。べこべこにへこみ、フロントガラスに血が付いた僕の車が、段々と遠ざかり、見えなくなっていった。




