第3話 スライムと僕。
「キュピーッ」
目の前にいるのは何処からどう見てもスライムだ。そして、そのスライムなのだが、めちゃくちゃ可愛い。今すぐ抱っこして、撫でまわしたい。その位可愛い。
………はっ!そうじゃない。可愛いとかどうでもよくて、いやどうでも良く無い。可愛い事は大切なことです。……それは置いといて、いま僕が魔法を撃とうとしたら、代わりにスライムが出てきたように見えた。
多分何かの見間違いだろう。流石にそれはない。魔法がスライムを出すだけ何て事は無いはずだ。きっと魔法を使うのには失敗して、その時偶々、横からスライムが飛び込んできただけに違いない!
今度は失敗しないように気を付けながら、僕はもう一回粘生魔法を使うことにする。2回目だからか、さっきよりもスムーズに粘生魔法の魔力だけを動かすことが出来る。魔力が体の表面まで達すると同時に体から魔力が抜けていく。
その瞬間、目の前にいたスライムが忽然と姿を消した。その代わりと言うかの様に現れ、放たれる魔法。魔法は途中まで飛んでいくと、重力に引っ張られ地面へと落ちた。地面に落ちた魔法は、何故かついている目をこちらけながら鳴く。
「キュピーッ」
かわいい。とても可愛いスライムがこっちを向いている。今すぐにでも抱き締めたい。そのくらいかわいい。
………はっ!あれ、やっぱりこのスライムがタイミング良く姿を表した。このスライムはどうもお茶目さんのようだ。決して僕の魔法がスライムを生んだのでは無い。
だって、魔法を使ったら、さっきまで目の前にいたスライムがいなくなった。きっと目の前の物を消す魔法に違いない!
よし、もう一回魔法を使って確かめてみよう。さっきの様に粘生魔法の魔力だけに集中する。
しかし、ここで邪魔が入った。
「いやいや、水華。流石に認めようぜ。このスライムお前の魔法で間違いねえよ。」
「現実逃避は良くないよ。スライムを生み出す魔法だって役に立つよ……色々。」
2人に現実を突きつけられてしまった…。
何さ。二人は色んな魔法持ってるからいいけど、僕は粘生魔法だけ。小説とかアニメとかみたいに、格好いい魔法がつかいたかったなあ。
そうやって落ち込んでいると、何か足元に気配を感じた。さっき僕が出したスライムだ。そのスライムが僕の足にすり寄りながら、心配そうにこちらを見上げている。上目使いでかわいい。荒んだ心が癒される。
せっかくなので、スライムを抱きかかえてみた。「キュッキュッ」と言いながら僕に頬ずりをしてくる。かわいい。
スライムの感触は思ったよりもベットリとはしておらず、むしろサラサラな位だ。あと、体温が低いのか、ヒンヤリとしていて気持ちいい。
しばらくそうしてスライムとじゃれあっていると、2人もスライムに触りたそうに寄って来る。
「なあ、水華。俺にもスライム触らせてくんねーか?」
何を隠そう、小岩井君は大の動物好きなのである。スライムが動物に含まれるかどうかは別にして。
「そもそもこの子は、スライムで合ってるのかな?僕が魔法で産み出したものだから、良く分からないけど。」
「ああ、さっき千歳が{鑑定}したって言ってたから間違いは無いと思うよ。詳しいステータスは聞いてないから分からないけど。」
小岩井君にスライムを渡しながら尋ねると、スライムに夢中になった小岩井君の代わりに、伊勢くんが答えてくれた。
スライムとじゃれあう小岩井君にステータスを聞いてみたところ、そのステータスは、
名前:
年齢:0歳と7分50秒
種族:スライム
性別:無性
状態:
魔法:
スキル:
だった。やっぱりスライムで合ってたらしい。それに、年齢が7分50秒になってるから、僕が最初に魔法を使った時に生まれたのだろう。最初魔法を使った時はスライムを生んだのに、2回目はただ移動させただけ。考えてみると不思議だ。
「やっぱりスライムで合ってたみたいだね。ところで、このスライムに名前がついてなかったけど、付けてあげたら?」
「そうだな。スライムが一杯いたら名前がないと不便だしな。」
名前かぁ。どんなのがいいだろう。スライムだから、やっぱり”スラ~~”みたいなのがいいか、それとも、そんなのないほうがいいかな。
まずは特徴から考えてみようかな。この子の特徴かー。体が青い、ぷにぷに、ひんやり、初めてのスライム、キュピーッ、生まれたばかり、とかかな?
うーん。良く分からないな。二人にも聞いてみようかな?
「なかなか思いつかないんだけど、何か名前の案はない?」
「スラ太郎なんてどうかな?スラ左衛門も捨てがたいよ。」
「修哉…、スラ太郎はねえんじゃねーか?ダサすぎだろ。」
「なっ…。ダサくないよ、どう考えても!水華もそう思うだろう?」
「えっ…、いや、まあ、この子にスラ太郎って付けたいかどうかと言われたら……あんまりかな…。」
「ほれ見ろ。」
「じ、じゃあ、千歳はどんな名前を付けるんだい、さぞ素晴らしい名前を付けれるんだろうね?」
「そうだなぁ。あんま自信はねえが、スラッガーとか、スラングとかか?」
「少なくとも伊勢くんのよりはいい名前だと思うよ。でも、この子にあんまり合わなそうかな?」
うーむ。難しい。伊勢君のはダメだとして、小岩井君のはどちらかと言うとかっこいい雰囲気の名前だからなぁ。出来れば可愛い名前を付けたい。
悩んでても仕方ない!こう言うのは勢いだ。適当に思い浮かんだ名前にしよう!
思い浮かんだよ!
”モノ”はどうだろうか?ギリシャ語で1って意味だ。初めてのスライムと言う意味で1。"スラ~~"って言うのからは外れるけど、思い浮かんだのだから仕方ない。
これでいいかさっそくスライムに聞いてみよう。
「君の名前は”モノ”でどうかな?」
「キュピーー」
どうやら喜んでくれているみたいだ。よかった。
隣で小岩井君が{鑑定}を使っている。ちゃんと名前が付いたか確認しているのだろう。
「どう、小岩井君?ちゃんと名前はついてる?」
「おう、ちゃんと名前の欄に"モノ"って書いてあった。」
そうやってモノに名前を付けたり一緒に遊んだりして、しばらく過ごした。
それから、伊勢君の提案で食べ物や水を探すために周辺を散策することにした。結局魔法では、水や食べ物を出せてない上、何故か食い扶ちが増えるという事態になったのだから当然かもしれない。不思議な事もあるもんだなあ。
しばらく歩きながら栗らしきものや、ベリー等を採集していた。伊勢君はそこら辺に生えてる草を食べれる草とか言って採っていたし、小岩井君は動物を捕まえ様としている。
しばらくして、伊勢君が話しかけてくる。
「この森なら餓えて死ぬ事はなさそうだな。木の実や果実が豊富だ。」
「木の実はそこらじゅうに生ってるもんね。でも、本当に食べれるのかな?」
「多分大丈夫だと思うよ。そんなに毒なんて入ってるものでもないだろうし、元の世界と此処の植物はほとんど同じだからね。もしかしたらたまたま似ているだけかも知れないけどね。」
ここの植物たちは元の世界のどこか見覚えのある(と言っても、木なんて詳しく知らないけど)植物ばかりなのだ。なので、一応安心して木の実や果実を採っている。
栗とベリーは結構な量見つかっている。
ついでに言うと、木の実を探しに来た小動物なんかも見かけたけど、何処をどう見てもリスにそっくりだったから、植物に限った話ではなく動物とかもそうなんだろう。
流石に時々見かけるキノコ類には手を出していない。元の世界と同じという事に、キノコを食べるほどの自信があったわけではない。どんな毒を持っているかしれないからね。
「植物系の食べ物はいいかもしれんが、肉はあんまり取れてねぇな。」
「道具も何もないのに、動物を狩ろうと思ってるのが間違いだ。リスを数匹捕まえれただけでも御の字だよ。」
「魔法を使えばリス以外にも取れるんじゃないの?」
「威力にしたら鳥でも仕留められるかも知らんが、俺らの魔法はすごい遅い。当たるとは思えん。リスにしたって不意討ちで何とかって感じだからな。
それに、それ以上大きな生き物にはあんまり効かなそうだしな。」
さっき木の実を採ろうとしているリスに向かって魔法を放っていたけど、何回かは逃がしていたみたいだったしそんなものなのだろう。
そんな会話をしながら、探索を続けた。
日ももうすぐで沈みそうという頃まで探索を続けた。結局水は見つからなかったが、それを補えるだけの木の実や果実が手に入った。数日はこれだけあれば生きていけるだろう。もちろん食べれればの話だけど。
その帰り道、半分くらいまで来た時のこと。
「…!……静かに。何かいる気がする。」
小声で伊勢君が僕らに注意を促す。どうやらこの先に何かがいるみたいだ。小岩井君の視線の先を追ってみるが、暗くてよく見えない。
「本当に何かいるの?暗くて良く見えないけど。」
「多分。自信は無いけど。一応ね。」
しばらく小岩井君に従って待機していると、そちらの方からガサガサと木が擦れ合うような音がする。
その音を聞いた瞬間に僕らの警戒心が一気に高まる。
姿は見えないものの、確実に何かいるのだ。
緊張してそちらの方を警戒していると、暗闇の奥から一つの影が表れる。
出てきたのは元の世界で言う狼。ただし、本来のそれとは決定的に違う点が一つ。体の大きさである。明らかに元の狼より2回り以上大きい。
狼がその巨体を震わせて咆哮する。
グルグァアアァーーー
それの咆哮を合図に、僕らの異世界初の戦闘が始まった。
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