第十二話 動き出す影
ホストクラブから出て、キリヤに忘れ物を届けるためにキリヤを捜したが、結局見つけることができなかった。
曇り空の切れ間からは、橙色の線が伸びている。
まあ、なんだかんだで探し回ったというよりは、萌香と町中を遊びまわったというほうが正しい気がする。
その肝心な萌香はというと、俺の隣を歩きながら、デス・ベアラーのぬいぐるみに微笑みかけている。
萌香があまりにも欲しそうにしていたので、俺が取ってやったのだ。
最近のUFOキャッチャーってどうしてあんなにクレーンが柔軟なんだろう。
おかげで俺の懐は、砂漠並みにカラカラだ。
「結局見つからなかったわね」
「まあ、大半はお前のそのぬいぐるみに時間を取られたんだけどな」
「うっ、ごめんなさい」
萌香はぬいぐるみで顔を隠した。
俺は大きくため息を吐く。
白い吐息が空気の中に霧散していく。
「今日はもう遅いし、とりあえず公園に帰るか」
「……うん」
「お前は家に帰らなくていいのか? 送るけど」
「い、いいのよ。今は。それにアンタが寄り道せずに帰るかちゃんと見張ってないといけないしね」
だから、お前は俺の保護者かよ。
そうして、俺たちは踵を返し、公園への帰路に着くのだった。
* * *
公園のすぐ近くの河川敷の近くまで来て、俺は今朝のウミサルの言葉を思い出す。
そういえば、朝、ウミサルがサヤエンドウの様子がおかしいと言っていたな。
丁度、近くまで来たことだし、サヤエンドウの様子を見に行くか。
どうせたいしたことじゃないと思うが。
それにしても、キリヤはどこにいたんだろう。
俺は手にある、質素な紙袋に目をやる。
そこでふと立ち止まった。
この中、何が入ってるんだろう。やっぱり、ユウキのグッズだよな。
……いいよね? ちょっとのぞき見るくらいなら別にな。
うん。いいよ、大丈夫だ。
よし開けよう。
俺は紙袋の山折された、部分に手をやる。
「ダメなんじゃない? 人のもの勝手に開けたら」
萌香の言葉で俺は手を止めた。
「ダメかな?」
「ダメよ」
「ちょっとだけだから」
「ダーメっ」
俺の手に合った紙袋を萌香は、取り上げてしまった。
ああ~。見たかったのにな。
「そこまでしょんぼりすることないじゃない」
「いや、だってその中にはユウキの―――」
「おっ! デウスにひまわりちゃんじゃねえかっ」
河川敷近くの一本道、俺と萌香の目の前で白銀の険しい草が揺れる。
その鋭い眼光に似つかわしい、少年のような笑顔。
目は少し充血気味だ。夜中中遊びまわっていたのだろうか。
キリヤの姿がそこにあった。
萌香はとっさに俺の背中に隠れる。
「おいおい、なんだよデウス。二人してデートか?」
「違うっ」
「違いますっ」
「おうおう、見せ付けるねえ」
なに? そのからかい方ってホストではやってんの?
ていうか、萌香さんマジで肘が曲がったらいけない方向にっ。
「ち、違うんだって。お前に忘れ物届けようと思って、ずっとお前を捜してたんだよ」
「ん? 忘れ物?」
俺は肘に関節をキメる萌香を軽いチョップで我に返し、紙袋を受け取るとそれをキリヤに返した。
「おおっ! これは映画館のときの。わざわざ、サンキューなっ!」
「いや礼なら萌香に言ってくれ。俺のところに届けにきてくれたんだからな」
「萌香? ああ、ひまわりちゃんね。サンキュー萌香ちゃん」
そう言われて萌香は、俺の背中に頭をつけて服の裾を強くつまんだ。
そんな人見知りでよくメイドなんてできたものだ。
「なあ、キリヤ。その中身ってなにが入ってるんだ?」
「ん? これか? ちょっと待ってろよ」
とキリヤは言うと、紙袋の中身をあさり始めた。
それから、なにやら分厚く赤い缶を取り出した。
その缶のふたにはユウキとリベンジが、強く手を取り合っている絵が描かれている。
実に格好いい。
「それは?」
「飴缶だ」
それから、キリヤはふたを開け何かを手に取ると、俺に小さな塊を二つふわりと投げた。
ビニール袋に包まれた、白い飴玉と桃色の飴玉だ。
「お前はハッカ味の白いヤツな。それで萌香ちゃんは、ピーチ味のピンク色のヤツ。届けてくれたお礼にやるよ」
俺は桃色の飴を萌香に渡し、白い飴を口に含んだ。
ミントの香りが鼻をつんと刺す。
なんか、人生のほろ苦さを体現したような味だ。なんて意味のわからないリポートをしてみる。
ていうか、俺の扱いひどくないか。
「それにしても、これ飴多過ぎだろ。一人じゃ食えねえな。そうだ。みんなに配って、余ったらデウスお前にやるよ」
「あ、ああ」
そこまで欲しくないが、あまりものがハッカだけという、酷い結末にならないことを祈るよ。
「ああ、それともう一つあっ―――」
そう言いかけて、キリヤのポケットから、ユウキの主題歌のメロディが流れる。
いつぞや聞いた、着信音だ。
携帯っていいよな。いつもでも聞けるんだもんな。
「あっ、悪ぃデウス、また今度な。店長から急いでくるよう言われてるんだった。萌香ちゃんも、またねっ」
それを言い終わるか否やキリヤは颯爽と駆けていってしまった。
静寂と化したこの場を、あざ笑うかのように冷風が流れる。
忙しいやつだ。
「嵐のような人ね」
「ああ。まったくだ」
おかげで昨日のことも謝れなかったし、正直会うのが少し恐かったのだがそんなことを思う時間さえなかった。
キリヤのペースに巻き込まれてしまった。
まあ、いいか。忘れ物届けられたし。
この時の俺は何も知らなさ過ぎた。
だから気づくことができなかったのだ。
もう運命が重なり合おうとしていることに。
* * *
見覚えのある麦わら帽子がちょこんと、河川敷に降りる階段にあった。
サヤエンドウだ。丁度よかった。
俺はサヤエンドウの隣まで来ると、そのまま座った。
俺の隣に萌香も座る。
「おや、デウス君。それに萌香さん。今日はお二人で―――」
俺はそこまで言いかけたサヤエンドウの口を押さえた。
そう同じミスを何回も繰り返すほど、俺はアホではない。
どうせ、その後にはデートという言葉がつながるのだろ?
そして俺の肘が再起不能になるのだ。
「少し野暮用で出かけていただけだ。サヤエンドウはこんなところでなにしてるんだ?」
そう言って、俺はサヤエンドウの口から手を離す。
「そうだったんですか。僕は……少し風に当たりたい気分だったのです」
「なんかあったのか?」
サヤエンドウは少し長い沈黙の後、目じりにしわを寄せ、コケ細った頬を静かに上げて笑う。
「いいえ、少し野菜たちの元気がなかったので、僕も落ち込んでいただけです」
「そう、だったのか……」
これで何度目だろう。悲しい笑顔を見るのは。
氷河に浮かぶ氷の上に咲く花を見ているような気分だ。
どうしてこんなにも冷たいのか。
俺にはわからなかった。
「ウミサルが最近、お前の様子がおかしいって言ってたんだよ。でも案外大丈夫そうだな」
「ええ。僕は大丈夫ですよ。ウミサルは僕のことより、自分の胃袋のことを心配するべきですよ。のん兵衛は早死にしますからね」
「そりゃそうだな」
俺とサヤエンドウは乾いた空気に柔らかな笑い声を乗せて笑う。
隣では、萌香がくすっと微笑む。
それなのに俺はなぜか心のどこかで、崖の上に立っているような感覚に陥っていた。
悪寒とも言うべきなのだろうか。
「じゃあ、俺は公園に戻るよ。それと、またなんか手伝って欲しいことがあったら呼んでくれよ。いつでも力になるからな」
「はい。またお願いします」
俺は頷いた。
萌香はサヤエンドウに一礼して、先に歩き始める。
俺も階段を一歩上がろうとしたとき、サヤエンドウに呼び止められる。
「なんだ?」
振り返ると、サヤエンドウは優しい笑みを浮かべていた。
「僕は、デウス君やウミサル、ハカセにイーグル君にママ、こんな家族を持つことができて幸せでした。ありがとうございました」
「……なに言ってんだよ。これからもだろ? サヤエンドウ。お前は俺の家族なんだから」
「そう、ですね。ありがとう、デウス君。君も僕の……家族です」
サヤエンドウの口から流れた言の葉が、体の内側に響く。
暖かいものが腹の底から湧き上がると同時に、妙な恥ずかしさもこみ上げてくる。
「な、なに言ってんだよ。ま、またなっ」
俺はそう言って、そそくさとその場から早歩きで退散した。
悲しい笑顔の理由が俺にも分かることができていれば、あんなことにはならなかったのかもしれない。
* * *
公園で俺の帰りを出迎えてくれたのは、アヒルではなく河童だった。
頭のてっぺんをツルツル光らせた、ザビエルという名の河童が。
言うまでもなく、萌香はすでに俺の背中に避難している。
萌香じゃなくても、避難するだろうな。
「どうしたんだ、ザビエル」
「今朝話した依頼だべ」
「ああ~」
「まさか、忘れていたわけじゃないだべな?」
「ま、まさか、忘れるわけないだろ? 大事な依頼なんだから」
やっべ。忘れかけていたな。
最近、物忘れがひどいな、俺。
なにやら、後頭部に萌香の視線を感じる。
「あら、なあに~。依頼って」
その声と一緒にママのハウスから猫エプロンのママが出没する。
俺は相次ぐ『ホームレス狩り』から、ザビエルたちが襲われないように見張る依頼を受けていることを話した。
「なるほどね。デウス、大丈夫なの? そんな簡単に依頼受けて」
「大丈夫だって。それに見捨てておくわけにはいかないだろ?」
「も~うっ、これだからアンタって子は、好きなのよっ」
「わっ、抱きつくなっ、気持ち悪いっ」
いきなりママの熱い抱擁を引き剥がそうと、苦戦していると萌香が袖を引っ張る。
「どうしたんだ?」
「そ、その、本当に大丈夫なの?」
「だから、大丈夫だって。それに今日来るかどうかも分からないんだからさ」
「ほんまに?」
「お、おう」
珍しく怒ってないときに関西弁を聞いたな。
少し戸惑ってしまう。
「ママ、ちょっと離れてて」
「な、なによ~もうっ」
萌香はママを俺から剥がすと、そのまま俺に向き直る。
どうしたんだろ。
「夜は寒いんだから、ちゃんと暖かくしていきなさいよね」
と言い、萌香はママとの戦闘で着崩れたマフラーを巻きなおしてくれている。
なんだろう。このこそばゆい気持ちは。
多分、俺に母親が居れば、こうして巻いてくれたのかな。
「はいっ、これでよしっと」
その声で現実に引き戻される。
しっかりと巻かれたマフラーは、心なしかいつもより暖かく思えた。
「ありがとうな。萌香はきっと優しいお母さんになれるよ」
「な、なな、いきなりなに言うとんねんっ」
萌香は顔を真っ赤にして、俺から一歩離れた。
え、なんか変なこと言ったかな。
「今度うちの店でも、ホストクラブやってみようかしら。デウスオンリーで」
「んなもんできるかっ!」
「もうそろそろ行くべ。あんちゃん」
「あ、ああ。それじゃあ、行ってくる」
萌香を見ると、なぜかそっぽ向かれた。
いつも褒めるとなぜコイツは不機嫌になるのだろうか。
ザビエルを先頭に公園を出る。
すでに日は落ち、街灯がつき始めていた。
* * *
ザビエルについて歩くこと二十分。
阿比留公園よりも遥かにでかい公園の奥に人の寄り付かない並木道が続き、そのさらに奥に工事用の鉄柵に囲われた場所にホームレス村はあった。
民家のようにダンボールハウスが肩を並べている。
真ん中には空きスペースがあり、焚き火を炊いたドラム缶が置いてある。多分暖炉代わりだろう。
街灯も一つしかない。今日は曇り空なので、かろうじて人のシルエットが見えるくらいだ。
ドラム缶の周りには、ベンチや反対にしたプラスチック製のかごなどの座る場所が設けられていた。
十人以上のホームレスが腰を下ろしている。
「おーい、みんな。あんちゃんつれてきたべ~」
ザビエルの声が反響し、その声を聞いたホームレスたちが一斉に俺の方をぎろっと睨む。
こ、恐い。
前にハカセから聞いた話じゃ、ホームレスには縄張りがあるらしい。
だから、俺みたいなよそ者が来たらやっぱり嫌なんだろうな。
ドラム缶の灯火のあたる場所まで来て、ザビエルは足を止めた。
「このあんちゃんが、便利屋のあんちゃんだべ」
「よ、よろしく」
ザビエルの紹介に続き、軽い挨拶をしてみる。
……誰も反応なし。
うわ、すげえ帰りたい。
すると、座ってこちらを睨み続けていたホームレスたちが、ばらばらに立ち上がり始める。
え、なになに? なにが起こるの?
手荒な歓迎とかじゃないよね。
それから、何人かがこちらに向けてなにかを持って構えるような体制をとる。
のどにへばりついた唾を飲み込む。
その次の瞬間、何かを引き抜くような乾いた音と同時に、俺の視界を細長いものが何十個も飛んできて覆う。
『ようこそ! 便利屋っ!』
高低差のある声が一斉に聞こえた。
え? ようこそ?
視界を覆った紙のようなものを振り払うと、次に視界に捉えたのはさっきまで俺を睨み続けていた人たちの満面の笑みだった。
状況がつかめない。
『いや~、よく来たな便利屋』
『おい、どうしたんだよ。その素っ頓狂な顔は』
「……え? どういうこと? だって俺のこと怒ってたんじゃ……」
ぶわっと笑いが巻き起こる。
え? え? 頭の演算が追いつかない。
「悪いな、あんちゃん。あんちゃんを驚かそうとしたんだべ」
「え? 驚かす?」
さっき振り払ったものを見る。クラッカーの紙くずだ。
それじゃあ、さっき俺に向けて構えていたのはクラッカー?
ということは、どっきり?
『どっきり成功ってか?』
『ははっ、悪かったな。便利屋』
「ささっ、あんちゃんこっちだべ」
ザビエルに腕を引かれ、空いたベンチに座らせられる。
なんだ。どっきりだったのか。
ていうか、こういうの前にもあった気がする。
『便利屋は、ビール飲むか?』
「いや、俺、未成年なんで」
『何だよ、面白くねえな。じゃあ、焼酎行くか?』
「どっちもアルコールだろうがっ」
思わずツッコんでしまった。
「あんちゃんはこっちだべ」
ザビエルから紙コップを受け取り、ジュースが注がれる。
『みんな行き届いたな? それじゃあ、かんぱ~いっ』
『かんぱ~いっ』
みんな一斉に高らかにコップを上げるとそのまま一気に飲み干してしまった。
それからまた、次を注ぎ足す。
俺はこの光景を確かに知っている。
俺も少しずつ飲んでいると、年配の男が言ってくる。
『便利屋よ~、本当によかったのか。ここの見張りなんてしてもらって』
「ん? ああ、別に大丈夫だよ」
『どうしてそこまでしてくれるんだよ。俺たちみたいなホームレスに』
「あんたたちも俺に力を貸してくれたからだよ。この前は、本当にありがとう。それに俺もホームレスだ。困ったときはお互い様。これが俺たちの掟だろ?」
『へっ、ガキが言うじゃねえか。ほらっ、どんどん飲め、この野郎っ』
「ちょっ、うわっ」
コップから零れそうなくらい注がれ、零れる前に少し飲む。
そして俺も少し気になることを聞いてみる。
「あのさ、その『ホームレス狩り』って、どんな奴らなんだ?」
「……よく分かねえんだべ」
「分からない?」
「んだ。目撃者はみんな姿を見ないうちに、倒されちまうんだと」
「……ん? 倒されるってことは、その目撃者は誘拐はされてないってことか?」
「んだ。よく分かんねえげど」
目撃者は誘拐されず、ある特定のホームレスだけが誘拐されてるということか。
おかしい。
いったい何が目的なんだ。
「それじゃあ、人数集めてみんなで待ち伏せしてればいいんじゃねえのか?」
『どっかの集落でやったらしいけど、ダメだったらしい』
「だめだった?」
『みんな倒されて、その集落の二、三人連れて行かれたらしい』
『なんでも、奴らの中にとんでもなく強い奴がいるんだってよ。そいつは速い上に強いからみんな奴らを目撃できないとかなんとか』
『それに、そいつ以外の連中もゾンビみてえに倒しても倒しても起き上がってくるらしいんだよ』
集団で待ち伏せていても敵わない化け物?
それに、何度でも起き上がるゾンビ?
なんだその、SFは。
「ただ、目撃情報によると、奴らは白いバンで誘拐に来ることだけは明らかなんだべ」
白いバン……か。
ていうか、今の情報が全て正しいのだとすると、そんな連中俺がどうにかできるとは思えねえな。
くそっ。そんな情報があるなら先に言っといて欲しかったよ。
「まあ、今日来るわけでもないんだから、そう気負わんでいいべよ」
『それもそうだな。さあ、気を取り直して飲むぞっ』
『よっしゃっ、飲むぞっ』
まったくなんて、能天気な奴らだ。
まあ、確かに今日来る保障はないし。
気にすることもない……よな。
阿比留公園の方は……問題ないな。ママ居るし。
それからは、阿比留公園の連中とやってることは変わらなかった。
駄弁って、飲んで、冷やかして、笑う。
それを繰り返して、ただただ時間が過ぎていく。
心の中が何かで満たされていくような感覚。
何も変わらない。ここにも確かにあるのだ。
形にできない、暖かいものが。
時刻は深夜に突入し、みんなハウスの中に戻っていってしまった。
ザビエルも「おいらのメガトンパンチが火を噴くべ」とか意味不明な寝言をほざきながらベンチで寝ている。凍死しないだろうか。
俺は静かになったこの場所でドラム缶の焚き火で暖をとる。
曇り空だったのが、今はすっかり晴れて、星と満月が顔を出している。
都会でもこんなきれいな星が見えるんだな。
多分、この寒さのせいで感覚が鋭くなっていて、きれいに見えるだけなのかもしれないけど。
それにしても寒い。
耳が痛い。指の先が赤い。しかも、まぶたが重い。
いかんっ! このままでは寝てしまうっ。
体を動かすか。
俺は立ち上がり背伸びをし、ラジオ体操を始めてみる。
夜にやるラジオ体操はなんか、新鮮だな。得した気分だ。
えっとこの後なんだっけ? 深呼吸だっけ?
ああ、よく考えたら、俺ラジオ体操あんまり知らないや。
俺は馬鹿馬鹿しくなり、またベンチに腰を下ろす。
なんかだんだん頭が働かなくなってきたな。
こういうときにこそ、キリヤからもらったハッカ味が効くと思うのだが、あいにく今はない。
取っておけばよかった。
てか、今何時だ?
もう、今日は来ないだろ。俺も寝ようかな。
そう思い、目を閉じる。
今日は虫の音がうるさいな。
そこまで騒がなくても、しかもなんか段々大きくなっているような―――っ!
俺は目を一気に開ける。
虫の音じゃないっ、これは……エンジン音っ!
―――その刹那、轟々しく鳴り唸るエンジン音とともに白い閃光が俺の目に突き刺さる。
それから、工事用の鉄柵を破り、白い破片を飛び散らせながら、ブレーキ音が耳鳴りするほどにこだます。
腕で光をさえぎり、その光の先を見やる。
地面に黒々しく焼き焦げたブレーキの後。
そのブレーキの後から伸びる、白い四輪の影。
星明りの道しるべに乗った、白いバン―――
感想やアドバイス、誤字・脱字などの指摘お願いします。




