↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ホームレスヒーロー。』  作者: あああ
第一章 CHANGE OF HERO ~冬に咲く、ひまわり~
PR
10/43

第九話 昼下がりの危ないホスト

 翌日。

 いつものようにハカセと炊き出しへ行った。

 その後、空き缶拾いを三時間ほどしてから、俺はハカセと別れて行動を開始した。


     * * *

 

 俺には、今日やらなくてはならないことが二つある。

 一つ目は、買い物だ。

 たくさん買わなければならないものがある。

 第一に服。これは、必要不可欠だ。

 ママにも言われたが学ランでは、ポリ公……もとい、税金泥棒……もとい、警察官に会ったとき、ものすごく面倒なことになる。

 警官は本当に面倒だ。俺が、暴走族の件で連行されたときの、あの警官たちの剣幕と罵声は忘れない。

 よって、服を優先して買う。

 次に、毛布。これも必要不可欠だ。

 もうすぐ、冬がやってくる。冬に何も被らずに寝れば、まず間違いなく凍死する。

 誰にも聞かなくても、これくらいなら分かった。

 後は、時計と石鹸とシャンプーリンスと、歯ブラシセットくらい……かな?

 必要なものを見つけたら、その都度買えばいいか。衝動買いしない程度に。

 

 二つ目は、この体を清潔にすることだ。

 ここ五日間くらい体を洗っていない。思春期の男子としては、とても耐えがたい。

 買い物の後、銭湯にでも寄って帰ろう。

 ホームレスの俺に、こんなたくさんのことができる金があるのは、先日、ママのスナックバーで働せてもらったからだ。

 特に何十時間も働いたわけでもないのに、結構なお給料をくれた。

 ママには、頭が上がらない。

 でも……なぜ、他人の俺にそこまでできるのだろうか。

 なぜ、他人の俺をファミリーだなんて言ってくれるのだろうか。

 『困ったときはお互い様』彼らは、いつもこの言葉で俺を助けてくれる。

 自由に生きる彼らを唯一束ねるルールだ。

 この優しさに甘えてしまっている俺が、どうしようもなく情けなく感じる。

 俺もこの人たちのように為れるだろうか……いや、多分、為れないだろう。

 どんなに優しく繕っても、人は簡単に目の前から消えてしまう。……母や親父のように。

 ……やめよう。こんなこと考えてもしょうがない。

 今日も、空は青い。人の気も知らずに。

 そして、歩き始める。歩くこと以外に移動手段はない。


     * * *


 軽く一時間は歩いただろうか。繁華街は今日も賑わっていた。

 巨大な百貨店や専門店、飲食店などが建ち並んでいる。超高層ビル群が俺を見下すように堂々と立っている。

 色とりどりのファッションをした若者や忙しそうに歩くサラリーマン。やはり、俺の時間だけが止まっているように感じる。

 まあ、今に始まったことじゃないか。

 俺は、適当に古着屋を探すことにした。

 繁華街には数えきれないほどの店が立ち並び、古着屋なんて腐るほどあった。

 その中にある一つの古着屋に立ち寄る。

 店員の元気のいい挨拶に驚きながらも店内に入っていく。

 テンポの良いレゲエが店内に流れている。

 衣服は無造作に並べられたり、天井からぶら下げられていた。

 その中から、黒のレジャージャケットとスウェットを二枚と長袖のトレーナーを二枚、ジーンズを二枚買うことにした。

 試着室に入り、サイズを確認するために学ランを脱ぎ、ジャケットを着た……その時だった。

 試着室のカーテンを勢いよく開け、人影が入ってくる。


「なっ!」


 あまりに突然の出来事で頭の整理が追い付かない。

 目の前にいる人は、息を切らして膝に手をついている。呆気にとられていると、その人は顔を上げ、ニコリと笑う。


「ごめんごめん。驚かせちゃった? 今、追われててさ、すまないけど匿ってくれない?」


 透き通るようなスイートボイスでその人が言ってくる。

 すごいイケメンだ。茶髪で背の高い、すらっとした体形をしており、黒のYシャツの上に真っ白なスーツに身を包んでいる。どこの業界の人だろう。オーラが違う。ホストか何かだろうか。

 ていうか、追われているって?


「あ、あのっ……」

『すみませ~ん。ここに白いスーツ着た人来ませんでした?』


 女の人の声が試着室の外から聞こえてきた。

 イケメンが手を合わせて、「頼む」と言うようなポーズをしている。


「い、いえ、誰も来てませんよ」


 仕方なく嘘をついてしまった。


『そうですか。……どこ行ったんだろう』


 足音が次第に遠ざかっていく。

 イケメンがカーテンの隙間から外を確認すると、大きく息を吸って吐いた。


「ふう~。ようやく、撒いたか。ありがとう。助かったよ」


 そう言って、白い歯を見せる。


「あの女の人に追われていたんですか?」

「そうだよ。元カノなんだけど、別れたのにしつこくてさ」


 首を振りながら言う。

 やっぱり、こんなイケメンなら女関係が複雑なんだろうな。


「おっ、もうお昼か……ねえ、君」


 腕時計から目を離すと、俺に向き直る。


「助けてもらったお礼したいからさ。今からご飯食べに行かない?」

「いや、お礼されることは何もしてないと思いますけど」

「いいから、いいから。俺の気持ちだから」

「はあ」


 まあ、いいか。別に急いでいるわけでもないし。


「じゃあ、外で、待っててくれますか? これ買ってくるんで」


 イケメンは、OKのサインを指で作ると入口の方へと向かって行った。

 俺は、会計を済ませると、試着室で着替えて急いで入り口に向かった。


「そのジャケットいいね」


 歩きながら、イケメンが言う。


「はあ」

「あの付近の店にしては、いいセンスしてると思うよ」

「そうですか」


 正直。服の話をされても、分からんだけだ。


「ていうか、ホントに良いんですか? 元カノさん」

「良いって良いって、この世界には綺麗な女の子が数えきれないほどいるんだよ? あの子もそのうちの一人でしかなかったってことだよ」

「意味分かりません」

「ははっ。 要するに綺麗なだけだったってこと」


 ますます、意味分からん。

 周囲の人たちの視線が俺たちに集まる。こんな人の隣を俺なんかが歩いていいのかな。

 すぐ近くのファミレス立ち寄ることになった。

 窓際の席に案内され、座る。


「好きなもの頼んでいいよ」


 イケメンがソファにドッカリ座り、メニューを片手で見やる。

 うわっ、このアングルから見たら益々カッコよく見える。

 俺もメニューに目をやる。

 やっぱり、なんか気が引けるな。何をしたわけでもないのにおごってもらうなんて。

 だが、丁度小腹が空いていたので安い飲み物を頼むことにした。親切は、素直に受け取るべきだ。

 女の店員がやってくる。


「メロンクリームソーダを一つ」

「じゃあ、俺はコーヒーとハニトーお願い」


 注文を取りに来た店員がイケメンを見入っている。我に返り、慌ててメニューを繰り返すと速足で戻っていった。


「メロンクリームソーダなんかで良かったわけ?」

「はい。あんまりお腹すいてないし、結構好きなんで」

「ふ~ん」


 またしても、周囲の人の視線が俺たちに集まる。

 あっ、そういえば、名前聞いてなかったな。


「あの、名前聞いてもいいですか?」

「ん? あ~、名前ね」


 そう言うと、スーツの胸ポケットに手を突っ込む。


「私、こういうものです」


 黒い名刺を差し出してきた。


『 日雇いホスト 

       イーグル 』


 日雇いホスト? なんだそれ。


「イーグルさん……ですか?」

「そうだよ。その名刺、面白いでしょう。結構、女の子にウケ良いんだ」

「はあ。……それで、この日雇いホストってのは?」

「そのままの意味だよ。日雇い派遣ホスト。つまり、いつも同じ店で働いてるわけじゃないってこと」

「それって、サービスですか?」

「ん? どういうこと?」


 何で聞き返されるんだ?


「だから、ホストクラブのサービスなんですか?」

「あ~。そゆこと。いや、俺、ホストクラブに所属してないから」


 と、言いますと?


「俺一人でやってるんだ」

「えっ!? 一人でですか? そんなんで雇ってくれるんですか?」

「うん、割と。結構人気あるんだ。俺」


 それもそうだな。

 そこらにいるホストなんかより、圧倒的にオーラが違うし、憎たらしいほど顔立ちも良い。

 そんな会話をしていると、注文していたものが来た。


「待ってました! ハニトーいただきっ!」


 何枚も重ねた薄切りの食パンにバターや蜂蜜、止めにアイスクリームやチョコレートソースなんかが乗っているものを次々と口に放り込む。

 見ているだけで、胃がもたれそうだ。


「ハニトー、好きなんですか?」

「もぐもぐ、もぐもぐもぐぐぐぐ」

「飲み込んでから話しなさい」


 子供か。


「……うん、大好きだよ。ていうか、俺、甘いもの大好きだから」


 少年のような笑みで微笑むイーグルさん。

 俺もメロンクリームソーダに口をつける。

 ……うん、甘い。

 そう言えば、甘い飲み物を飲むのも久しぶりだな。

 改めて、糖分の有難さを思い知った。

 俺が糖分に感謝していると、イーグルさんが口を開いた。


「ねえ、知ってる? 昨日、あるスナックバーに無口で銀髪な美少女が現れたんだって。俺も、一目見ておきたかったな~」


 ん? スナックバーに無口な銀髪な美少女? まさかな。


「しかも、噂じゃ、ミニ浴衣着てたんだって」


 ……アレ? 確信じゃねっ?


「これ、その子の写真」


 スマートフォンの画面に写っているのは、俺の女装verだった。


「俺、思うんだけど、この子多分、男の子だと思うんだ」


 鋭いな。


「ど、どうしてですか?」

「たくさんの女の子の相手してきたけど、女の子にしては筋肉が付き過ぎだと思うんだ。しかも、若干、蟹股気味だし」


 ウソだろ。服着てるのに筋肉の付き具合なんて分かるのか?


「ていうか、この際ハッキリ言うけど、コレ。君だよね?」

「……な、何を言ってるんですか? この子が俺? そんなことあるわけないじゃないですか」

「いいや、これは君だね。俺の女の子を見る洞察力をなめない方がいいよ? 口元や鼻、目の鋭さなんかは隠せない。どんなにメイクをしていてもね」


 この人、一体何者なんだ? そんな細かいところに気が付くなんて。

 多分、どんな言い訳をしても無駄だろう。


「……そうですよ。よく分かりましたね」

「まあね。君を見た瞬間、頭に電気が走ったみたいだったよ」

「でも、お願いします。このことは、誰にも言わないでもらえませんか?」

「もち、そのつもりだよ。でも、この女装やばいね。メッチャ可愛いじゃん。俺も最初は騙されるところだったよ」


 女装を褒められても、嬉しくなんかない。


「でも、なんでこんなことしてんの?」


 イーグルさんは首を傾げる。


「いや~、その~、なんて言いますか~」


 どうする? ホームレスであることを言うか? それとも家出と言うことに……。


「もしかして、家出かなんか?」

「え? あ~、はいはい。そんな感じです」


 思わず嘘付いちゃった。


「家出か~。他に良いバイトなかったわけ?」

「えっと、知り合いのコネだったもので」


 俺もあんな仕事だって分かってたら、引き受けねえよ。


「ふ~ん。あっ、そうだ。今度、一緒に派遣ホスト行かない? 君、顔立ち良いし」

「え? いやいや、無理ですよ。ホストなんて」

「大丈夫だって。女の子を落とすのなんて簡単だよ?」


 うわ~。なんだその発言。

 馬に蹴られて死ぬタイプの人だな。

 それから、聞きたくもない女と男のグチャグチャな話を聞かされた。

 その話の途中、イーグルさんが勢いよく立ち上がる。


「ねえっ! 今、窓の外にいた、女の子見た!?」


 はあ? 俺は、窓の向こうを見る。

 こちらに背を向け、テチテチと歩く、ランドセルの女の子がいる。


「あの子がどうかしたんですか?」

「どうしたもこうしたも、メッチャキュートだったじゃん。アレは、美人になるよ。絶対!」

「はあ」


 それで?


「やっぱり、あのくらいの歳の子が俺のストライクゾーンど真ん中なんだよな」


 ……ん? 今、犯罪めいた危ない発言が聞こえた気が。


「あの年頃は、単純に人を好きか嫌いかで分けることができて、単純に好きだから好きでいられる。それ以外の感情はいらない」


 イーグルさんは、眩しそうに太陽を見る。

 つまり、純粋と言うことか?


「と言うわけで、俺、今からあの子追うから」


 イーグルさんが走り出そうとする。


「と、その前に。君、名前は?」

「お、大神 大神です」

「デウスね。じゃあ、またね」

「えっ! ちょっ待っ!」


 店を勢いよく出て言ってしまった。

 ……犯罪ですよ?

 ではなくっ! お会計……俺持ちですか?


 解けた氷が、コップの中で冷たい音に変わった。



感想やアドバイス、誤字・脱字などの指摘お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。