第7章 ウキウキときめきハルマゲドン
『1、2、3、はーい皆さんこんにちは!
銀河宇宙天界魔界全ての良い子のみんな、お元気ですか?
僕はサンタクロースのお兄さんだよ!
現在天上界テレビ局の第三スタジオから、全天界・魔界に対して生放送をしていまーす。
ところでみんな、森羅万象国際会議が開催されたのは、もう知ってるよね?
そこは天界・魔界の最高意思決定機関として、とても大切な場所なんだ。
そして僕こと、サンタクロース予算は削減され、廃止という事になりました。
はっはっは! 笑えません! 笑えませんよこれは!
僕はこれを受け容れたら、携帯ストラップの神にされちゃうんです。
せつねーっす! これは切ない! やってられません!
そこで僕は考えました。無い頭捻って考えました。無知の一番搾り。その結果――
そうだ、戦争しよう! やっちまえ! ハルマゲドンしちゃえ!
というわけで、今から大切な事を言ってやるから、耳の穴かっぽじってよく聞け。
テメェらに正々堂々と宣戦布告してやりますから、宜しくお願いしますクソ野郎共』
釈迦が、イエスが、ベルゼブブが、アスタロトが、その放送を同時に見ていた。
最後に映し出されたのは、思いっきり中指を立てて、ベロを出したニコラの顔。
天地開闢以降、どれほど緊張感が高まった時でさえ、神と悪魔は全面衝突を避けて、ハルマゲドンは回避されてきた。
数々の神々と魔王達が協議を重ね、平和は築かれて来たのだ。
しかし、悠久の歴史も、永久の平和も、たった一人の男によって脆くも崩れ去ったのだ。
男の名前は花巻ニコラ。元人間であり、ただのサンタクロース。
それ以上でも以下でもない。
そして、そんな放送を見て、一人身もだえる少女が居た。
地獄の底の、底の底。
岩窟の中でテレビに見入る、彼女の名前は六道炎夜。
「うおおおおお、萌える!
いや、燃えるわ!
やってくれたわサンタクロース!
天界とか魔界とかお構いなし、ぶちかましてくれた!
キュンキュンしちゃう!
この男こそ、いや、このサンタこそ、六道炎夜のムコに相応しい!
決めた、彼しかないわ!」
シュッシュッと拳が空を切る音。
見よう見まねのシャドーボクシングだ。
炎夜の体は字のごとく燃え上がり、血が全身にたぎっている。
女は一生のうち何度でも、やらねばならない時がある。
戦わねばならない時がある。
そして二人のドラマは始まる。
灼熱地獄の夏物語が展開する。
待ってなさいサンタクロース。
この私が、この六道炎夜様が、全財産全勢力全権を持って助けに上がるから。
ああもう、殺したいくらいに愛おしい。
この手で昇天させてしまいたい。
一緒に針の山に登ろう。
血の池地獄を共に泳ごう。
地獄の釜で混浴しよう。
人間界の子供達の為に!
光と正義の名の下に!
私のきゃっきゃうふふな未来の為に!
ハルマゲドン! なんと素晴らしい響きか!
ハルマゲドン! サンタクロースにこそ相応しい!
ハルマゲドン! 天界魔界の誰よりも、この私にこそ相応しい!
ああサンタクロース、この私の到着を待ってなさい。
首を長くして待ってなさい。
「炎夜さま、おやつをお持ちしましたよ」
不意にドアが開く。
ノックはしたのだが、炎夜はそれに気付いていなかった。
そして、反射的に体が動く。
「ほあたぁーっ! 炎夜チョーップ!」
「うひゃあ!」
思わず盆を落としてしまい、辺りに地獄チップスがちらばる。
「っと、ごめんごめん、鬼三郎だったのね」
「炎夜様、何やってるんですか……」
ぶつぶつと文句を言いながら、床に散らばった地獄チップスを拾い上げる。
いつもの事だが、この人のやんちゃは治るのだろうか。
鬼三郎は、自分より年上のはずの炎夜に対し、母親のような心境になる。
「ところで鬼三郎、今テレビは観てた?」
「いえ、掃除をしていたので」
「分かった。ありがとう。私はこれから少し出かけるけど、お父様には夕方には戻ると伝えておいて」
「お出かけですか?」
「ちょっとこれから戦争にね」
「戦争?」
「何でもない。それじゃ、いってきます!」
不審だと思いつつも、おかしな言動はいつもの事だ。
黙って鬼三郎は彼女を見送る。
余計な事を言うと、そこの窓から、血の池に叩き落とされてしまいかねない。
今までに何度もそんな経験があるのだ。
UFOが墜落したから出かける。
神と悪魔が現れる以前に居た、超古代生物に会ってくる。
彼女が出かける時の理由は、たいていそんなものばかり。
おおかた戦争とか言いつつ、地獄軍隊アリの争いでも見に行くのだろう。
ふとテレビを観ると、既にサンタクロースの宣戦布告は終わっており、放送されているのは、地獄漫才のホネホネトリオだ。
つまらないのでスイッチをオフにすると、鬼三郎はいつも通り掃除を始める。
今日も地獄は平和だ。
何事も無く、罪人達が阿鼻叫喚の声を上げている。
鬼三郎は軽く伸びをして、持ってきた地獄チップスを囓りながら、洗剤のついたモップを水に浸すのだった。