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第2章 知られざるサンタクロース・リアル・ライフ

 燃え盛るような太陽! トロピカルな果物! 打ち寄せる波の音はまさにパライソ!

 浜辺のデッキチェアに寝そべり、やどかりって不思議だよねなどと思いを馳せる。

 二代目サンタクロースを襲名して十年。花巻ニコラは毎年、クリスマスになると世界各地の子供達にプレゼントを配って回り、残りの休みはバカンスを楽しんでいた。

「――という妄想にふけって、楽しいのかしらニコラくん?」

 ガラガラと音を立てて、南国の風景は崩れ落ちていく。

 だが、まぶたを開けたくない。

 信じれば夢は叶う。

 サンタのおじいさんは教えてくれた。

 夢は見るものじゃない、叶えるものだと。

「黙ってくれ。僕の心は今、グアムのビーチにあるんだ」

「ここは地の果て、ロシア領でシベリアの最奥だよ」

「シベリアなんて知らない! 知らないんだ!

 僕の心は今グアムなんだあああああ!」

 頭を抱えてごろごろ転がるが、シベリアがグアムになるはずもない。

 まぶたを開けば、そこは永久凍土に包まれた、およそ人間が近寄る事のない氷の世界が広がっている。

「やれやれ、あんたってば本当に昔から変わらないわね」

 そう言って、両手で欧米人のような小馬鹿にしたジェスチャーをしているのは、彼よりも五歳ほど若く見える少女だった。

 だが、彼女の背中にはこうもりのような漆黒の翼があり、毛の生えた立派な耳が、ピンと頭の上に立っている。

 ニコラがサンタとしてシベリアの奥地に赴任してすぐ、死にそうになっていた所を助けた、はぐれグレムリンのナナ。

 最初は治療が終われば、好きな場所に帰れと言ったのだが、行き場の無い彼女はここに居候し、ニコラの乱れた日常を監視している。

 いわば小さな母親代わりとなっている。

 炊事、洗濯など、実に器用にこなすことから、彼としてもナナの存在は、話し相手になるということもあり、彼としても追い出す理由も無いことから、最北の地で二人静かに暮らしているのだ。

「ナナのおっぱいと違って、僕はちゃんと去年より身長が一センチ伸びたんだ」

「うそくさーい」

「なっ、本当だぞ!?

 ナナ、疑ってるのか?

 サンタを疑うとおっぱいが小さくなるんだぞ?」

「どうせこれ以上無いくらいフラットなのよ。

 へこんだら水を溜めればいいしー」

 そう言って、ナナはぺたんこの胸を撫で回し、えへんとばかりに胸を張る。

 何を自慢したいのだろう。

 小さな胸には夢と希望など無く、ツンドラのように冷たくて平らなだけだというのに。

 ああもう、可愛くない。

 すごーくすごーく可愛くない。

 なぜこんなにビッチなグレムリンに育ってしまったんだ。

 拾った時はあんなに小さくて、きゅんきゅんするほどぷりてぃだったのに。

 ニコラは自問自答する。

 だが、あまりにも自分好みに育てようとして、へそ曲がりになってしまったというのは、分かっていても気にしてはいけない。

「全世界の子供が知ればガッカリだな。

 トナカイじゃなくて、お前みたいなビッチグレムリンがサンタさんのそりを引いてるなんて知ったら」

「誰がビッチよ、誰が!

 そもそも私が居なきゃ、あんたはサンタの仕事できないでしょう?」

「うー、トナカイの奴め。僕を裏切るとは……」

 声のトーンがダウンする。

 赴任してすぐのあの時、彼はどうしても欲しいゲーム機があった。

 家賃の支払いはあるが、どうしても今すぐ欲しい。

 誘惑に負け、家賃は来月まとめて払えばいいと思って、後回しにしたところ、天上銀行からトナカイのエサ代に差し押さえが入ってしまったのだ。

 結果、トナカイたちは、自分達のひづめを使って、トナカイ語の置き手紙(おそらく三日だけ一緒に過ごした事への感謝の言葉と、思い出をいっぱいに書きつづっていただろうが、残念ながら読めなかった)を、こたつの上に置いて、フィンランドの実家に帰ってしまったのだ。

 天界の住民としての試練と現実に深く絶望したニコラは、それ以後の出費を慎むようになった。

 結果として、はぐれグレムリンだったナナがその代わりとしてそりを引くようになり、今に至っている。

「いつも思うけど、人望が無いサンタってどうなのよ?」

「そんなことはないぞ。

 ほら、感謝の手紙は、クリスマスを過ぎて、正月になった今でも届くだろう?」

「えーっと、サンタさんへ。

 ぼくがほしかったのはこれじゃないです。きをつけてください。

 ……これが感謝の手紙かしら?」

「みんなはありがとう、ちゃんと言えるかな?」

「誰に向かって言ってるのよ! ごまかすなっ!」

「違うぞナナ! 僕が悪いんじゃないだろ?

 この魔法の袋が、子供達の欲しいものを出さないのが悪いんだ!」

 バンバンと、部屋の片隅に置かれた袋を叩く。

 それはサンタ秘密道具の最終兵器、魔法のプレゼント袋だ。

 子供が欲しいもの(ただしニコラ本人は除く)を、精神感応でキャッチして取り出してくれる、すぐれもののパートナー。

 なのだが、最近はそのリクエストの間違いも多く、こうした不満の手紙も届く事がある。

「なんかプラカード出して抗議してるよ」

「なになに、『予算不足で、子供が欲しいものが手に入らない事もあります』なるほど」

「予算不足……最近の私達、本当に現実的な事してるよね……」

 ナナは溜息を吐いて外を見る。自分も本当は、子供達が喜ぶ顔を見るのが大好きだ。けれど、最近は高いおもちゃも多く、実際に子供が望むものを出せない事もある。

「そうだな。まさか世界中の子供達も、正月のサンタさんが貧乏過ぎて、具の全く入ってない日本式お雑煮を食べているとは思うまい」

「わびしいよねえ。もう少しサンタ予算増えないの?」

「森羅万象国際会議に、予算増加願いを提出したんだが、議題にさえされず、却下された」

 ぐにぐにともちを噛んで伸ばしながら、ニコラは気のない返事をする。

「まあ、信者が居るといっても子供だけだしね」

「でも、その子供達が待ってるから、頑張れるんだろう」

「そうだね♪」

『がんばりましょう!』

 袋もちゃっかり、プラカードを出して会話に加わる。

 二代目サンタクロースを襲名して十年。

 色々紆余曲折もあったけれど、少しは自分がサンタだと、胸を張れるようになっただろうか。

 ケーキ屋の帰り道に、突然サンタに力を授かり、二度と帰らなかったあの日。

 今でも園長先生達の事を考えると、目頭が熱くなる。

 まだ健在だろうか。

 お変わりないだろうか。

 僕は今、こんなに立派に育ちましたよ。

 いつかもう一度会って、お礼を言いたい。

「また昔の事、思い出してる?」

「ああ……」

「私なら、いつでも日本まで飛んでってあげるのに」

「駄目だよ。こんな飛び出し方をした放蕩息子が、今さらどの面下げて会えばいい」

 自嘲気味に笑うと、こたつの上に常備しているウォッカを呷る。

 半分流れているロシアの血のせいか、しんみりした時ほどウォッカはじわりと胸に来る。

 アルコールでかあっと熱くなったらレモンを囓り、塩をなめる。

「よくそんなの飲めるよね。私はお子さまだからアイスミルクでいい」

「っつーか、お前ミルク以外の栄養、ほとんど受け付けないだろうが」

 ちゅうちゅうと、ストロー付きのマグからミルクを吸い上げながら、ナナはにこにこと笑う。

 今日もシベリアの奥地は平和だ。

 宇宙人が攻めてくるか、ハルマゲドンでも起きない限り、これからもずっと平和であり続けるだろう。

「おなか一杯になったら眠くなってきちゃった。起きたら来年のクリスマスプレゼントのデータ打ち込みするから、起こしてね」

「ああ、お腹出して寝るなよ」

「おなか出しても、グレムリンは風邪引かないもん」

 そう言って、ナナはごろりとこたつで横になる。

 開いているノートパソコンにも、きちんとパスワードでロックを掛ける。

 ニコラは見ないだろうけれど、念のためだ。

 遅くなったけれどクリスマスプレゼント、今年こそは手編みのマフラーをプレゼントしたい。

 けれど、一生懸命に勉強してるところを見られたら、恥ずかしいもんね。

「ふああ……僕も眠くなってきたなあ……

 天界通信だけ確認したら、僕もお昼寝しよう」

 いつも通り、天界専用ノートパソコンにアクセスすると、メールが来ていた。

 天界新聞のメールマガジンで、森羅万象会議の内容が届いているだけだった。

 どうせ自分には関係ないだろう。

 そう思い、スイッチをオフにして横になる。

 外は静かで、昼間だというのに太陽はほとんど昇らない。

 お昼寝にはもってこいの環境だ。

 今日も子供達の笑顔に会える夢を見れるといいな。

 そう思いながら、ニコラはそっとまぶたを閉じる。

 いつしか、粉雪がしんしんと降り始めている。

 ニコラがサンタに出会った、あの夜のように。

 それはゆっくりと、思い出のよう積もっていく。

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