エピローグ 三千世界にメリー・クリスマス!
「あーもぉーっ! 鬼三郎っ、酒!」
「はい、ただいまお持ちいたします!」
地獄の執務室で、酒を飲みながら血の池を見下ろす炎夜。
本当はサンタの仕事を手伝いたかったのだが、クリスマスだというのに悪人が多かったせいで、彼女も仕事漬けとなっていた。
目の前に積まれた書類には、びっしりと細かな文字で、生前の罪状が書かれている。
「なんで悪いコトするかな! 閻魔大王が怖くないの? 地獄が怖くないの?」
「僕に言われましても……」
困ったような顔をする鬼三郎。
そして、その後ろから二人の見慣れた男女が姿を現す。
「ご機嫌斜めですねえ炎夜様」
「メリークリスマス、炎夜」
「スブーティ、それにデュラ!」
白い正装に身を包んだスブーティは、ろうそくの立ったクリスマスケーキを持っている。
隣に立つデュラは、今日は鎧を外して赤いドレスに身を包み、首もしっかり上に付いている。
「何よ何よ、独り者ばっかり集まっちゃって寂しいわね」
「ちょっと、あなたと一緒にしないでよ! 私にはベルがいるんだし!」
「はいはい、ケンカは後にして、中に入りましょう」
岩盤で出来たテーブルにケーキを置くと、デュラは大きく四つに切り分ける。
そして、三枚しかない皿の一つにそれを載せると、鬼三郎に渡した。
「僕に……ですか……?」
「ケーキはお嫌い?」
「好きです! はい!」
「じゃあ、あなたにもクリスマスね♪」
「おひはふほー、あわへへはへへ、のほひふはへはへはひほーひ」
口一杯にケーキを頬張りながら、炎夜は何かを注意する。
多分、慌てて食べて喉に詰まらせないように、とでも言っているのだろう。
そんな姿を見ると、地獄はこれで運営できているのか、スブーティとしては不安になる。
「閻魔大王様は、お元気ですか炎夜様」
「うん、多分来年中には復帰できるよ」
「え……」
スブーティは我が耳を疑う。
ほぼ復帰は絶望的と思われていた閻魔大王が、戻られるというのだ。
それは天界にとって、この上もない大ニュースだろう。
そして、スブーティにとっては、ほんの少しだが肩の荷が下りる事になる。
あまりにも嬉しいニュースだが、なぜ今さらなのか?
突然の朗報ではあるが、疑問が残る。
不思議そうな顔をするスブーティに対し、炎夜は補足する。
「ニコラが来て、何かプレゼントしていったみたい」
「ああ、あの人が」
「不思議よね。プレゼント一つで、あれほど落ち込んでいたお父様を立ち直らせるなんて。
嬉しいけど、少しだけ悔しい」
「でも、そんなサンタクロースが大好きでなんでしょう、炎夜様?」
「当然よ!」
バンとテーブルを叩き、立ち上がる。
「閻魔の娘、六道炎夜の伴侶となるのは、花巻ニコラこそ相応しいわ!」
「ふふふ、ナナちゃんも大変なライバルさんを持ってしまったわね」
「あなたもドラコちゃんがいるじゃないですか」
「そうね、負けてられないわ」
歳の離れたデュラと、お互いに笑い合う。
何歳になろうとも、恋は女の最大の仕事だ。
「あーっ、俺抜きでパーティーしてんの? ひっでぇ!」
「ラーフラ!」
「酒と地獄トカゲのジャーキー持ってきたんだ。食おうぜ!」
ずかずかと入ってくると、そばにあった椅子を引き、どっかと腰を下ろす。
「あなたも今日は、ベルに振られちゃったのね」
「だってクリスマスはサンタの部下なんだし、仕方ないだろう」
しゃれこうべの盃に酒を注ぐと、それを一気に飲み干す。
「寂しく盛り上がろうぜ。クリスマスをよ!」
そう言って、今度は炎夜の器に酒を注ぐが、もちろん彼女もそれを飲み干す。
すると、良い飲みっぷりだとラーフラは満面に笑みを浮かべた。
「不思議ですね。仏教に帰依する私達と、悪魔が共にクリスマスだなんて」
「いいんじゃねえの? サンタクロースがいるくらいに、何でもありの世の中だ」
「サンタクロース! いつか私のムコに!」
「炎夜様みたいに凶暴じゃ、サンタ様どころかお嫁さんのもらい手が僕は心配です」
「鬼三郎……ちょっと表に出なさい……」
「ひいいっ?!」
「まあまあ、今日は無礼講ってことで炎夜ちゃん、ね?」
こうして、地獄のイヴは更けていく。
やがて、宴もたけなわとなる頃、仕事を終えたベルとドラコ、ナナとニコラが現れるのは、数時間ほど後の事だ。
クリスマスは特別な日。
クリスマスは幸せのかたち。
サンタクロースは笑顔を運び、人も神も魔も関係なく、心と心を繋いでいく。
たくさんのプレゼントが配られ、その数だけ笑顔が生まれる。
世界中の子供達が思う。
毎日がクリスマスだったらいいのに。
ニコラは言う。
僕もそうだといいなって思うよ!
天界に、魔界に、人間界に、降り積もるメリークリスマス。
また来年も、幸せなクリスマスで会いましょう。
(了)
さて――
これにて『超弩級要塞のサンタクロース』は終了となります。
ずいぶん昔に投稿小説用として書いたものです。
当時は伏線は全て回収する! というルールを知らなかったばかりに、そういう部分で消化不良が否めない部分が残ると思います。
お目汚し、ご容赦下さい。
また、ここまで読んで戴いた読者の皆様に、心からの謝意を。
ご批評、ご感想、もしあれば、おっしゃっていただければ幸いです。
これからも色々書いてゆきます。
またご覧頂ければと思います。
それでは、ありがとうございました! <≧▽≦>ノ
追伸
ホラー小説『爪の音』(完結)を掲載しています。
もし私の作品にご興味を持って頂けたなら、こちらもご覧下さい!
http://ncode.syosetu.com/n7536o/