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第1章 森羅万象国際会議 議題 サンタクロース予算削減について

 その日、天上界特別平和自治区の国際会議場KUMONOUEには、天界と魔界の全土より、名だたる神霊、悪魔、天使、妖精達が集まっていた。

 ハルマゲドンの勃発かと見まごうばかりの光景だが、そうではなく、これからも天界と人間界と魔界のバランスを保つべく、神と悪魔が一同に介して、様々な議題を決める国際会議が百年に一度開かれているのだ。

「えー、それでは第二十一回、森羅万象国際会議を始めます。

 まずは議題、人間界でうっかり失敗した天使を、堕天使認定する基準が厳しすぎるのではないか?

 についてです」

 黒服に身を包み、人間に擬態している悪魔、アスタロトが議題を提出する。

 会場からは、にわかにざわめきが起こった。

「ただでさえ魔界の悪魔が増え続けてるのに、失敗したくらいで堕天使としてこっちに送らないで欲しい」

「そうは言いますが、私共としても、うっかりしたからといって、人間達に戦争を起こさせてしまった天使を、天使と扱うわけにもいかない事情がありまして……」

 天の下も天の上も、台所事情が悪化しており、どこが尻拭いをするのか? というパワーバランスについて、問題は恒常化しつつある。たまに下界を見渡す神や魔王達は、あまりにも自分達と人間の似通った姿に、思わず溜息をもらす事も多い。

「えー、続きましての議題です。

 サンタクロース予算の削減について」

 アスタロトの声に、会議場は静まり返る。

 サンタクロース予算は、天界、魔界、双方より共同で毎年費用が計上されている上に、かなりの負担となっているのだ。

 そして、その予算削減こそは、この会議に於ける最大の争点となっていた。

「えー、サンタクロース予算についてですが、現在のところ、年間千億ヘブンを計上していますが、最近の人間の子供達はサンタクロースの存在を信じず、良い子の割合も減っており、もはや必要ではないとの声が天上界、魔界の双方より上がっております」

「異議あり!」

 声を出したのは、閻魔大王の娘、六道炎夜ろくどうえんやだ。

 真紅のドレスに身を包み、彼岸花のコサージュを付けたその姿は、まさに貴族の令嬢という雰囲気を漂わせている。

 有力議員、閻魔大王の代理として、森羅万象国際会議に初出席という事もあって、この異議に対し、誰もが一斉に注目した。

「サンタクロース予算は人間達の、特に子供達の情操教育と秩序を保つ為に、大変必要なものです。それを削減するなど、言語道断です。私は地獄を代表し、正式に反対を表します!」

 すぐに可決の流れになると思っていただけに、閻魔大王代理からの反対表明は議場をざわつかせる。

 隣の者と相談する者、考え込む者、何かを手帳に書く者、それぞれの顔には何とも言えない空気が漂っている。

「えーっと、お嬢さん、閻魔さんとことはよく付き合いがあるんですが、初めましてかなあ?

 私、釈迦という者ですけどね、サンタは神でもなく悪魔でもない。

 一応、イエスさんところのカテゴリには入るみたいですが、もはや子供達が作り上げた虚像ですよね。


 別にご神体があるわけでもなければ、聖典があるわけでもない。

 奇跡を起こした事も無いし、明確な信者もいない。でしょう?」

 ぽりぽりと頭を掻きながら、仏スマイルで優しく訴える。

「だからどうしたと言うんですか。

 お釈迦様が子供の夢を奪って宜しいんですか」

「子供は大切ですよ、ええ。

 けれど、私ら仏教の立場からしたら、別にクリスマスそのものも無くて良いわけですし、そもそもサンタって何? とかね。

 私も子供に聞かれると、説明にも困るわけでして。後ね、予算とかの絡みもあるでしょ?」

「そんなもの! このお釈迦様お供え思いやり予算を削れば宜しいでしょう!」

 にわかに会場はざわめき出す。

 それもそのはずだ。あからさまに不透明な出費と言われながらも、公然と批判される事は無かった予算の聖域。

 だが、閻魔の娘はお構いなしに、ずけずけと突っ込んでくる。

 さすがの釈迦も、これにはぴくりと眉をつり上げた。

「あのね、必要な予算は必要な予算なんですよ。

 それにねお嬢さん、今はサンタクロースの事を話しているんでしょう?

 お釈迦様お供え思いやり予算は関係無いと思いませんか」

「無駄なお金があるならそれを削って、サンタ予算に回せと言っているんです!」

 炎夜は書類を高らかに掲げ、それを机に叩きつける。

 それは天歴二万八九八年度予算案だ。

 サンタクロース予算は、このうち一%未満なのに対し、お釈迦様お供え思いやり予算は、三%近くを占めている。

 全仏教連合予算が十六%であることを考えれば、不透明な予算としてはあまりにも多額と言える。

 だが、そこにさらなる言葉を投げる人間が居た。

 茨の冠をかぶり、白い薄衣に身を包んだ髭の男性、そう、イエス・キリストだ。

「炎夜さん。

 実際の所、サンタを信じてる人間も少ないという現実があります。

 私としても、あの赤い服を着て子供にプレゼントを配って歩く人と、サンタクロースの語源ともなっている、教父聖ニコラウスとは区別している現実があるんですね。

 つまりその、時代の流れというのもあるでしょう?」

「イエスさんまで!

 見損ないました!」

「天には天の現実ってものがあるんですよ、お嬢さん」

 サンタクロースの最大の保護者と思われていたイエスが、サンタクロース廃止派として名乗りを上げる。

 この事態に、議会の流れは目に見えて変わった。

「皆さん、どうかよく考えて下さい!

 サンタクロースに心を時めかせる子供達の事を!」

 声を張り上げる炎夜だが、その響きはどこか虚しい。

 所々から聞こえて来るのは、やはり廃止が妥当、予算的に仕方がない、そもそもサンタって何? など、彼女にとって向かい風となる発言ばかりだ。

 もはや自分に味方はいないのだろうか?

 だが、諦めるわけにはいかない。

 自分が諦めたら、サンタクロースは本当にお伽話の存在にされてしまうのだ。

「サンタクロースはこの事を知らないんでしょう?

 本人に知らせずに職務解任。

 こんな横暴がまかり通るなんて、我々の民主主義はここまで落ちたのですか?」

「それにつきましては、事後処理案として、サンタクロースから携帯ストラップの神になるという移籍が決定しています」

 ずり落ちた眼鏡を上げながら、書類の項目を淡々と話すアスタロトに、炎夜はひどい頭痛がしてきた。

 こいつらは、真面目に天上天下の事を考えているのか。

 自分達が良ければそれでいいのか、と。

「そろそろ時間が差し迫っていますよ。議長、決を採って下さい」

「おっと、そうですね。

 それではサンタクロース予算削減について、賛成の方、起立をお願いします」

 アスタロトの声と同時に、さざ波が押し寄せるように、議員達は次々と起立する。

 天上界に於ける最有力議員二人が賛成を明確にしたのだ。

 これに従わねば目を付けられ、左遷ポストに追いやられてしまうだろう。

 一方で、悪魔としてはそもそも反対する理由が無い。

 有力な神霊達が是とするなら、これに従っておけば、波風を立てずに済む。

 結果、着席しているのは炎夜一人という、何とも寂しい状態になってしまった。

「う~、どいつもこいつもわからんちん共なんだから」

「賛成一九九九、反対一、よって本案を可決します。

 以上、議題は全て遅滞なく終了しました。

 第二十一回、森羅万象国際会議の閉幕を宣言します」

 どっと拍手が湧き起こり、誰もが席を立っていく。

 だが、納得のできない炎夜だけは、苛立ちを隠そうともせずに、座ったまま、空席となった議長席を睨み付けている。

「炎夜さま、もうおうちに帰りましょうよ」

 付き人の鬼三郎おにさぶろうが、こわごわと声を掛ける。

 だが、聞こえていないのか、炎夜はそれに返事をしない。

「炎夜さまぁーっ、そろそろ迎えの輪入道が来ますよ」

「わかってるわよっ!

 うるっさいなあ!」

「ひいいっ!」

「あーっと……ごめんごめん、鬼三郎に怒っても、どうにもならないよね。

 ごめんね」

「いえ、世界で一番サンタクロースラヴ選手権で惜しくも二位になられる程、サンタ信仰をしていらっしゃる炎夜さまですから、お気持ちはとても分かります」

「そうよ。

 私ほどサンタクロースを愛してる存在は居なかったはずなのよ。

 なのに、天界や魔界の住人ならともかく、よりによって下界の人間に負けちゃうなんてさ!

 でも、二番だったから、私の思いが議会に届かなかったのかなあ。

 私のサンタさんへの熱い思いが無駄になっちゃった。

 寂しいなあ」

「でも、炎夜さまが好きだったサンタさん、引退されちゃったんでしょう?」

「そうなのよ。よりによって、人間がサンタになるなんて信じられない。

 けれど、サンタには違いないし、サンタにはサンタの義務、サンタ・オブリージュ(サンタなる者の義務)を守ってもらわなきゃいけないわ」

 頬をぷうっと膨らませ、腰に手を当てている。

 その姿はどう見ても、地獄を統べる閻魔大王の娘には見えない。

 だが、そんな人懐っこい姿の炎夜の方が親しみやすいと、鬼三郎はいつも炎夜に言っている。

「そう言えば、この予算削減案って、一応拒否権がサンタの方にあるのよね」

「あ、はい。天界法第三八条九項により、三ヶ月以内には異議申し立てを行う事が出来ます」

「だけじゃないでしょう。十項も読んだ?」

「異議申し立てをしても受け付けられない場合、聖戦を宣言し、当該議員達に対し、宣戦布告を行い、武力解決を図る事ができる特例ですよね。

 でも、これをやっちゃうと、今の世界ではハルマゲドンになってしまいます。

 サンタさんも多分、携帯ストラップの神になられるでしょう」

「そうかなあ……」

 炎夜はにやにやと笑い、ほおづえを突く。

 この天上界の全てにケンカを売るようなサンタならば、自分はいつでも馳せ参じよう。

 子供達の夢を守るために、命を賭けられるような男なら、私のムコにしてもいい。

 この閻魔大王の娘、六道炎夜に相応しい相手だ。

「そしてサンタさんとあんな事やこんな事……あっ、だめ、そこはくつ下じゃないのほおおお!

 うふふっ、いけないサンタさん♪

 それはクリスマスまでおあずけなんだモン!」

「何やってるんですか炎夜様……」

「あ、輪入道」

 思わず辺りの空気が凍り付く。まさに絶対零度のエクスペリエンス。

 六道炎夜は地獄の象徴にして、高貴なるもの。

 まかり間違っても妄想の中でサンタクロースとくつしたを追い掛け合い、きゃっきゃうふふしている妄想に浸っている姿を見られるなど、あってはならない。

 絶対に、あってはならないのだ。

「あなたは今、何も見ていないわね輪入道……」

「はいっ、いつもの事ですが何も見てません!」

「いつもの事?」

 炎夜の顔が満面の笑みに包まれる。

「あ、しまった」

 その日、天上界特別平和自治区では、初めて守護天使と悪魔警察が出動する騒ぎとなったが、色々な大人の事情から、天上界新聞各社、並びに天上テレビ局はこれを報じることは無かった。

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