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第11章 仕事を終えてどや顔で帰ってきたら、あるはずの場所に家が無かった時どう思った? 

 公海とは、どの国にも属さない自由の海を指す。

 そこに於いてはあらゆる法律の埒外とされ、国際法のみが適用される。

 そして、然るべき手続きを踏めば、誰もが人工島を作る事が許可されている。

 国籍、言語、信仰を問わず、誰もが、自由に利用する事ができるのだ。

 そして、そこに臨時亡命政府「ニコラ・サンタクロース共和国」の樹立が許可されたのは、まさに電光石火のスピードと言えるだろう。

 後世にまで残る名演説、「サンタクロース宣言」が行われたのは、モスクワの赤の広場だ。

 単なる窓際族だったサンタクロースの廃止を、石油王のカルノフは世紀の一大事として取り上げ、これを巨大ビジネスに仕立て上げる事を決断した。

 協力者はアレクサンドラ・スターリナ、そして日本から間宮倫音。

 ディナーの前に彼はホットラインを使い、政府関係者からイベント会社、果ては国営メディアに至るまで、全ての手配を整えたのだ。

 一夜城ならぬ、一夜演壇は、突如としてロシアの象徴たる赤の広場に現れる。

 そして、彼はこれから何が始まるのかと、ただならぬ気配に怯える聴衆達に向かって、朗々と言い放つ。

 世界にはサンタクロースが居たことを。

 そして、サンタクロースが困っている事を。

 さらに、サンタは助けを求めている事を。

 ロシア全土に向けてテレビとラジオで放送され、各国のマスメディアはもちろんのこと、インターネットによるライブ映像の配信。

 ニコラはまさに今、時の人となったのだ。

「サンタクロースは負けない!

 サンタクロースは死なない!

 サンタクロースは永遠不滅!

 子供達がある限り!

 良い子が世界に居る限り!

 何歳になっても、何年経っても、皆さんの心に残り続けるプレゼントをする。

 お父さんやお母さんではない、本物のサンタクロースが!

 そこのあなた。あなたはまるで奇跡のようなプレゼントを、もらった事がありますか?

 手に入らないと思っていたものをプレゼントしてもらった感動を、覚えていますか?

 失ってはいけません。

 忘れてはいけません。

 これからも、ずっとです!

 世界中の皆さん、サンタクロース一世が残した思い出を、今一度思い出して下さい!

 私は戦います!

 この体がある限り、力の限り命の限り、向かい風にも高らかに帆を揚げます!」

 一瞬静まり返った後、怒濤の歓声は赤の広場を包み込む、割れんばかりの拍手喝采。

 誰もが拳を振り上げ、ニコラの名前を高らかに叫び、一体となって酔いしれた。

 壇上にはロシア大統領が上り、彼と固い握手を交わし、涙ながらに抱擁をする。

 全てはドラマチックでエクスタシー。

 カーニバルでありフェスティバル。

 その日詰めかけた聴衆は、突然であったにも関わらず、一万人とも二万人とも言われている。

 大統領は演説の後、ロシア付近の公海上に、臨時亡命政府を樹立する事を正式に承認した。

 あくまでも一カ国のみではあるが、国際連合の常任理事国が、その存在を許可したのだ。

 条件は、あくまでも人類に対して一切の被害を及ぼさない事。

 イエスや釈迦など、各種信仰者達への配慮を怠らない事。

 そして、世界中の子供達に、今後もプレゼントを配り続けること。

 時は一刻を争うというニコラの訴えに、ロシア大統領のジガーノフは全面的に答えた。

 それは何よりも、彼もまたサンタクロース一世に生きる希望を与えられ、今やこの国を代表する、世界の大国、ロシアの大統領にまで上り詰めた事に対する恩返しだった。

 ニコラはその日、夜の遅くまで、カルノフやアレクサンドラや倫音と、ロシア社交界や財界の面々が集まるパーティーに参加し、サンタクロースの苦労話や喜びなどを語り明かした。

 全ての準備、手はずは上々だ。

 ニコラはお土産にナナの好きな特濃牛乳を買って、朝靄の中を意気も揚々と凱旋帰宅をする。が――

「おかえりなさい!」

「おかえりダーリン♪」

 何もない。

 ひたすら真っ黒焦げの焦土の真ん中に、新聞紙を敷いて座る二人の少女。

 やかんと携帯用の卓上コンロで湯を沸しながら微笑むすナナと、もう片方は見慣れない服装をした少女。

 二人は仲良く、膝をつき合わせて座っている。

 だが、名前を知らない方の少女は、体中にばんそうこうを貼り付けて、やや満身創痍といった感じだ。

 と、落ち着いた思考で考えたのも束の間。家が無いという事実に愕然とするニコラ。

「どうしたんだこれは? 天界の奴らか? それとも魔界か?

 ひどい事をしやがる……ナナ、怪我は無いか?

 そこの君はぼろぼろだが、誰にやられた?」

「そこの暴力グレムリンの女の子にやられたの……」

 よよと泣きながら、少女はちらりとナナを見る。

 ニコラに見えないような角度に顔を向け、あからさまにベロを出して挑発する。

 対するナナも、小動物に特有の威嚇する声を上げ、耳やしっぽを逆立てる。

「落ち着けよナナ。

 それより君は誰? 名前は?」

「名前なんてどうでもいいじゃない。

 私はあなたを助けに来た女神よ、ダーリンっ♪」

「キシャーッ!」

 少女が首に腕を回して頬ずりをすると、ナナはますます威嚇の度合いを強める。

 このままでは話が進まないと思ったニコラは、嫌がる少女の体を一度離すと、軽く咳払いをする。

 家が無くなっている事について、言いたいことは山ほどあるが、今はナナが無事で居ただけでも、良しとせねばならない。

 まず、何が起きたのかを把握しなければ。

「ナナは落ち着け。

 それと君、この惨状はいったいどういうことなんだ?

 良ければ教えてもらえないかな」

「あー、えーっとね、それは……うふふ……朝陽が綺麗ね」

 笑って誤魔化そうとするが、ナナはそれを許さない。

「この閻魔大王の娘が、いきなり彗星に乗って我が家に特攻してきたおかげで、この辺り一帯はツングースカ以来の大爆発に見舞われたってわけよ!」

「閻魔大王の娘?」

 その言葉に、彼女はばさりとマントをひるがえし、きりりとした目でニコラを見据える。

「そうよ。

 私は地獄界を取り仕切る閻魔大王の娘、六道炎夜。

 森羅万象国際会議で、サンタクロース予算削減に反対したのは、この私だけ。

 私は世界で一番サンタクロースラヴ選手権で、あなたに敗れ、惜しくも準優勝となった。

 けれど、サンタクロースを愛する心も、サンタ魂も、あなたには負けない。

 もしもあなたが、サンタクロースを名乗るのに相応しい人間じゃなかったなら、殺して私がサンタクロースになってやる!

 ――そう思ってた。

 けれどあなたは、天界と魔界を敵に回してでも戦い、サンタクロースの存続を命懸けで守ろうとしてる。

 悔しいけど、惚れたわ。

 だからねニコラ、あなたはこの、六道炎夜のおムコさんになりなさい!」

「何でそうなるのよ!

 この女デストロイヤーっ!」

 なるほど、事情はだいたい把握した。

 ちょっと先走る傾向は強いみたいだけれど、悪い子ではないようだ。

 何より、閻魔大王と言えば天界でもかなりの権力を持っている。

 その娘が味方とあれば、これはハルマゲドンを行う上でも、強力な助っ人となるだろう。

「僕は花巻ニコラ。

 二代目サンタクロースを襲名したのは、六道さんも知ってるよね」

「六道さんなんて駄目!

 炎夜って呼んでくれなきゃ、地獄に落としちゃうんだから!」

「えーっと、じゃあ炎夜。

 とりあえず、家が無いんだけど、どうしたらいい?」

「屋根も壁も無くても、愛があれば大丈夫よ!」

 目をきらきらと輝かせて、炎夜はニコラの胸に飛び込む。

 だが、彼はそれを華麗にかわすと、ナナの体に怪我が無いかを確認する。

「ちょっ、やだ、どこ触ってんのよ……」

「どこってお前、しっぽや翼くらい触ったって問題無いだろうが」

「きゃっ……あううーっ……だめだよニコラ……」

「なぜお前は色っぽい声を出すんだ。ご近所に誤解されたらどうする?

 ま、それはともかく、ケガは無いみたいだから大丈夫だな」

「見て見てニコラ、ほら!

 私は全身ケガまみれ!

 このばんそうこうの数!

 看病が必要だから、あんなところかこんなところとか、触診しちゃっていいのよ!」

「炎夜は問題無し、と」

「なんでーっ?!」

 ショックを受ける彼女の肩に、ぽんぽんと何かが当たる。

 すると、プレゼント袋がプラカードを出している。

『炎夜さん、あなたね』

「何よ」

『かませ犬(笑)』

 その日、ロシアの気象観測所は二度目のきのこ雲が立ち上るのを確認したが、唯一の住人であるニコラから「気にしないで」という報せを受け、面倒なのでそのまま放置する事にした。

 ここは地の果て、シベリアは今日も平和だ。

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