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序章 世紀末サンタクロース伝説



タグに残酷描写が入っていますが、実のところ、一応わずかに入る程度です。

とは言え、ごく一部にて内容に含むのでタグを入れてますが、そういう伝奇もの的なものをお求めであれば、かなり盛大な肩透かしを食らいます。

誠に恐れ入りますが、ご注意下さい。

念のために入れたものであることを、重ねてお伝えしておきます。

基本的には「ライトノベル」という意識で書いています。

皆様上記ご同意の上、お付き合い頂ければ幸いです。






「じんぐっべー じんぐっべー じんぐーおーざうぇー♪」

 少年は声も高らかに歌い上げる。

 雪の降る町を、孤児院のみんなで食べるケーキを持って、家路を急ぎながら。

 町はクリスマスムード一色に包まれ、そこかしこの商店や、最近では民家までがイルミネー

ションを施し、ムードを高めようとしている。

 ドアに掛かるリース。

 手に手にプレゼントを抱えた大人達。

 巨大なもみの木がツリーとなって景色を彩り、人々はメリークリスマスと声を掛け合う。

 ああ、クリスマスは幸せだ。

 毎日がクリスマスだったらいいのに。

「おーいニコラ、どこ行くんだよ?」

 声を掛けられた少年、花巻ニコラはくるりと振り返る。

 嫌な奴に会ってしまった。

 学校で、いつも孤児院の仲間をいじめる事で有名な、あだ名をダンプと呼ばれる少年だ。

 雪が降っているというのに、薄手のジャンパーに袖を通しただけの寒そうな服装で、真っ赤

な頬を気にも留めず、ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべている。

「どこでもいいだろ?

 僕は急いでるんだ」

「急ぐ必要なんてねえだろ?

 俺に付き合えよ」

「やだよ、本当に急いでるんだ」

 露骨にしかめ面をして見せるが、ダンプは人の話を聞こうとしない。

 薄く積もった雪を踏みしめ、ずかずかとこちらに歩いてくる。

 だが、そこでつるりと足を滑らせた。

 べしゃり。

 ダンプが尻餅を着く音。

 そして、少し雪が溶けてできていた水たまりに、思い切り転がる。

「冷てぇっ?!」

「うわっ、ダンプ大丈夫?」

「馬鹿野郎! お前のせいだ!」

「えーっ?」

 何が何だかさっぱり分からない。

 勝手に因縁を付けてきて、勝手にこっちに来て、勝手に転んで、それが僕のせい?

 ニコラはただうろたえるだけで、そこから逃げ出す事もできず、かたかたと小さく肩を震えさせている。

 自慢じゃないがケンカは弱い。

 ケンカ通信簿があれば、オール1をもらう自信がある。

 ダンプからはよく、ロシア人と日本人のハーフだからケンカも強いんだろうと言われるが、その根拠そのものが良く分からない。

 普通ならばここで、一般的に言うところの「ボッコボコ」にされて終わりとなるだろう。

 しかし、彼が普通のいじめられっ子と違うのは、重度の負けず嫌いという事だった。

 それは、クリスマス・イヴの今日も健在だ。

「テメェのせいで母ちゃんに怒られちまうだろう!

 どうしてくれるんだよ! おう!」

「知るかよ!

 お前が勝手に転んでびしょ濡れになっただけだろう?」

「おぉ~まぁ~えぇ~、まだ俺にそんな口を聞くのか!」

 言い終わる前に、ダンプの拳が空を切る。

 そして、避ける事もできずに、それはニコラの左頬を直撃した。

 ケーキを持ったまま、彼の体は雪の上を半回転して倒れ込む。

「うわっ、みんなのケーキ!」

「お前が悪いんだ。ざまあみろ」

「バカ! ダンプのバカ!

 許さないぞ!

 僕は絶対にお前を許さない!」

「掛かって来いよ。弱虫ニコラぁ♪」

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 いつも通りの光景だが、雪の中では相手に掴み掛かる前に転んでしまう。

 うつぶせに倒れたニコラの横腹に蹴りを入れると、ダンプはそのまま馬乗りになる。

「オラオラ、生意気言ってるからだよバァーカ!」

「ダンプ! この野郎! 畜生!

 良い子にしてないと、サンタさんはプレゼントくれないんだぞ?」

「サンタなんていねぇよ!

 お前、その歳でまだサンタなんて信じてんのかよ!」

「いるよ! サンタクロースは絶対にいる!

 僕達が良い子にしてれば、プレゼントをくれるんだ!」

「いねぇっつってんだろ! 黙れバカ野郎!」

 一方的に打ちのめされるニコラ。

 だが、気が付けば周囲には人が居なくなっていた。

 ダンプを止める大人もおらず、彼は一方的にやられるだけ。

 しかし彼は諦めない。絶望など認めない。

 ましてや、今日はクリスマスなのだ。

 クリスマスに涙を流すなんて、そんなことがあってはならない。

 僕は男の子だと自分に言い聞かせ、必死に歯を食いしばる。

「いるよっ! くそうくそう! サンタはいるんだ!

 サンタはお前なんて許さないんだ!

 僕は負けない! 見てるよねサンタさん?」

「うるせえ! このっ! このっ!」

 降り積もる雪景色の中に、無情な音が響き渡る。

 神も仏も居ないのか。

 この世界に救いは無いのか。

 涙がこぼれ落ちそうだった。

 自分に負けてしまいそうで、それがとても悔しかった。

 だがその時、誰かが頭の中に語り掛ける声が聞こえる。

『少年、力が欲しいか』

「誰だ?!」

『良い子の味方、サンタクロースだ』

「サンタさん!」

「お、おいニコラ、お前誰と喋ってんだよ。気味が悪いぞ……」

 ダンプは手を止め、きょろきょろと辺りを見回す。

 だが、通りには人影は見当たらない。

『ニコラよ、お前は天上界で開催される、世界で一番サンタクロースラヴ選手権で優勝した。

 そんなお前に、サンタの私はプレゼントをあげよう』

「世界で一番サンタクロースラヴ選手権! いつの間に僕はエントリーしてたんだ!」

「おいニコラ……お前キモいって、マジで……」

 ダンプの顔が青ざめてくる。

 まさか自分の殴りどころが悪くて、ニコラの頭がおかしくなってしまったのではないだろうか。

 もしそんなことがあれば、母親から怒鳴られる程度では済まされない。

『ただし、プレゼントをもらうには条件がある。

 お前は私の後を継いで、新サンタクロースとなる事を約束せねばならない』

「するよ、約束する! 僕はサンタクロースになる!」

 ニコラは力の限り叫ぶ。

 プレゼントがもらえてサンタになれるなんて、夢のようだ。

『良かろう。その願い、聞き届けた――』

 その瞬間、ニコラの体が眩しく光る。

 ダンプは思わず手で目を覆い、道の横へと転がってしまう。

「まぶしっ! 冷たっ! 寒ぅ!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 力がみなぎってくる。

 これがサンタクロースの力。

 これが良い子のプレゼント。

 僕こそが今、クリスマス。

 そして僕だけが、サンタクロースだ。

「お、おい、ニコラ……浮かんでる……」

「ダンプ! 許さないぞ!」

「ま、待てよ! 何だよお前、おかしいって!」

「正義は待ってくれない!」

「意味わかんねえよ!」

 立ち上がる事もできないダンプを見て、ニコラはにやりと笑う。

 勝利を確信したのだ。

 浮かび上がったニコラの両手には、光る弾が徐々に大きさを増している。

「食らえっ、サンタクロース波ァ――――――――――ッ!」

「うぎゃあーっ!」

「波ぁーっ! 波ぁーっ! 波ぁーっ! 波ぁーっ!」

 一発で済ませようかと思ったが、まだ出せそうなのでサービスしておく。

「ちょっ、待、死ぬ! 死んじゃう!

 母ちゃん! 母ちゃあああああん!」

 まばゆい光に包まれ、爆発音と共にきのこ雲が立ち上る。

 しかし、見た目は派手だが手加減をしていた為に、ダンプのズボンは後ろが焦げて、尻が露わになるだけで済んでいた。

 みねうちは正義の印。

 でも見た目は華々しく。

 サンタクロースは罪を憎んで人を憎まず。

「うああ……ニコラ……」

「さっさと帰るんだな。母ちゃんが待ってるんだろう」

「うわああああああん!」

 尻も隠さず、何度か滑っては転び、滑っては転びを繰り返しながら、ダンプは元来た道を走って行った。

 辺りには再び、何も無かったような静寂が訪れ、しんしんと雪が降り積もる。

『少年よ、約束は聞き届けてもらうぞ』

「サンタさん! もちろんです!」

 雪の降る空から光が射し込み、天使のラッパが鳴り響く。

 やがて、ニコラはゆっくりと天に昇っていった。

 その日以降、彼の姿を見た者は誰も居ない――

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