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魔法は無料じゃないですよ?  作者: 魔女見習い
第二章 魔法創世
11/12

11:魔法の心臓:パーティクルコア

──ファウヌスの樹海。正午前後。


眩い太陽の下、その光は私たちのいる地上には届かない。

枝葉が幾重にも絡み合い、この樹海せかいを薄暗い緑へと閉じ込めているからだ。



精霊因子パーティクルコア)の核を採集するべく、すでに樹海の奥地までやって来ていた私たちは、足を止める。



「……!──ッ!」


隣で落ち着きなく、クルクルと視線を撒き散らす男が一人。


左、右、背後──上に下まで。


ときに首を早く回しすぎて、ねじ切れそうになったのか、

首元を押さえて痛がる様子も見せる。


首を振るたび、空気を切り裂く音が聞こえるのは

この男が初めてだ。



「……カエサル」

「うお!!──って、ゲビルか」

「…………」


振り返った拍子に、今度は飛び上がった。



「驚きすぎです。武器を下ろしてください。

パーティクルコアに逃げられます」


「それは、そうだが……ッ」


その手に握られた銀長剣グラディウスを、

依然として下ろすのを止めないカエサル。



「……気持ちは分かります。

ですが、今は魔物の気配を感じません。

剣を収めても問題ありませんよ」


私は彼を宥めるように状況を伝える。


言葉で理解出来ることと、身体が従うことは別だ。


これは一種の性質サガ

兵士として染み付いた、本能に近い反応。


特にこのファウヌスの樹海のような、

全方位が死角となる場所では、敵への警戒が強くなるのはなおさらだろう。


私がポンポンと腕に触れてさすってあげると、

ようやく気持ちが伝わったのか、

カエサルはその剣を収め始めた。



「それでいいのです……って、ほら──」


「言ったそばから“来てくれた”見たいですよ」


私は視線を一点に固定する。



「え、どこだ?」


「あの木の木陰です」


指し示した先。

木の幹の影に、わずかに揺らぐ光。


「──ッほら、今の、私の拳くらいの粒子が舞いましたよ」


あれで隠れているつもりだろうか。

精霊粒子が溢れているのでバレバレだ。


まさに頭隠して尻隠さず。



「い……見えない」

「敵意を消してください。ここに入る前に伝えた通りに」


カエサルは大きく息を吸い、そして吐く。

その呼吸法を数回繰り返し、

再び木の幹へと視線を集中させる。



「……ゲビル、ダメだ。俺には木しか見えない」

「……本当ですか?」

「視力はいい方なんだが……」


その表情は少しガッカリとした様子だった。



──嘘をついてる様子はない。


私は内心で、静かに拳を握った。


──パーティクルコアは人間には視認できない。


この事実が欲しかった。


いくつか候補として考えていた核の中でも、

この特性は極めて有用で都合がいいと思った。


資料本頼りの情報が、今ここで裏付けられて、

少しホッとする。



「分かりました。では、私一人で行ってきますので、カエサルはここで待機を」


「え、ちょっゲビル!……」


制止の声を背に、私は木陰へと歩み寄る。


──視線の先に見えてきた、

手のひらサイズの白い球体。


雪のように柔らかな粒子を周囲にまとい、

キラキラと淡い光を放ちながら、フワりと宙に浮かんでいる。

だが、この球体は仮の姿らしい。


パーティクルコアは警戒心がとても強い。


白い球体でいるのは、翼でその本来の姿を覆い隠している──極度の恥ずかしがり屋さん。

それがパーティクルコアの本質。


それ故に、少しの敵意を感じ取ればすぐにでも姿を消してしまう。


だが、


裏を返せば、その警戒心が解けて──翼を広げたとき、それは精霊ではない──

契約的存在へと変わる。



別名、守護の天使と呼ばれる所以はそこから。



「……ん」


……大丈夫。

私なら懐柔するのは難しくない。


何せこの鞄には、

とっておきの秘策があるのだから……!



…………。



「…………ゲビル、遅えな。

──あ!」



しばらくの後、私はカエサルの元へ戻ってきた。




「“パルコちゃん”、着いてきてくれるそうです」

「え、マジで?

──え、パルコ?」


「パーティクルコアのパルコちゃんです」


さも当然のように答える。



「ええ……でも一体、どうやって?」

「あなたの家にあった、乾パンをあげたら承諾してくれました」


「あ、そうなんだ……」



どこか納得してるような、していないような。

そんな表情を浮かべるカエサル。


パルコちゃんの姿が見えていないから、それも当然か。


──ともあれ。


美しい白の二枚の翼を広げて、私の肩口で淡く光る小さな存在。


精霊因子──パーティクルコア。



一つ目の素材(本体)を無事に確保し、

私たちは次なる目的地、憑依霊スピリット)のいる



──テネブラエ羨道へと向かう。


博識!ゲビルちゃんの一口メモ。


【業魔の書】

魔女の国で普及されている魔物の教科書です。

魔女たちは先ず、この本を読み切ることを課題とされ、国の脅威となる情報を全て叩き込まれます。


この本は、新米魔女時代の私の細腕では抱えきれないほど分厚く、4000ページを超える羊皮紙には

魔物たちが流した血で書かれたような、

赤黒い文字が這いずっているようで気持ちが悪かったです。


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