加護の大きさ
私とガウルお兄ちゃんは、まだ宿の前に立っていた。
「今日は、セリアさんは何をする予定ですか?」
ふと、隣に立っていたガウルが声をかけてくれた。
「午前中はプレゼントの確認とかしようかな。午後はバルカスお兄ちゃんのところに行くよ」
「そうですか。私も部屋の整理をしたら、冒険者ギルドに行ってこようと思います。お話したいことがあるので、よければ夕食は一緒に食べませんか?」
「うん! じゃあ、食堂で待ち合わせだね!」
「はい!」
ガウルが笑うと、私もなんだか楽しくなる。
「あっ、鉢植え! お部屋に持って行く? それとも裏庭にも置けるよ」
「ご迷惑でなければ裏庭に置かせていただいてもいいですか?」
「もちろんだよ!」
私たちは二人で裏庭に出ると、アイテムボックスからガウルの鉢植えを取り出し、陽当たりの良い場所へ置いて、たっぷりと水をあげた。
「早く咲かないかなぁ」
「そうですね。早く咲いてほしいような。まだ咲いてほしくないような……」
ガウルは、少しだけ目を細めて鉢植えを見つめている。
どんな花が咲くのか、私もすごく楽しみだ。
その後、私は自分の部屋に戻ると、騎士団の人たちからもらったプレゼントをいくつか開けてみることにした。
日持ちしない食べ物などは入っていないと聞いているけれど、ワンピースの他にも、一体何が入っているのだろう。
(とりあえず、少しだけ開けてみよう!)
綺麗な包み紙を一つずつ解いていくと、中からは可愛らしい小さなバッグや、私の足に合わせた靴などが出てきた。
「わぁー! かわいい!」
どれも私のために選んでくれたのだと思うと、それだけで嬉しくなる。
そして、次に手に取った包みは、ずっしりと重かった。
包み紙を解くと、中から一冊の本が現れた。
「本だ!」
表紙には、この国の文字で大きくタイトルが書かれている。
【神々より授かりし祝福】
「祝福?」
私はさっそく本を開いた。
この世界には多くの神が存在し、ごく稀に人へ加護を授けることがあるらしい。
剣を扱う者が授かることのある剣神の加護。
商売をする者が授かることのある商神の加護。
ほかにも豊穣や鍛冶、旅に関わる加護など、思っていた以上にたくさんの種類が載っている。
(へぇー。加護ってこんなにあるんだ)
どうやら加護を持っていること自体が珍しいようだ。
読み進めていくと、加護の横には(極小)、(小)、(中)、(大)といった表記があることに気がついた。
どうやら神から授けられる加護には大きさがあり、(極小)から(大)までの四段階に分けられているらしい。
また、神の使徒や精霊などから授けられるものは『寵愛』と呼ばれ、大きさによる区分はない。
寵愛は、それぞれがただ一人にしか授けることのできない特別なものらしい。
(そういえば、ルクもミカエル様の寵愛を持ってたよね。……ルクって、かなり大切にされてるんだ)
なんだか少し嬉しくなりながら、私はその先を読み進めた。
(あれ? そういえば私も加護をもらったよね)
私は慌ててページをめくった。
探しているのは――創造神の加護。
「あった!」
創造神の加護。
その名の通り、創造神より授けられる加護であり、極めて珍しいものらしい。
そして、その下には過去に確認された人物についても記されていた。
(えーっと……歴代の聖女に、召喚された勇者と賢者かぁ……)
どうやら創造神の加護は、歴代聖女や召喚された勇者、賢者など、限られた者にだけ確認されているらしい。
そして、そのほとんどが(極小)だった。
そんな中、私はある一文で目を止めた。
「初代聖女……?」
記録に残る中で、唯一、創造神の加護(小)を授かった人物。
初代聖女――創造神の加護(小)。
(へぇー。初代聖女だけ特別だったんだ)
何気なく読み進めようとして――ふと、手が止まった。
(……あれ?)
そういえば、私の加護がどのくらいなのかは、ちゃんと確認していなかった。
「鑑定」
私は自分自身に鑑定を使った。
【鑑定結果】
セリア
レベル:1
体力:30(防御+400)
魔力:999,999
魔法属性:水、土、聖 【非表示】火、風
スキル:防御スキル、鑑定、アイテムボックス
【非表示】魔力カンスト、サーチ、経験値増加、言語理解、地球調味料セット
加護:創造神の加護(小)
私は加護の欄を見つめた。
創造神の加護(小)。
そして、慌てて本へ視線を戻す。
初代聖女――創造神の加護(小)。
もう一度、自分のステータスを確認する。
創造神の加護(小)。
「…………」
『えっと、初代聖女様と同じ、創造神の加護の小をもらったみたいなんだけど!?』
『やっぱりな。創造神からそれだけスキルもらっといて、加護だけ極小なわけないと思っとったで』
『え!?』
『恐らく今代の聖女も、加護の大きさは極小やろうな。これもセリアのほうが格上やな』
『え? 前にルクが言ってた聖女より格上って、加護のことだったの? え? えぇぇ!』
『加護だけやないけどな』
いや、待ってほしい。
創造神様本人からもらったのだから、創造神の加護なのはわかる。
でも、なんで(小)なの!?
この本が正しいのなら、歴代聖女ですらほとんどが(極小)だ。
そして(小)だったのは、初代聖女ただ一人。
『これ、絶対に見せちゃダメなやつだ!』
鑑定の儀までは、あと二年。
そこでこんなものが見つかったら、どうなるかわからない。
私は慌ててカモフラージュを使い、加護の表示を隠した。
【鑑定結果】
セリア
レベル:1
体力:30(防御+400)
魔力:999,999
魔法属性:水、土、聖 【非表示】火、風
スキル:防御スキル、鑑定、アイテムボックス
【非表示】魔力カンスト、サーチ、経験値増加、言語理解、地球調味料セット
加護:【非表示】創造神の加護(小)
(よし。これで大丈夫……だよね?)
何度か確認して、ようやくホッと息を吐く。
すると、ベッドの上でくつろいでいたルクが、ふとこちらを見た。
『なあ、ナビ』
≪はい≫
『ナビはセリアがその加護をもらうっちゅーこと、知らんかったんか?』
≪……≫
ナビは答えなかった。
『なんや。知っとったんかいな』
『え? ナビ、知ってたの? なんで教えてくれなかったの?』
≪……申し訳ございません≫
『別に責めてるわけじゃないよ。ただ、なんでかなって』
そういえば、以前にも似たようなことがあった。
『地球調味料セットや防御スキルを持ってることも、教えてくれなかったよね?』
≪ナビは、歴代転生者アンケートの結果をもとに作られた機能です。そのため、情報の開示についてもアンケート結果が反映されています≫
『ん? どういうことや?』
ルクが不思議そうに首を傾げ、尻尾を揺らした。
『えーっとね。私、転生する前に神様から初心者安心パックっていうのをもらったんだけど、その中にいろんなスキルや機能が入ってたんだよ。ナビもその中の一つなの』
『なんや。ナビもその初心者なんちゃらの一個っちゅーことか』
『そうだよ』
≪歴代転生者アンケートには、ナビゲーター機能について「すべて教えられると楽しみがなくなるから、少しは自分で発見したい」、「命の危険に関わる情報は教えてほしい」、「困ったときには助けてほしい」など、さまざまなご意見がございました≫
『……ほぉ、なかなか注文多いな』
≪そのため、情報の開示については、内容や状況に応じて調整される仕様となっております≫
『じゃあ、聞けば何でも教えてくれるの?』
≪いいえ。セリア様ご自身が発見することを前提とした情報など、一部お答えできないものもございます≫
『そこは教えてくれないんだ……』
≪はい≫
『なんや、ややこしいナビやな』
≪申し訳ございません≫
『……これ、ナビを作るの大変だっただろうね』
良かれと思って教えすぎれば楽しみがなくなり、かといって教えなければ危険なこともある。
こんな好き勝手な要望をまとめて一つの機能にするなんて、初心者安心パックを作った神様も大変だったに違いない。
『なんや、わがままやなー。言いたい放題やな』
ルクが呆れたようにため息をつく。
『まあ、アンケートだからこそ、みんな遠慮せずに思ったことを書いたのかもしれないけどね』
私がそう言うと、ルクはしばらく考えるように尻尾を揺らした。
『でも、その初心者安心パックっちゅーんは、ナビとかセリアが持っとるスキルとか、そういうのが入っとるんやろ?』
『うん、そうだよ。ナビとか鑑定とか、アイテムボックスとか……地球調味料セットもそうだね』
『ふーん』
ルクは尻尾をゆらゆらと揺らしながら、何かを考えるように私を見つめた。
そして、ふと思いついたように口を開く。
『それで全部なんか?』
『え?』
『その初心者安心パックの中身や。ほんまにそれで全部なんか?』
≪……≫
ナビが黙った。
私とルクは顔を見合わせる。
『ナビ?』
≪……≫
『おい。なんで黙んねん』
≪……≫
返事がない。
さっきまであんなに丁寧に説明してくれていたのに。
『ナビ』
≪はい≫
『初心者安心パックには、まだ私が知らない何かがあるの?』
≪……≫
また黙った。
『あるんやな』
≪回答できません≫
『それ、あるって言ってるようなもんやで』
≪…………≫
私は目の前に浮かぶステータス画面をじっと見つめた。
そこに表示されているのは、私がすでに知っているものばかりだ。
けれど――。
(初心者安心パック、まだ何か隠してるの?)
どうやら私は、自分がもらった初心者安心パックのことを、まだ全部は知らないらしい。
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