聖女の伝承
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リンゴを食べ終わると、お昼ご飯の時間が近づいていた。
バルカスにお礼を言い、家へ急いだ。
家に帰ると、母のエリーナと交代で食事の準備をしていた父が、私の頭を撫でた。
「セリア、おかえり。いっぱい遊んで、お腹空いたろう。すぐにご飯を用意するからな」
「はーい!おなかすいたよー」
私は食事処の席に着いて、周りを見渡した。
既に昼食時を終え、宿泊客も減って静かになっていたが、その隅の席に見慣れた顔を見つけた。
(あ、リズお姉ちゃん!)
Aランクパーティ『ランド・エッジ』の弓使い、エルフのリズが、一人でハーブティーを飲みながら休憩している。
私はご飯が来るのを待てず、リズの席へ駆け寄った。
「リズおねーちゃん、こんにちわ!お昼ご飯食べるの?」
リズはセリアに声をかけられて驚いたのか、緑色の瞳を丸くしたが、すぐに優しく微笑んだ。
「あら、セリアちゃん。こんにちは。ううん、もう食べ終わったところよ。他のメンバーは、明日出発だから、各自買い出しに行っているの」
「そっか。セリアはね、今からご飯食べるの!リズお姉ちゃん、一人じゃ寂しいから、ここで食べてもいい?」
「ええ、もちろんよ。可愛いセリアちゃんと一緒なら、嬉しいわ」
リズは隣の椅子を引いてくれた。
その席に着くと、父が具沢山のスープと丸パンを運んできてくれた。
「いただきましゅ」
「いただきますって、どういう意味かしら?食べるまえの祈り?初めて聞くわ」
「うーんと、食材や料理を作ってくれた人とか、この食事にかかわる人、みんなに感謝していただくみたいな感じかなぁー。セリアが勝手に言ってるだけだよ!」
「とっても素敵ね」
「えへへー」
(危なかったー。前世の記憶で、「いただきます」は言っちゃうな。パパとママは、あんまり気にしてないみたいだから油断してたよぉ)
スープを飲みながら、私は尋ねた。
「リズおねーちゃんは、ダンジョン行ったことある?」
(鑑定で、ランド・エッジのパーティーメンバーはダンジョン産の装備を持ってたし、経験豊富なはず!)
「あるわよ。先月も、A級ダンジョンに行ってたわ」
「セリアは、冒険者もいいなーって思ってて憧れてるの!だから、ダンジョンってどんなところなのか、聞きたいな!」
リズは、私が冒険者に憧れてるというのが予想外だったのか、楽しそうに笑った。
「ダンジョンね。セリアちゃんにはまだ早いわよ。でも、そうね...簡単に言えば、魔物が湧き出る場所であり、沢山の宝が眠っている場所よ」
「宝!!キラキラした宝石とか?」
「ええ。もちろん、キラキラした宝石がついた装飾品も出るわ。その他には、魔物の素材や、高価な魔石、古代の秘宝、もちろんとても強い武器や装備も手に入るわ。階層が深くなるほど魔物も強くなるけれど、手に入るものも良くなるわ。冒険者は力と富を求めてダンジョンに潜るのよ」
「ダンジョンって、怖いけど、すごいところなんだね!」
「そうよ。でも危険だから、行くのはもっと大きくなってからね」
リズは、妹を見るような優しい目をして、私のあたまをそっと撫でた。
「セリアが強くなったら、リズおねーちゃんとも冒険できるかな?」
その瞬間、リズは花が咲くような笑顔を見せた。
(うわぁー。リズお姉ちゃんってすごく美人だけど、笑うとすっごくかわいい!)
「私と一緒に冒険してくれるの?セリアちゃんと冒険できるなんて、今から楽しみだな」
「私が、リズおねーちゃん守ってあげれるぐらい強くなるから待っててね!」
私は握りしめた右手の拳を大きく上に突き出し、リズお姉ちゃんに決意を見せた。
「頼りにしてるわ!」
リズお姉ちゃんが、あまりにも綺麗に笑うので、照れてしまう。
「えーっと、そういえばリズおねーちゃんは、むかしの伝承とか、知ってる?」
「伝承?ふふ、面白い子ね。どんな話に興味があるのかしら?」
「えっとね、聖女様のお話!」
私の言葉に、リズの表情が少し真剣になった。
「聖女の伝承ね。いいわ、知っていることを教えてあげる」
リズは静かに語り始めた。
「はるか昔から、人族は魔王と戦い続けていたの。その戦いは、数千年も続いていたわ。でもある時、魔王の力が突然増し、魔獣たちも強くなっていったの。その結果、次々と領土が奪われ、人々は絶望したわ」
(そんな昔から、魔王はいるのね)
「人々は神に願った。その願いは日に日に大きくなり、とうとう神が地上に降臨した。その時、人族の救世主として選ばれたのが、一人の少女だった。聖魔法の使い手で、周りを癒す力を持っていた一人の少女に、神が力を与えたの。それが、初代聖女アリア様よ」
(神様って、転生する前に会った神様かな?)
「アリア様はね、銀髪で、とても澄んだサファイアブルーの瞳をしていたそうよ。聖女は神から力を分け与えられると、その力で魔獣によって汚染された土地を浄化していったの。土地が浄化されると、魔獣は弱体化したの」
(そういえば、転生のとき、聖女のところに浄化スキルって書いてあった!)
「そしてその数年後に、召喚の儀が行われ、黒髪に黒目の勇者、ケンジが召喚されたわ。勇者と共に、アリア様は魔王を討伐したのよ」
(黒髪に黒目で、名前がケンジって、完全に日本人だよね)
「だけど魔王は、討伐しても肉体を失うだけで、また100年から150年ほどすると復活する。そのたびに召喚の儀も行われているらしいけど、召喚の儀は失敗することも多いそうよ。異世界から人を連れてくるんだもの必ず成功するわけじゃないみたいなの。だけど、聖女は必ず魔王の復活と共に、この世界の住人として、銀髪にサファイアブルーの瞳をもって生まれるとされているわ」
「召喚の儀に失敗したら、聖女様は一人で戦わないといけないの?」
「そうね。一人ではないけど、多くの冒険者と一緒に戦うわ。召喚の儀では、勇者や賢者が召喚されると言われていて、勇者や賢者がいない戦いでは、多くの冒険者が犠牲になったと言われているわね」
リズは、まるでその場面をみてきたように悲しそうな顔をしていた。
「リズおねーちゃんは、前の聖女様に会ったっていってたでしゅね。どんな人だったの?」
「ええ。前の聖女様が各地を浄化していた頃に、私たちの村に来てくださったわ。とても優しく、心が美しい方だった」
その時のことを思い出しているのか、リズお姉ちゃんの顔は穏やかな表情をしていた。
「神様は、どんな姿だったのかな?」
「金髪に黄金の瞳を持つ、とても美しい姿をしていたと伝えられているわ。でも神様が降臨されたのは、その1度きりで、それ以降は神の使徒であるミカエル様が数百年に一度、姿を現しているそうよ」
リズの言葉を聞いて、セリアの頭に一匹の猫の姿がよぎった。
(使徒といえば、あの猫さん…!)
「ミカエル様はね、サファイアブルーの瞳と、もう片方に黄金の瞳を持っていると言い伝えられているわ。サファイアブルーの瞳には聖魔法が、黄金の瞳には神力が宿っている、とね」
(サファイアブルーの瞳...黄金の瞳...やっぱり、あの猫さんかな!?)
セリアが心の中で騒いでいると、リズが真剣な表情で私のサファイアブルーの瞳を見つめた。
「セリアちゃん。貴女の瞳も、とても綺麗なサファイアブルーでしょう?聖女様と同じ瞳の色を持っているわ。そして、この色の瞳を持つ者は、聖魔法の適性があるといわれているの。聖魔法は、治癒魔法が使えるわ。だから、鑑定の儀では、教会から勧誘を受ける可能性が非常に高いのよ」
「教会...?」
「ええ。聖女でなくとも、治癒魔法の使い手は貴重だから、教会が聖職者として勧誘したがるのよ。だから、もしセリアちゃんが教会へ行くつもりがないなら、早めに対策をしておいたほうが良いかもしれないわ」
(対策...?どうすればいいんだろう...?ナビどうしよう...)
≪セリア様...ナビにお任せください。必ず、道はあります≫




