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【初心者安心パック】は歴代転生者アンケートから生まれました~いつの間にか聖女扱いされて困ってます~  作者: 紫陽花


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セリア特製ランチと水魔法

 私は満面の笑みを浮かべ、アイテムボックスから買ったばかりの『携帯型魔導コンロ』取り出し、平らな石の上に設置した。

 さっき市場で、買ってきたばかりのピカピカの新品だ。


「ガウルお兄ちゃん!さっき買った魔導コンロ、さっそく使ってみるよ!」

「はい。お店で説明は受けましたが、本当にこんな小さな箱から調理に十分な火が出るのか……実演を見るのが楽しみですね」


 ガウルが興味深そうに身を乗り出す。

 コンロの横についている、赤い丸いスイッチを押す。

 シュカッという乾いた音と共に、安定した青い炎が立ち上がった。


「おお……! 魔法を使わずにこれほど安定した火が。これは便利ですね……!」


 コンロがちゃんと使えることを確認できたので、火は一旦消して、まずは前菜から用意する。


 市場で購入したばかりの大きなフライパン、厚みのある木製のまな板、そして小さなナイフを次々と取り出した。


(ふふふ、さらに昨夜のうちに『地球調味料セット』から、今日使う調味料は全部用意してアイテムボックスに入れておいたんだよね。準備は万端だよ!)


 まな板の上に、実家の裏庭から採ってきてアイテムボックスに入れておいたキュウリ、ニンジン、ダイコンを並べる。

 アイテムボックスのおかげで、切り口からは水分が滴るほど瑞々しい。

 ナイフで手際よくスティック状にカットし、お皿の端に「秘密の白いソース」……マヨネーズをたっぷりと絞り出す。


「はい、まずはこれ。野菜をこのマヨネーズっていうんだけど、ソースにつけて食べてみて」

「マヨ……ネーズ? 随分と白く、とろりとしていますね。いただきます」


 ガウルがおそるおそるキュウリにマヨネーズをつけて口に運ぶ。

 ……ポリッ、という小気味いい音の直後、彼の動きが止まった。


「な、なんですか、この濃厚なコクは……! 卵の旨味と絶妙な酸味が、野菜の甘みを何倍にも引き立てています。このようなソース、見たことも聞いたこともありません!」


 感動を伝えた後も、ガウルの手は止まらなかった。

 野菜スティック1本を鍛え上げられた大きな両手で丁寧に持ち、リスのようにポリポリ、ポリポリと小気味よい音を立てて食べ進める。

 大きな図体の彼が、小さな野菜を大切そうに持って夢中で食べている姿は、どこか微笑ましい。

 私が見ていることに気が付いたのか、ガウルと視線が合った。


「あ、すみません。あまりの美味しさに、つい……」


 少し恥ずかしそうにしながらも、彼は最後の一本までマヨネーズをたっぷりとつけて平らげてしまった。



 どうやら、掴みはバッチリのようだ。

 いよいよメインの調理に入る。

 熱したフライパンに、まずは牛肉一キロを贅沢に投入した。


 ジューーーッ!


 官能的な音と共に、肉の焼ける香ばしい匂いが周囲に広がる。

 ここに「味付き塩コショウ」をパラパラと振りかける。

 ただの塩ではない。アミノ酸の旨味が計算し尽くされた魔法の粉だ。


「いい匂いですね……。焼けた肉の脂と、この不思議な粉の香りが合わさって、それだけで食欲が……っ!」


 今にも涎が垂れてきそうなガウルの前に、焼いたばかりの牛肉を差し出す。


「はい、まずはこのまま食べてみて。このままでも、しっかり味がついてるからね!この小皿の『焼肉のたれ』を付けても、また味が変わって美味しいよ!」


 ガウルは牛肉を一枚、そっと口に運んだ。

 その瞬間、彼の両目が限界まで見開かれる。


「……信じられない。塩とコショウだけのはずなのに、肉の旨味が何倍にも膨らんでいる。これだけでもう、十分すぎるほど完成された料理ですよ」


 普段、塩味の薄い食事に慣れている彼にとって、アミノ酸の旨味だけでも衝撃だったようだ。

 次に、彼は恐る恐る小皿の「焼肉のたれ」に肉を浸した。


「……? なんでしょうか、これは。ニンニクの強烈な香りが鼻を抜けるのに、後から追いかけてくるこの……とろけるような『甘み』は? 蜂蜜とも果実とも違いますね……。暴力的なまでに食欲をそそる味ですが、正体が全く分かりません。でも……でも、止まらないです!」


 未知の複雑すぎる味わいに困惑しながらも、ガウルの手が止まる様子がない。


「ここにパンも置いておくからねー」


 お皿の上にパンを置くと、私は別のフライパンにオーガの肉一キロを入れ焼き始めた。

 ここに合わせるのは、秘密兵器「生姜焼きのたれ」だ。

 黄金色のタレをじゅわっと回しかけると、生姜の爽やかな香りと甘辛い香りが辺り一面に広がった。


「……っ! この香ばしい香りは、もしや生姜でしょうか!? ですが、なぜこんなに食欲をそそる匂いなんでしょうか……」


 気が付くと、すでに牛肉は全てガウルの胃袋へと入ってしまったようだ。


(ガウルお兄ちゃん、もう食べ終わったの?早い!!)


 慌てて、焼きあがったオーガ肉の生姜焼きをお皿に盛りつけて持っていく。

 焼き上がったオーガ肉を口にしたガウルが、今日一番の驚きを見せた。


「驚きました……。生姜といえば、肉の臭みを取るための安価な薬味という認識でしたが、まさか生姜そのものをこれほど美味しく食べられるなんて驚きです!このタレの甘辛さと生姜の刺激が、肉の脂と合わさって……っ、素晴らしいです!しかも野外で、こんなに美味しい食事を頂けるなんて、まるで夢を見ているようです」



 気づけば、合計二キロの肉と山盛りのパンのほとんどがガウルの胃袋へ消えていた。

 ふと我に返ったガウルが、急に顔を赤くして居住まいを正した。


「……あ、あの、セリアさん。すみません、私はなんてことを……。牛肉だけでなく、魔獣の肉である高価なオーガ肉まで、こんなに食べてしまうなんて......」


 ガウルは申し訳なさそうに、大きな体を縮こまらせて懐を探る。


「しっかり代金をお支払いします。これだけの肉と、あの調味料の価値を考えれば、相当な額になりますが……」


 私はニコッと笑って首を振った。


「ううん、お金はいらないよ。ガウルお兄ちゃんに喜んでもらえて、私も嬉しいもん。……その代わり!」


 私は少しだけ声を弾ませて、ガウルを見上げた。


「明日も、私の修行に付き合ってほしいな。まだ、ガウルお兄ちゃんにお願いしたいこともあるんだ!」


 私が少しだけ「怪しい笑顔」を浮かべてそう言うと、ガウルはゴクリと喉を鳴らして身を引きつらせた。


「……お、お願いしたいこと、ですか? なんだか、ただの護衛では済まないような気がしてきました……」




 食後の休憩を終え、いよいよ午後の部――魔法の練習を始めることにした。

 ガウルは少し困ったような、申し訳なさそうな顔で私に言った。


「セリアさん、私は魔法は得意ではなくて……。せっかくの修行の邪魔をしてもいけません。私はこの場を離れず、魔物や獣が近づかないよう周囲を警戒していますね。何かあればすぐに駆けつけますから、安心してくださいね」


 そう言ってガウルは、少し離れた場所で警戒するように鋭い視線を森の奥へと向けた。

 彼の背中は頼もしいが、魔法に関しては本当に苦手意識があるらしい。



(さて、ナビ。何から始める?やっぱり王道の火魔法かな!)


≪却下です。セリア様、周囲をご覧ください。乾燥した木々が多く、火災の危険があります。まずは安全な水属性から始めましょう≫


(あ……そうだよね。じゃあ、水魔法を教えて!)


≪承知いたしました。魔法とは、自身の魔力を体外へ放出することも大切ですが、しっかりイメージすることの方が重要です。まずはウォーターボールから始めましょう。こぶし大の球体を作れれば合格です。通常、水を空中で球形に固定するだけでも相当な習練が必要で……≫


(前世のゲームやアニメで、魔法のシーンはたくさん見てきたんだよね。あのCGの美しさ、水の質感、動きの法則……。『ウォーターボール』を想像するなんて、余裕だよ。 水の分子を凝縮させて、球体に固定する……。よし!)


「ウォーターボール!」


 言葉に出すと同時に、私の掌の上に直径三十センチほどの完璧な水の球が出現した。


≪……ッ!? セリア様、今、何を……!? 初めての試行で、この規模の出力を……!?≫


(ふふん。イメージ力なら負けないよ。だって、前世では魔法の演出を何度も見てきたんだから。……よし、ちょっとあれにぶつけてみよう!)


 私は完成したウォーターボールを、少し離れた場所にある太い木の幹に向かって放った。


 バシャッ!


 水の球は幹に当たって弾け、木の皮を濡らして地面へと吸い込まれていった。木には傷一つ付いていない。


(うーん……ウォーターボールだと、ただの水だもんね。これじゃあ、魔獣を倒せないなぁ。もっと硬くないと、決定打にならないよ。……硬い水、硬い水……)


≪……セリア様。もしや、水の形態を変えようとしておられますか? 忠告しておきますが、水を固形化させる『氷魔法』は水属性の適性だけでは使用不可能な上級魔法です。未熟なイメージだけで行おうとすれば魔力の暴走を――≫


 ナビが私の意図を察して説明を始めた。

 でも、私の頭の中にはすでに、水の分子運動を極限まで止め、カチカチに凍らせて硬質な結晶へと変えるイメージが、ハイエンドグラフィック並みの鮮明さで組み上がっている。


(うん、凍らせるだけでなく回転させたほうが貫通力が上がりそうだな)


「アイス・スピア!」


 ガキィィィン!


 ナビの言葉が終わるより早く、冷気を纏った巨大な氷の槍が現れた。

 槍は猛烈な勢いで回転しながら放たれ、私のイメージ通り、地面の岩を木っ端微塵に粉砕した。


≪…………≫


 ナビからの応答が途絶えた。まさに言葉を失った、沈黙の絶句。

 数秒の後、ナビは極めて冷静な、しかしどこか現実を再認識するかのような口調で分析を再開した。


≪……ありえません。セリア様、あなたは一体……。適性の壁すらも、イメージだけで飛び越えてしまうというのですか。……いえ、記録によれば、かつて召喚された『賢者』たちも魔法の習得が異常に早かったとあります。なるほど、異世界の知識に基づいた『明確なイメージ』は、魔法を構築する上でこの上ない補助になるということでしょうか。私の計算が、根底から崩れました≫


 ナビが処理落ちしそうなほど膨大なデータ照合を行いつつも、淡々と理論的な考察を続けている。

 遠くで警戒していたガウルも、四歳の女の子がさらりと放った上級魔法に、周囲の警戒を忘れてしまうほど信じられないものを見るような目で固まっている。


(やった……氷魔法が使えた! これで夏場でもキンキンのジュースが飲めるね。ふふ、ふふふ……)


 魔法って、なんて便利で素晴らしいんだろう!

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