ペンダントとセリアの成長
その日の夕食は、食堂ではなく厨房の横にある家族用の小さなスペースでとることになった。
使い込まれた木のテーブルに、母が作った具だくさんの温かいシチューとパンが並ぶ。
家族三人だけの、穏やかで密やかな時間だ。
「パパ、ママ、ガウルお兄ちゃんからプレゼントもらったよ!」
「そうかそうか。その髪飾りかな?」
「うん!これはガウルお兄ちゃんがくれたの!」
ガウルからもらった小さな花が沢山ついた可愛い髪飾りを両親に自慢するように見せる。
「あら!とっても素敵!ガウルさんはセンスがいいわね」
母は髪飾りを見て、嬉しそうに笑った。
「パパからも、セリアに贈り物があるよ」
「え?本当?嬉しいな!」
これまで誕生日に両親からプレゼントを貰ったことがなかった。
この世界では、誕生日に毎年プレゼントを貰うのは貴族ぐらいのようだ。
(何だろう?楽しみだなー)
食事が一段落した頃、父が改まった様子で懐から小さな革の袋を取り出した。
「セリア、これはお前のおばあ様から預かっていた贈り物だよ」
差し出された袋を開けると、中から銀色の細い鎖に繋がれた、深い青色をした石のペンダントが現れた。
一見すると落ち着いた色合いの石だけれど、光の加減で奥底がゆらりと輝く。
「わあ……きれい!」
「これは、お守りにもなるから、肌身離さずもっていなさい」
「ねぇパパ、おばあさまはどこにいるの?セリア、会ってみたいな」
私の問いに、父と母は一瞬だけ視線を交わした。
父は少し寂しげに、けれど慈しむように私の頭を撫でた。
「ああ。おじい様もおばあ様も、お前に会いたがっているよ。だが、今はとても遠いところに住んでいてな。会うのはなかなか難しいんだ」
「そうなの……?いつか、会える?」
「いつかきっと会えるよ。……セリア、そのペンダントは必ず服の下に隠して身に着けておきなさい。いいな、人前では絶対に見せてはいけないぞ」
父の瞳は、これまでにないほど真剣だった。
私はその言葉の重みを感じ、首にかけると、そっとシャツの中へ仕舞い込んだ。
「うん。約束する。ずっと大切にするね」
自分の部屋に戻り、ベッドの上に座る。
窓から差し込む月明かりを頼りに、私は自分自身へ「鑑定」を向けた。
4歳になった今の私の状態を確かめるために。
【鑑定結果】
セリア
レベル:1
体力:30(防御+50)
魔力:999,999
魔法属性:火、水、風、土、聖
スキル:魔力カンスト、防御スキル、鑑定、サーチ、経験値増加、アイテムボックス、言語理解、地球調味料セット
(あ、体力が少し増えてる)
表示された体力は「30」。
以前よりも数値が少しだけ上がっていた。
4歳になって、体が少し大きくなったから増えたのかな?そう思うと、なんだか少しだけお姉さんになった気がして誇らしかった。
(んー、防御スキルは毎日使ってるけど、レベルが上がってないんだよね。+50のままだな...)
≪防御スキルは、対象となる衝撃の『ベクトル』や『質量』をスキルが相殺することで成長します。筋力が重いものを持ち上げることで鍛えられるのと同様に、防御スキルも外部からの圧力を受けることで、より強固な『守りの型』へと適応・進化していくのです。何も受けていない状態での使用は、いわば負荷のない筋トレと同じであり、スキルレベルはあがりません≫
(じゃあ、防御魔法を毎日使用するだけじゃだめだったのかぁ)
≪はい。ですが、セリア様の体力は少ないため、常に防御スキルを使用することで、不慮の事故などによる効果があるため、無駄というわけではありません。しかし、レベルを上げるということであれば、実際に攻撃を受け、そのエネルギーを中和させる必要があります。幸い、セリア様の防御スキルは、痛みを感じる前にスキルが衝撃を吸収します。レベル上げには、ガウル様に軽く叩いてもらうのが一番効率的です≫
(えぇー!ガウルお兄ちゃんに叩かれるの!?魔物と戦うよりは、安全かぁ......)
明日、ガウルに相談してみるか悩んでいたが、ふと思い出した。
(そういえば、あれはどうなったんだろう?)
私はアイテムボックスの中を確認してみることにした。
(アイテムボックスオープン!)
視界にアイテムボックスのリストが浮かび上がる。
≪リスト≫
グリーンリーフ×300
毒消し草×300
治癒の胞子茸×80
▲◆の卵×1
小金貨×5
銀貨×83
銅貨×256
リストの中に並ぶ、前に拾った「▲◆の卵」。
(▲◆の卵)
アイテムボックスから取り出した▲◆の卵がベッドの上に現れた。
以前この卵に触れた時に、魔力を奪われた感覚が鮮明に蘇った。
途中でピタッと魔力を奪われる感覚はなくなったものの、自分から手を離すことができなかったので、慎重に行動したほうがよさそうだ。
(……うーん、この卵は生きてるのかな?ナビ、卵に触ってみてもいい?)
≪警告します。以前の魔力吸収の規模から推測するに、万が一の事態が発生した場合、お一人では危険な可能性があります。意識を喪失した場合、救助が遅れる恐れがあります≫
ナビの冷静な指摘に、私は伸ばしかけた手を止めた。
確かに、パパやママには魔法のことは秘密にしている。
もし部屋で倒れてしまったら、二人をすごく驚かせて、心配させてしまうだろう。
(……そうだね。今はやめておこう。明日はガウルお兄ちゃんと街の外に行く約束だし、ガウルお兄ちゃんになら相談できるかな)
ガウルなら、もし私が倒れそうになっても受け止めてくれるはずだ。
私はアイテムボックスを閉じ、服の下にあるペンダントのひんやりとした感触を確かめた。
「明日、ガウルお兄ちゃんに話してみよう」
私は期待と少しの緊張を胸に、静かに瞳を閉じた。




