4歳の誕生日
明けましておめでとうございます。
いつも、評価・ブックマーク・リアクションをありがとうございます。
窓から差し込む柔らかな春の日差しが、私の瞼を優しく叩いた。
今日、4月8日。
私は満4歳を迎えた。
この世界の暦は、1週間が7日、1か月が30日、そして12か月で1年。
驚くほど地球と似ている。
(ついに4歳!やっと魔法の練習ができる!)
≪おはようございます、セリア様。そして、お誕生日おめでとうございます≫
頭の中に響く、聞き慣れたナビの冷静ながらも心地よい声。
「ナビ、おはよう!一番にお祝いしてくれてありがとう」
私はベッドから飛び起きると、机の上に置いてある小さな鏡を手に取った。
鏡に映るのは、自分でも「なんて可愛いの!」と叫びたくなるような美少女だ。
父譲りの輝くような金髪に、母譲りの深いブルーサファイヤの瞳。
雪のように白い肌に、頬は健康的にほんのりピンク色に染まっている。
クリクリとした大きな瞳に、少し小さめだけれど、ぷっくりとした愛らしい唇。
(……うん、可愛すぎる。パパもママも相当な美形だけど、私は二人のいいとこ取りをした最高傑作ね!)
何時間でも眺めていられそうなほど、私は自分の容姿が気に入っている。
前世では平凡な顔立ちだったから、この「美少女チート」な外見には自画自賛が止まらない。
まだ4歳だが、将来が楽しみで仕方がない。
朝の支度をして、食堂の方へ行くとすでに両親が朝食の準備をしていた。
「「セリアお誕生日おめでとう!」」
「パパ、ママ、ありがとう!」
用意してもらった朝食を楽しみながら、私はこの1年の出来事をぼんやりと思い返していた。
3歳の1年間は、沢山の人とも出会えて、自分の世界が少し広がった年だった。
まず、コツコツ使い続けた『鑑定スキル』がレベル5に上がったこと。
レベルが上がったことで、自分を鑑定し、保有スキルを正確に把握することができるようになった。
そして、借金をしてまで購入した『歴代の聖女』の本。
父やガウルに定期的に街の外に連れていってもらったおかげで、安定して薬草を採取することができ、返済は既に終わっている。
ガウルは斧のメンテナンスのため、ディートムに定期的にやってくる。
そのたびに一緒に食事をしたり、町の外へ採取に行ったり、バルカスの鍛冶場で将来の「斧形の杖」について三人で楽しく語り合ったりしている。
そういえば、私のスキルである「地球調味料セット」になぜか含まれている飲み物を二人に振る舞っていたら、二人の好物がすっかり変わってしまった。
ガウルは重度の「コーラ」中毒になり、バルカスには地球の「ビール」を教えたら、その喉越しに感動し、今ではすっかり地球のビールの虜になっている。
あの二人が美味しそうに地球の飲み物を煽る姿を見るのは、私の密かな癒やしでもある。
1年を振り返り朝食を終えると、自室に戻った私は、いよいよ本題に入ることにした。
(ねえ、ナビ。4歳になったから、約束通り魔法の練習をしたいな!)
≪はい。セリア様は生後1か月の頃から、毎日欠かさず魔力操作の練習を続けてこられました。その制御能力は、既に成人した魔導師を凌駕しています≫
(やったぁ!じゃあ早速、ファイヤーボールとか、ドカンと派手な魔法をやってみたいな!)
期待に胸を膨らませる私に、ナビの冷静な声が響く。
≪セリア様の魔力操作は完璧ですが、保有魔力量が多すぎます。もし火属性魔法の発動に失敗すれば、周囲に甚大な被害……最悪の場合、ディートムの街の一部が消滅する危険性があります。セリア様の行動範囲からも、現在は練習場所の確保が困難です≫
(ええっ……ファイヤーボールで、街が消えちゃうの!?それは、さすがに困るわ……)
魔法って、そんなに核兵器みたいな扱いなの!?と戦慄する私。
(じゃあ、練習するのに安全な魔法とかある?何がいいかな?)
≪「聖魔法」から習得しましょう。聖魔法は主に治癒や浄化を司るため、たとえ制御を誤っても物理的な破壊が起きるリスクが極めて低いです≫
(聖魔法かぁ……。やっぱり最初は派手な攻撃魔法をやってみたかったな)
がっくりと肩を落とす私に、ナビが現実的な問題を投げかける。
≪練習場所を確保できるまでは、攻撃魔法の練習は難しいでしょう。治療魔法から始めていきましょう。治癒魔法の練習には負傷した対象のほうが、効果が分かりやすいです≫
(うーん……。まさか自分で傷をつけるとか!?痛いのは絶対に嫌だよぉ)
≪ご安心ください。昨日、お使いの途中で転んで膝を擦りむいた箇所があるはずです。そこを治癒してみましょう≫
(あ、そっか。ちょうどいい傷があった!)
私は膝のワンピースを少し捲り、小さな擦り傷を見つめた。
体の中にある温かい魔力の流れを意識し、それをゆっくりと右手に集めていく。
この「魔力操作」は、赤ん坊の頃から、一日も欠かさず続けてきた。
≪詠唱は【ヒール】。コツは、傷口が塞がり、本来の綺麗な肌に戻る状態を強くイメージすることです≫
(綺麗に、痛みも消えて、元通りに……!)
「――ヒール!」
その瞬間、私の手と膝の間が、柔らかな白色の光に包まれた。
じんわりとした温かさが広がり、光がスッと消えた後、恐る恐る確認すると――。
「……すごっ!本当に治ってる!」
そこには、傷跡どころか赤みすら一切ない、本来の白い肌があった。
「ナビ、すごいよ!これって怪我なら何でも治るの?」
≪【ヒール】は軽傷、【ハイヒール】は重傷。そして【パーフェクトヒール】は、欠損部位の再生や、あらゆる病を完治させることが可能です≫
「パーフェクトヒール……。でもそれって、初代聖女様しか使えなかった伝説の魔法だよね?」
≪「聖女」とは、聖魔法の適性に加え、固有スキル【浄化】を持つ者の称号に過ぎません。セリア様のような高い魔力量と適性があれば、使用は十分に可能です≫
ナビの言葉に、私は自分の小さな手を見つめた。
大切な人たちが傷ついた時、この手で助けることができる。
それは、どんな攻撃魔法よりも価値がある力かもしれない。
けれど、これを使えるということは、私の秘密がバレるリスクでもある。
(……でも、目の前に助けを求める人がいたら、きっと私は……)
「悩んでても仕方がないよね。よし、練習できそうな場所、探しに行こう!」
私は気合を入れ直して一階へ降りた。
すると、カウンターの前で見覚えのある、大きく逞しい背中が目に入った。
「あれ、ガウルお兄ちゃん!?」
振り返ったのは、紺色の髪を揺らし、優しく微笑む戦士――ガウルだった。
「セリアさん!お誕生日おめでとうございます。久しぶりですね」
「ガウルお兄ちゃん!セリアのお誕生日覚えててくれたの?嬉しい!ありがとう!」
数か月ぶりの再会。
私は思わず彼に駆け寄った。
「今から、バルカスさんのところへ斧のメンテナンスに行くところだったんです。セリアさんも一緒に行きませんか?」
「うん、行く行く! セリアも今から行こうと思ってたの!」
私はガウルの隣を歩きながら、意気揚々とバルカスの鍛冶屋へと向かった。
春の風が心地よく、私の誕生日を祝ってくれているみたいで足取りも自然と軽くなる。
鍛冶屋に行くと、店頭にはバルカスの姿が見えず、奥の鍛冶場から力強い金属音が響いていた。
扉を開けると、熱気と共にバルカスの野太い声が飛んでくる。
「おう、ガウル、それにセリアお嬢ちゃんも一緒か!」
バルカスは槌を置くと、汗を拭いながらニカッと笑った。
「セリアお嬢ちゃん、誕生日おめでとう!今日で4歳だったな」
「ええっ!バルカスお兄ちゃん、どうして私の誕生日知ってるの?」
驚いて目を丸くする私に、バルカスは隣のガウルを親指で指し示した。
「こいつから聞いたんだよ。数か月前に来た時から、『次はセリアさんの誕生日だ』ってうるさくてな。……さぁて、せっかくの祝いだ。何か好きなもんを一つ作ってやるよ。何がいい?」
「えっ、本当!? 何でもいいの?」
「おいおい、さすがに例の『ミスリルの斧形の杖』はまだだぞ。あれは冒険者になった後の約束だからな。今の俺の腕じゃ材料も足りねぇし、もっと実用的なもんにしてくれ」
バルカスは豪快に笑った。
私は少し考えてから、以前から「あったらいいな」と思っていたものを口にする。
「それじゃあね、バルカスお兄ちゃん。セリアの小さな手でも持てる、特別な『包丁』がほしいの」
「包丁……?料理をするのか?」
「そうだよ!小さくても、すっごく切れ味がよくて、使いやすい形のがいいの」
この世界の包丁は、どれも刃が大きくて重い長方形のものばかりだ。
4歳児の私の手にはあまりに使いにくい。
私は鍛冶場の隅にあった炭を拾い、床にさらさらと理想の形を描いた。
「このね、刃先が少し丸くなってて、全体的に緩やかなカーブを描いてる形がいいの。これなら、お野菜も、お肉も、お魚も、全部これ一本で綺麗に切れるんだよ」
前世で慣れ親しんだ「三徳包丁」の形状だ。
バルカスは、床に描かれた見たこともない形の図案をじっと覗き込んだ。
「ほう……。先を尖らせすぎず、かつ引き切りも押し切りもしやすい形状か。面白いな。だがよ、セリアお嬢ちゃん。お前まだ4歳だろ?包丁なんて危ねぇもん、ご両親が許してくれるのか?」
バルカスが心配そうに眉を寄せる。
確かに、4歳児に鋭利な刃物を持たせるのは親としては怖いだろう。
でも、私は前世で小さい頃から台所に立っていたし、料理の腕には自信がある。
何より、地球調味料セットにある調味料を使い、もっと美味しいご飯を食べたいのだ。
「大丈夫!セリア、お料理大好きなの。すっごく慎重に、大事に使うから。ね?バルカスお兄ちゃんの作った包丁で、美味しいものいっぱい作りたいの。お願い!」
私は精一杯、クリクリの目で見つめ、ぷっくりした唇を少し尖らせて、可愛くバルカスにおねだりをした。
バルカスは「うぐっ」と喉を鳴らし、頭をガシガシと掻いた。
「分かった、分かったよ!そんな目で見んじゃねぇ。……よし、セリアお嬢ちゃんの手に馴染む最高のやつを打ってやる。安全性も考えて、指をかけやすいように工夫してやるから、3日ほど時間をくれ」
「やったぁ!バルカスお兄ちゃん、大好き!」
「なっ、なっ、だいす……」
バルカスが顔を赤くしている横で、私はぴょんぴょん跳ねて喜んでいると、ずっと黙ってやり取りを見ていたガウルが、真剣な顔で顎に手を当てた。
「……その、セリアさんが描いた不思議な形の包丁。私も非常に気になりますね。バルカスさん、私もその包丁が完成するまで見届けたいと思います。今回は受け取るまで、この街に滞在することにします」
「お前も物好きだなぁ。まぁ、セリアお嬢ちゃんの誕生日祝いだ、賑やかな方がいいか!」
バルカスが笑いながら、魔道具から冷えたビール……私がこっそり差し入れをしているビールを取り出した。
「よし、乾杯でもするか。セリアお嬢ちゃんの誕生日と、新しい包丁の製作決定に乾杯だ!」
「ええ、喜んで。セリアさん、最高の誕生日になりましたね」
私はアイテムボックスからコーラを2本取り出す。
「はい、ガウルお兄ちゃんはこっちだよね!」
「ありがとうございます!」
「「改めて、お誕生日おめでとう!」」
「ありがとう!」
3人でビールとコーラの缶をカチンと合わせる。
(三日後が楽しみ!最高の料理を作って、二人を驚かせちゃうんだから!)
私は二人に、どんな料理を振舞うか考えながら、幸せな時間を過ごした。




