表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【初心者安心パック】は歴代転生者アンケートから生まれました~いつの間にか聖女扱いされて困ってます~  作者: 紫陽花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/25

ガウルおにーちゃんを守れ

本日も、お楽しみ頂ければ幸いです。

 自分のステータスの確認という、あまりに衝撃的な時間を過ごした後、私はベッドに大の字になって天井を仰いだ。

 頭の中ではまだ、先ほどのステータス画面がチカチカと残像を残している。


(……魔力カンストに地球調味料セット。それに防御スキル。……うん、もう笑うしかないよね)


 自分の規格外さに乾いた笑いが出そうになるのをこらえ、私はむくりと起き上がった。

 今は異世界のチート能力に酔いしれている場合ではない。


(明日の準備をしないと!)


 私は枕元に置いていた小さな革の巾着袋を取り出し、中身をベッドの上にぶちまけた。

 チャリン、と硬質な音が響く。


「……一、二、三……。全部で銅貨二十七枚かぁ」


 これは、ここ一週間で、町中に生えていたグリーンリーフをこつこつと見つけては、薬屋へ売って貯めたものだ。

 三歳の子供が持つ金額としては、なかなかの大金と言えるだろう。


(明日はガウルお兄ちゃんに、護衛として町の外までついてきてもらうんだもん。ただでさえBランクの冒険者を格安で拘束しちゃうんだから、せめて美味しいお昼ご飯くらいは私が用意しなきゃ)


 ガウルとの夕食の約束までは、まだ二時間ほどある。

 私は気合を入れ直すと、巾着を腰に括り付け、足取りも軽く部屋を飛び出した。




 宿を出て少し歩くと、香ばしい小麦の焼ける匂いが漂ってきた。

 私がまず向かったのは、近所でも評判のパン屋だ。

 ここは宿の朝食用に両親がパンを仕入れている店でもあり、私も幼い頃からよく顔を出している。


「こんにちはー!おねーさん、いるー?」

「あら、セリアちゃんじゃない。いらっしゃい。今日はお使い?」


 パン屋の看板娘であるお姉さんが、小麦粉のついた手で腰を折って笑いかけてくれる。

 私は背伸びをして、並んでいるパンを覗き込んだ。


「ううん、今日はセリアの買い物! あのね、いつもパパたちが買ってる黒パンじゃなくて、それより柔らかいパンってないかな?」


 この世界の一般的な主食である黒パンは、保存性は高いがとにかく硬い。

 スープに浸して食べるのが前提のような食べ物だ。

 けれど、明日のピクニック気分なお昼ご飯には、もう少し「サンドイッチ」に向いたパンが欲しかった。


「柔らかいパン?それならこれかしらね。茶色のパンだけど」


 お姉さんが差し出したのは、大人の拳よりも一回り大きな、ふっくらとした形のパンだった。


「これは一つ銅貨四枚もするから、普段使いには少し高いわよ。でも、黒パンより柔らかくて、水気がなくても食べやすいから、日帰りで討伐に行く冒険者たちがよく買っていくの」


(一つ銅貨四枚……。三つで十二枚か。予算の半分近くいっちゃうけど……、背に腹は代えられない!)


「これにする!三つください!あとね、おねーさん、お願いがあるんだけど……このパンの真ん中に、こう、横に切れ込みを入れてもらえるかな?」

「切れ込み?ええ、いいわよ。何か挟んで食べるのかしら」


 お姉さんは手際よくナイフでパンに切り目を入れ、紙袋に包んでくれた。

 温かいパンの感触が、袋越しに伝わってくる。


 次に私は、隣の肉屋へと足を向けた。

 今朝食べたコカトリスの肉が理想的だったが、さすがに魔物のお肉はちょっと高い。


「おにーさん、鶏肉を三枚ください!」

「はいよっ!」

 私は予算内で買える、新鮮で弾力のある鶏肉を手に入れた。




 買い物袋を抱えて宿に戻ると、ちょうど父が厨房で夕食の下ごしらえを始めていた。


「パパ、ただいま!これね、明日のためにお肉買ってきたの。焼いてほしいな!」

「おかえり。……お、いい肉じゃないか。自分で買ったのか?」

「うん!それでね、明日持っていくから、できれば明日の朝、焼いてほしいんでしゅ」

「わかった、朝一番で焼いておくよ。その方が傷みにくいし、美味しいからな」


 パパは快く引き受けてくれた。私はさらに付け加える。


「あと、裏庭の野菜も少しもらっていい?」

「ああ、好きなだけ持っていきなさい。……セリアは本当に、ガウルさんのことが気に入ったんだな」


 パパにからかわれ、私は少し頬を赤くしながら

「だって優しいんだもん!」

 と返して厨房を後にした。


 自室に戻ると、私はドアに鍵をかけ、ベッドの上にパンを並べた。

「アイテムボックス、収納」

 誰もいない室内で、私は小声で唱えた。

 アイテムボックスの中は時間停止機能がついてるから、明日の朝まで乾燥することもなく、焼き立てのように保存できる。


 準備は完璧。私は満足げに頷くと、ガウルとの夕食のために食堂へ向かった。




 一階の食堂に降りると、夕食のピーク前ということもあり、程よく活気づいていた。

 窓際の席には、すでにあの大きな背中――ガウルが座っていた。


「ガウルおにーちゃん、お待たせ!」

「セリアさん。いえ、私も今来たところです」


 ガウルは私を見ると、ふわりと柔らかい笑みを浮かべた。

 そのギャップのある笑顔を見るたび、なんだかとても嬉しくなる。


 私たちは運ばれてきたスープとパンをつつきながら、明日の計画を話し合った。

「パパとは前、東門の方で採取したから、明日は西門の方に行きたいな。西門の方は広い平原があるって聞いたし、珍しい物が見つかるかもしれないでしゅ」

「西門ですね。あそこは見通しが良いですが、稀にウルフが出ます。ただ、人通りも多いですので安全に採取できると思いますし、もちろん何かあれば守ります」


 ガウルは頼もしく頷いた。


「あとね、おにーちゃん。明日、もし時間があれば、一緒にお昼ご飯食べない?セリアが用意するから!」

「えっ……。私が、いただいても良いのですか?」

「もちろんでしゅ!美味しいの作るから、楽しみにしててね」


 ガウルが「それは楽しみです」と本当に嬉しそうに目を細めた、その時だった。


「――おいおい、何だぁ? その締まらねぇツラはよぉ」


 背後から、酒の臭いと共に下品な声が割り込んできた。

 振り返ると、そこにはいかにも素行の悪そうな三人組の冒険者が立っていた。

 彼らはガウルを囲むように立ち、あざ笑うような視線を向ける。


「これは有名な『一匹狼の戦士』様じゃねぇか。一匹狼ってカッコつけてるけどよ、実はただのガキ好きなだけだったのか?俺たちの誘いを断り続けてる理由はこれかよ、ガハハハ!」


 ガウルの肩が、ぴくりと震えた。

 彼は反論することなく、ただ静かに視線を落とす。

 私が、冒険者に何か言おうとした時だった。


「いいんです、セリアさん……。いつものことですから」


 ガウルのその寂しげな横顔を見て、私の胸の中に、ふつふつと熱い怒りが湧き上がってきた。


(いつものこと……?こんなに優しいガウルお兄ちゃんが、ずっとこんな奴らにバカにされてきたっていうの!?)


 冒険者たちは止まらない。

「おいおい、明日はそのガキとデートか?微笑ましいねぇ。どこが一匹狼なんだよ、一匹狼なんて笑わせるなよ」



 ――ぷつん、と。私の中で何かが切れる音がした。



 私は椅子の上に立ち上がり、腰に手を当てて仁王立ちになった。


「ガウルおにーちゃんに相手にされなかったからって、見苦しいでしゅよ!」


 子供特有の高い、けれどよく通る声が食堂中に響き渡った。

 ガウルが驚いて私を見上げる。

 男たちも予想外の反撃に、一瞬言葉を失った。


「あぁ? 何だこのガキ。……子供だからって、優しくしてもらえると思うなよ?」

「そっちこそ、大人だからって、セリアが怖がると思わないことでしゅね!だいたい、セリアとガウルおにーちゃんがデートして、何が悪いでしゅか?セリアは、ちゃんと相手を選んでデートしてましゅ!」


 私の物言いに、周囲のテーブルで食事をしていた常連の冒険者たちが、ニヤニヤと笑いながら加勢し始めた。


「そうだぜ。セリアちゃんはあのAランクパーティ『ランド・エッジ』のロイドに求婚するほど、見る目があるからな!」

「この前もCランクの冒険者を『おこちゃま』扱いしてたし。兄ちゃんら、格下だと思われてるぜぇ?」


 食堂全体にワハハハ、と大きな笑い声が広がる。

 男たちの顔が屈辱で赤黒く染まっていく。


「相手にされないからって、格好悪いことしないでくだしゃい!」


 私が最後の一押しをすると、リーダー格の男が激昂し、机を叩いた。

「このクソガキがぁっ!調子に乗りやがって!」


 男が大きな手を振り上げ、私に向かって振り下ろそうとした、その瞬間。


 ――ドンッ!!


 目にも止まらぬ速さで、ガウルが動いた。

 気がつくと、ガウルの太い腕が男の胸ぐらを掴んでおり、そのまま床へと叩き伏せていた。

 ガウルの背中から、今まで見たこともないような、冷たくて鋭い殺気が放たれる。


「……セリアさんには、指一本触れさせません」


 その低い、地を這うような声に、食堂が一瞬で静まり返った。

 Bランク戦士としての実力が、一瞬で場の空気を支配したのだ。

 男たちはガウルの威圧感に腰を抜かし、這うようにして食堂から逃げ出していった。


「……セリアさん、お怪我はありませんか?」


 ガウルが慌てて私の方を向き、心配そうな顔に戻る。

 そのあまりの変わりように、私は思わず噴き出してしまった。


「大丈夫!ガウルおにーちゃん、かっこよすぎでしゅ!」


 私の言葉に、ガウルは耳まで真っ赤にして俯いた。

「……いえ。セリアさんが、あんな風に私のことを庇ってくれて……。本当に、嬉しかったんです」


 そう言って、彼は照れくさそうに、けれど今までにないほど深く、心からの笑顔を見せた。


(……わぁ、なに今の笑顔。反則だよぉ……)


 胸が少しだけ熱くなり、ドキドキするのを感じながら、私は「もう一回スープ飲も!」と照れ隠しに声を上げた。


 その夜、私たちは楽しく話し続け、翌朝の冒険へと想いを馳せた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ