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【初心者安心パック】は歴代転生者アンケートから生まれました~いつの間にか聖女扱いされて困ってます~  作者: 紫陽花


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19/25

バルカスおにーちゃんと、もう一人のおにーちゃん

今日も楽しんで頂けたら嬉しいです。

 もらった5本の串焼きを手に、少し悩んだあと、私は武器屋へ向かうことにした。


(バルカスおにーちゃんにも、この美味しい串焼きを食べさせてあげたいな!)


 私は勢いよく武器屋の戸を開けた。

「バルカスおにーちゃん、きたよー!」


 店に入ってすぐ、まるで壁のように立ちはだかる、背中に巨大な斧を背負った男性の後ろ姿が目に飛び込んできた。

 バルカスは、ちょうどその男性と話し込んでいる最中だったようだ。


 男性の背中からひょっこりとバルカスが顔を出した。

「おお、セリアお嬢ちゃんか。ちょっと待ってろ」

「はーい!」

 バルカス自身も大柄であるが、そのバルカスをすっぽり隠してしまうほど、目の前の男性はとても背が高い。


 私の声で会話が途切れたため、背を向けていた男性が振り返った。

 しかし、キョロキョロと周囲を見回して声の主を探しているようだが、私のことは見つけられないようだ。


「おにーちゃん、セリアは下でしゅよ」


 私が下から声をかけると、まさか自分の足元に子供がいたと思わなかったのだろう、その大柄な男性は「ビクッ」と肩を震わせて驚いた。

 そして、恐る恐る視線を下げた。


 私は首を思いっきり上に向けて、その大きな男性の顔を見つめた。

 目が合うと、男性はすぐに居心地悪そうに視線をそらし、店内の天井を見上げた。


 そしてバルカスの方を向くと、男性は急ぐように

「では、よろしくお願いします」

 と言い残し、まるで逃げるように店を出ようとする。


「おい、待て待て!まだ注文聞き終わってないぞ!」

 バルカスが思わず、その男性にツッコミを入れた。


 よく分からないが、なんだが私を避けているみたいだ。

 バルカスは私を見て、少し考えてから、男性に声をかける。

「ああ、このセリアお嬢ちゃんなら、たぶん大丈夫だ。泣いたりしねーよ」

 と伝えると、大きな男性は私に背を向けたまま足を止めた。

 私が「泣く?」と話が見えず、きょとんとしていると、バルカスが事情を説明してくれた。


「こいつは体が大きいし、でかい斧持ってるだろう?だから、すぐに子供が泣きだすんだよ。それがトラウマなんだ」


 私は前世の記憶があり中身は成人女性だから気にならなかったが、たしかに子どもにとっては巨漢の戦士は恐怖の対象だろう。

 だが、私と目が合ってもすぐに逸らしたり、怖がって逃げようとしたりする様子から、この男性が本当は優しい人物だとわかった。


 私は改めて男性の正面に立ち、見上げて問いかけた。

「私はセリアだよ!おにーちゃん、名前はなんていうの?」

 まだ少しびくびくしている男性は、私の真っ直ぐな瞳に観念したように小さな声で答えてくれた。

「……ガウル、と言います」


 ガウルの持っている斧が、真っ黒ですごく大きく、私はきっと目をキラキラさせていたと思う。

「ガウルおにーちゃんって戦士?私も将来、斧持ちたいの。そのかっくいー斧見せて!」


 まったく自分を怖がらない私の無邪気さに、ガウルは戸惑いながらも、そっと背負っていた大きな斧を下ろして見せてくれた。

 そして、硬い床に膝をつき、少しでも私の視線に合わせようと体をかがめた。


「セリアさんには、この斧は少し重そうですね」

 その大きな体からは想像できないほど、彼の声と話し方は優しかった。


(あっ、そういえば串焼き!)

 私は手に持っている串焼きを思い出し、右手で串焼きの入っている袋を自慢げに高く持ち上げた。


「そうだ!この串焼き、すごく美味しいんだよ!バルカスおにーちゃんとガウルおにーちゃん、みんなで一緒に食べよ!」


「お?ちょっと小腹がすいてたんだ。セリア嬢ちゃん、ありがとな」

 バルカスは店の隅に置いてあるテーブルの上を綺麗にし、リンゴジュースとお茶を2つ持ってきてくれた。

「バルカスおにーちゃん、ありがとー!」


 全員席に着くと、私は持っていた串焼きの袋を開いた。

 その瞬間、コカトリスの濃厚なスパイスの香りが店内に広がった。


「おお、こりゃ美味そうだな。セリアお嬢ちゃん、悪いな」

 バルカスは遠慮なく一本取り、豪快にかぶりついた。

「うん!うまい!」


 ガウルはまだ戸惑っていたが、バルカスに勧められて恐る恐る手を伸ばした。

「ガウルおにーちゃんも、早く食べよ!」


 私の無邪気な笑顔に絆されたのだろう。

 ガウルは串焼きを受け取ると、ゆっくりと食べ始めた。

 その大きな瞳が、肉の味に驚き、少し潤んだように見えたのは、気のせいではないだろう。

(ふふ、やっぱり美味しいよね!)

「セリアは、さっき1本食べてきたから、バルカスおにーちゃんと、ガウルおにーちゃんは2本どうじょー」

「お?いいのか?ありがとな」

「セリアさん、ありがとうございます」

 二人は、あっという間に2本食べ終わってしまい、お茶を飲んで私が食べ終わるのを待ってくれているようだ。


 改めてガウルおにーちゃんを見ると、その巨体は、まさに壁のようだった。

 だが、顔は決して怖くない。

 長く伸びた紺色の髪は、左目を覆い隠していたが、露わになっている右目は深い紺色をしていた。

 その瞳は、威圧感とは無縁の、どこか寂しげで可愛らしい丸い目をしている。

 まるで、身体は大きいけれど、心は優しい大型犬みたいだ。


 串焼きを頬張りながら、私はガウルに尋ねた。


「ガウルおにーちゃんは、どこに住んでるの?普段はこの町で活動してる?」

 ガウルは、今度はしっかり私のほうを見て、優しく答えてくれた。

「私は、辺境都市ディナで活動することが多いです。この町には、武器の購入や修理をするために来るぐらいですね」

 バルカスが、にやにやとガウルを見ながら口を挟んだ。

「こいつはずっとソロで活動していてな。それでBランクまで行ったんだ。ここらへんじゃ有名な『一匹狼の戦士』よ」


「Bランク!? すごーい!」


 冒険者のランクはEからA、さらにSとあるのを宿泊客の会話から知っていた。

 Bランクということは、冒険者になってから長いのだろうか。


「Bランクってことは、ガウルおにーちゃんは冒険者になって長いの?いくつでしゅか?」

 ガウルは少し俯き、困ったように笑った。

「私は、16歳です」


 その言葉に、私は串焼きを持つ手を止めて、驚きで目を見開いた。


(え、16歳!?日本だと、まだ高校生ぐらいってこと!?)


 その体躯や醸し出す雰囲気から、てっきり二十台後半かと思っていた。

「16歳でBランクって、結構すごいんだぜ」

 バルカスが、まるで自分の家族のように自慢する。

 バルカスに褒められて、ガウルは少し恥ずかしそうに、自分の過去を教えてくれた。


「私は孤児で、小さいときは食べられない日も多く、冒険者登録ができる十歳までは、本当に小さくてガリガリだったんです」


 その大きな体からは想像もつかない過去だ。


「十歳になり冒険者登録ができると、自分で稼ぐことが出来るようになったので、すいぶん生活が楽になりました。食事がまともにとれるようになってからは、体が急成長して、今ではどこへ行っても驚かれますよ」


 彼はなんでもないことのように淡々と話しをしていたが、とても苦労したのだろう。

 バルカスが懐かしそうな目をして、ガウルの話を聞いていた。


「初めてあったときは、まだカウルは小さくてな。それなのに自分の背丈より大きい斧をずっと見つめてたな」


「はい。初めてバルカスさんのところに武器を買いに来た時、ある程度お金は溜めていましたが、欲しい武器には足りませんでした。そしたら、バルカスさんが『代金は後からでいい』と言ってくれて、その斧を売ってくれたんです」


 ガウルはバルカスに深々と頭を下げた。


「それから、ずっとバルカスさんのところで武器を新調したり、メンテナンスをしてもらっています。普段は辺境都市ディナを中心に活動していますが、定期的にこちらに通っているんですよ」


 わざわざ自分のところまで来てくれるのが嬉しいのだろう。

 バルカスは照れくさそうに頭をポリポリとかいた。

 バルカスは見た目は怖いが、とても優しく照れ屋である。


「バルカスおにーちゃんは、やさしくてかっこいーです!」

「はい、間違いありません」


 ガウルと見つめあってニコニコしていると、横からバルカスの手が伸びてきた。

 その手には、薄い水色の素敵なハンカチが握られていた。


「まったくセリアお嬢ちゃんは、口の周りが大変なことになってるぞ」


 と優しく、ハンカチで口の周りを拭いてくれ、最後に手まで拭いてくれた。

 完全にギャップ萌え...


「バルカスおにーちゃん、ありがとー。やっぱり、セリアはバルカスおにーちゃんが大好き!」

「ぬおっ!だ、だい...す...」


 バルカスは、顔を真っ赤にしロボットのようにぎこちない動きで、お茶を片付けるために店の奥に逃げてしまった。 


 バルカスが、しばらく戻りそうにないので、私は店内の武器を鑑定することにした。

(あ、そういえばガウルおにーちゃんの武器鑑定してみよう!鑑定!)


『鑑定結果:鉄の斧、ランク:B、製作:バルカス』

 と鑑定結果が表示された瞬間、頭の中に久しぶりに聞くアナウンスが流れた。


『鑑定スキルがレベル5になりました』


(ナ、ナビ!鑑定スキルがレベル5になった!!)

≪セリア様、おめでとうございます。想定より、早くレベルアップいたしました≫


 ナビとこっそり、鑑定スキルがレベル5になったことを喜んでいるとバルカスが戻ってきた。

 私と一緒に静かにバルカスを待っていたガウルは、斧を見ながら尋ねた。


「バルカスさん、今回のメンテナンスはどれぐらいで終わりそうですか?」

「ああ、今回は刃こぼれがひどいからな。研ぎと調整で丸2日はかかるなー」


「そうですか。では、2日後に改めて来ます」

 ガウルがそう言うと、バルカスは呆れた顔をした。

「まさか、またお前は野宿でもしようと思ってるんじゃねーだろーな」

「はい、町の外で野宿をしようかと」

「なんで宿に泊まらないの?セリアの家、宿でしゅよ!」

 私が宿を経営していることを伝えると、ガウルは困ったように大きな体を縮めた。


「実は、体が大きいため、一人部屋だと窮屈で、かえって眠れない時があるんです。野宿の方が気が楽で...」


 それを聞いた私は、頭の中で算段を始めた。

(なるほど。広い部屋なら泊まってくれるかもしれない)


「ねえ、ガウルおにーちゃん!」

 私は両手を胸の前で組んで、ガウルを見上げた。


「パパにお願いして一人部屋の料金で、広い二人部屋に泊まれないか聞いてみるでしゅよ。その代わり、お願いがあるの!」


 ガウルは驚きながらも、私の真剣な眼差しに頷いた。


「もし交渉が成立したら、明日1時間だけでもいいから、町の外に一緒に行ってほしいの」

「町の外、ですか。それは少し危ないのでは?」

 ガウルは私の小さな体を心配して、眉をひそめた。


「大丈夫!セリアが行きたいのは町の外といっても、門のすぐ近くなの。薬草を採取したいんでしゅ」


 ガウルは少し考えた後、優しく微笑んだ。

「宿に泊まれなくても、護衛としてついていくのは構いません。ですが、まずはご両親が了承してくれたらの話ですよ」


 そのやり取りを聞いていたバルカスが、面白そうに声を上げた。

「セリアお嬢ちゃん、Bランクの戦士に護衛を頼むと、一日で最低でも小金貨3枚はかかるんだぜ?」


 その言葉を聞いた瞬間、私の興奮は一気にしぼむ。


「さ、30...30分でもいいでしゅ......」

 私は勢いを失い、蚊の鳴くような声で呟いた。



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