パパは魔法使い?
『歴代の聖女』を購入してから、あっという間に一週間が過ぎた。
雑貨屋のおじさんから負った小金貨1枚と銅貨3枚分の借金が、頭の隅に重くのしかかっている。
とにかく早期完済を目標に、ここ最近は朝早くから町のあちこちを回り、薬草を探していた。
公園はすでにグリーンリーフの群生地としての役目を終えており、次のグリーンリーフが育つまでは散発的にしか見つからない。
町の中では、ほとんど収穫はなかったが、私は諦めず毎日探しまわっていた。
(んー、今日は早く目が覚めちゃったな)
窓の外を見ると、まだ暗い。
≪セリア様、おはようございます。いつもより、1時間早く起きられましたね≫
(ナビ、おはよう!なんだか目が覚めちゃったよー)
私は服を着替え、顔を洗う。
キッチンに行くと、父と母は既に朝食の用意を始めていた。
「パパ、ママ、おはよー!」
「おはよう。セリア早いわね」
「おはよう、セリア。朝食食べるかい?」
「うん!パパ、食べるー!」
食堂で座って待っていると、父が出来立てのスープと、スライスしたパンを持ってきてくれた。
「いただきます」
まだ夜が明ける前なのに、食堂には冒険者や商人でにぎわっていた。
「あと1時間で出発するぞ。遅れるなよ」
「今日は、森の奥まで行ってみよう。知り合いの魔法使いが一緒に行けるって」
「まじか!ここらへんじゃ、魔法使い少ないから、ラッキーだな」
(ふむふむ。魔法使いが少ないというわけではなく、この町には魔法使いが少ないのね。そういえば、魔法みたことないなぁ)
≪いいえ、セリア様は魔法を何度か目にしています≫
突然のナビからの告白に驚く。
(え?見たことないと思うけど...しかも何度も...?)
≪セリア様のお父様が、キッチンで魔法を使い何度も火をつける姿を確認しているはずです≫
(え?え?えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!)
まったく気が付かなかった。
ナビも、「セリア様、あれが魔法でございます」とかアナウンスしてよ!
ナチュラルに火を付けられても分からないよぉぉぉ。
(そういえば、マッチとかなく火をささっとつけてたような...いや、魔石で火を付けてるとか!)
≪魔石は高価なため、大きな商会や貴族、または北の寒い地域などでは使用されることもありますが、火を付けるためだけに、魔石を使用することはほとんどありません≫
まさか、父が魔法を普段から使用していたなんて、まったく気が付かなかった。
ご飯を食べ終わり、私は食器を持ちキッチンへ行く。
「ごちそうさまでしたー」
「お?全部食べたか?偉いぞセリア」
そういうと父は食器を受け取り、洗い場に食器を置き、「ウォーター」と手から水を出した。
水を出した...
水を出したぁぁぁぁぁ!
「パ、パパ?手から水が出てましゅよ?」
「ん?ああ、父さんは水属性の魔法を使えるから、出るよ!」
「出るよ!(ニコッ)」じゃないのよー!
魔法だ!魔法!
(ナビ、魔法の練習したい!私も魔法使いたい!)
≪そうですね。セリア様は魔力量が多いので、四歳になるまで、もう少し待ちましょう≫
(うーん、四歳までダメ?)
≪さきほどのウォーターをセリア様が同じように使用したとしましょう。調整が出来なかった場合、手から大量の水が溢れ出て、セリア様は真上に打ち上げられ、そのまま落下して死の危険があります≫
(わ、分かった!もう言わないで!ナビの言う通りにするから!)
「なんだセリアは、魔法初めて見るわけじゃないだろう?」
「え?初めてでしゅよ」
「セリアの前で、父さん生活魔法使ってたけど、気が付かなかったのか」
「生活魔法という言葉も初めて聞いたでしゅよ。パパ、セリア3歳でしゅよ?」
「す、すまない。パパは火属性と水属性の魔法が使えるから、火をつけたり、水を出す、生活魔法が使えるんだよ」
「生活魔法以外も、パパは使えるでしゅか?」
「パパは、魔法の才能はあんまりないからなー。火属性なら中級魔法まで一応使える程度だな」
(ナビ、パパは中級魔法が使えるって言ってるけど、適性があれば中級魔法までは誰でも使えるの?)
≪いいえ、ほとんどの人は生活魔法しか使えないことが多く、初級魔法すら使用することができません。初級魔法を使うことが出来れば、魔法使いと名乗ることが出来ます≫
(ということは、中級魔法を使えるのは魔法使いの中でも、さらに限られてくるってことね)
「とにかくパパは、さらっと魔法使わないで、大きな声でかっこよく『ウォーター!』とか、やってほしかったでしゅね」
私が「はぁ...」とガッカリしていると、父は「かっこよく?ポーズ?」と、右手を前に突き出すポーズをとってくれた。
「そのポーズは微妙でしゅ」
父とかっこいいポーズについて話していると、日が昇りキッチンを明るく照らす。
みんなが慌ただしく宿から出ていく音がする。
私も特に用事があるというわけではなかったが、みんなと同じように外にでてみることにした。
「パパ!出かけてくるねー!いってきましゅ」
早朝だというのに、通りは賑わっていた。
通りでは屋台が出ており、良い匂いがあちらこちらからしてくる。
(あ、そういえば、前に公園で会ったヨシュアおにーちゃんが言ってたよな。屋台を手伝うと串焼きがもらえるって)
私はふと思いつき、串焼きの屋台を目指した。
ヨシュアに教えられた串焼きの屋台は、メインの通りから少し外れた路地にあったが、その場所はすぐに特定できた。
なぜなら、その場だけ周囲の空気とは違う、濃厚で食欲をそそる香辛料の香りが漂っていたからだ。
この世界では、料理の味付けは塩が主で、私には薄味に感じることが多かった。
両親の作るスープでさえ、この世界の住人には絶賛されていても、前世の記憶を持つ私からすると物足りない。
しかし、この串焼き屋から漂う香りは違った。
ピリッとしたスパイスのパンチと、肉の焼ける香ばしさが混ざり合った、この世界で初めて出会う「美味しそうな匂い」だった。
私はたまらず、焼き網の上でジュウジュウと音を立てる串をじっと見つめる。
ぷっくりとした頬を緩ませ、我慢できずに小さなよだれを垂らしてしまった。
「すごい視線を感じるんだが、嬢ちゃん。そんなに食べたいのか?」
串屋のお兄さんは、楽しそうに笑いながら私に声をかけた。
私は、こくりと力強く頷いた。
「手伝ってくれるなら一本やるよ。でも、よだれを垂らした子供にすぐに働かせるのは、俺が鬼みたいだ。まずは食べていいぞ。コカトリスの肉だ」
お兄さんの言葉に甘え、私は受け取った串焼きに夢中でかぶりついた。
その瞬間、世界が変わった。
口いっぱいに広がる、この世界で初めて経験するピリッとしたスパイスの刺激と、弾力のある肉から溢れ出す濃縮された旨味と肉汁。
噛めば噛むほど、幸福感が全身に広がっていく。
私はあまりの美味しさに、串を持ったまましばらく動けなかった。
「おい、嬢ちゃん大丈夫か?」
串屋のお兄さんに興奮冷めやらぬまま、セリアはその感動を伝えた。
「お、おにーちゃん!これ、すっごく美味しいでしゅ!セリア、こんな美味しいもの初めて食べた!」
お兄さんは照れくさそうに頭を掻き、「じゃあ、その元気で手伝いを頼むよ」と言う。
「任せておいて!」
近くを歩く冒険者に早速呼び込みを始める。
「そこのかっこいー冒険者のおにーちゃん!ここの串焼き食べたことある?セリア初めて食べたんだけど、ほっぺたが落ちて大変なことになってるのー」
私は、自分の小さな頬を両手で必死に抑えるオーバーなしぐさをする。
それを聞いていた串屋のお兄さんは、「こんな呼び込みで大丈夫か?」と心配顔そうな顔をしていた。
しかし、幼女の可愛らしさと、噛みながらの懸命なアピールは、冒険者をメロメロにし、とても効果的だということを私は知っている。
「じゃあ、一本もらうか」
串焼きを食べた冒険者は、その味に驚き、思わず「うまい!」と大きな声を出した。
「ねー!本当に美味しいでしょー!おにーちゃんに分かってもらえてセリア嬉しい!」
セリアは負けじと大きな声と全身を使ったリアクションで、冒険者と喜びを分かち合う。
このオーバーなやり取りが、近くにいた人々の注目を集めた。
いつもなら「美味しい」と顔に出すだけだった客たちが、セリアのリアクションのおかげで次々と声に出し、その声を聞いた冒険者や商人、さらには買い物途中の主婦までが屋台に並び始めた。
特に主婦たちは、「セリアちゃんがいたから来やすかったわ」と感謝してくれた。
セリアが二時間ほど手伝いをすると、今日の串はほとんど完売してしまった。
串屋のお兄さんは大喜びで、残りの五本の串焼きを袋に詰めてセリアに渡してくれた。
「ありがとうよ、嬢ちゃん。これは追加の報酬だ。お嬢ちゃんのおかげで、普段来ない客までたくさん来てくれたよ」
セリアは最高の笑顔で報酬を受け取り、心の中でガッツポーズをした。
(いっぱい貰っちゃった!誰と食べようかなぁ?)
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