歴代の聖女の傍には...
宿に戻ると、誰にも見られないよう急いで自室へ向かった。
部屋に入ると、ゆっくり深呼吸をする。
本を手に入れたという高揚感が、まだ心臓をドキドキさせる。
(ナビ、本を持ってることはパパとママには秘密にしたほうがいいよね。高価な本を買って、さらに借金まで背負ってるなんてバレたら、さすがに怒られそう。誰にも見つからないようにしないとね)
≪そうですね。ご両親には内緒にしたほうが良いと思います≫
常に本をアイテムボックスに収納し、必要な時にだけ取り出すことにしよう。
部屋の扉を閉めると、
(アイテムボックスオープン、歴代の聖女!)
アイテムボックスから『歴代の聖女』の本を取り出し、ベッドに座り込んだ。
分厚い本は、小さな私の手には少し重い。
私は本を開くと、時間を忘れて読み始めた。
本には、初代聖女から九代目聖女に至るまでの、歴史が記されているようだ。
聖女たちがどのように国や人々を救ってきたのかが、詳細に綴られている。
母が夕食に呼びに来るまで、私は夢中で本を読み続けた。
少し疲れたが、本で得た知識に心は満たされていた。
夕食を食べに食堂まで来たが、早く本の続きが読みたくて、賑わう人々とは違い、一人必死にスープとパンを食べた。
夕食を食べ終わると、まだキッチンで忙しそうにしている両親に部屋に戻ることを伝える。
「パパ、ママ、セリアもう寝るねー」
「セリア、早いけどもう寝るのかい?」
と心配そうな顔をする父に、
「うん、疲れたから早く寝るね!パパ、ママ、おやすみー」
「今日は、町の外にも行ったしな。ゆっくりおやすみ」
パパとママには、寝ると言ったけど、夜更かししてでも本を読むのを止められないだろう。
部屋に戻ると、私は再び本を取り出し、読み始めた。
文字が読めることが秘密であるため、父や母が仕事をしている間に一気に読んでしまいたい。
集中力は途切れず、私はそのまま本を読み切った。
(はぁ、読み終えた...)
本を読み終わると、私は大きく息を吐いた。
≪セリア様は、本を読むスピードが速いですね≫
(前世でも、本は好きだったし、隙間時間に読むことが多くて、いつの間にか読むのが速くなっちゃったんだよね)
久しぶりに本を読んだからだろうか、心が満たされた感じがした。
聖女について知っていたのは、本当に一部なんだなと、本を読んで分かった。
私がまず驚いたのは、聖女が使う治癒魔法の力だ。
初代聖女アリア様については、リズに聞いた通りだったが、その治癒能力は想像以上だった。
もともと聖魔法の使い手であり治癒魔法が使えていたが、創造神から聖女として力を与えてられてからは、魔力が増しエリアヒール(範囲回復)で一度に多くの怪我人を治すことができたそうだ。
また大きな傷を癒すハイヒールが上級魔法とされていたが、最上級魔法のパーフェクトヒールを使い、欠損部分も完璧に治せたという。
初代聖女以外の聖女においても、治癒魔法は得意であったようだが、エリアヒールとパーフェクトヒールを使えたのは初代聖女のアリア様だけだったようだ。
そして、私が特に興味を惹かれたのは、聖獣の存在だった。
二代目の聖女イリス様は、初代聖女ほど強力な治癒能力はなかったようだが、その傍にはいつも白く輝くフェンリルがいたという。
フェンリルは聖獣と書かれており、真珠のように白く輝く毛色に、濃いサファイヤブルーの瞳をしていたとある。
イリス様はフェンリルに乗り、各地を飛び回り土地を浄化したそうだ。
フェンリルはとても強く、風魔法で聖女を守り、勇者と聖女と聖獣であるフェンリルが力を合わせ魔王を討伐したと記されていた。
五代目聖女ルミナ様の傍にも、ユニコーンの聖獣がいたという。
ユニコーンもフェンリルと同じく、白く輝く真珠のような毛色に濃いサファイヤブルーの瞳をしていたとある。
ルミナ様もまた、ユニコーンに乗り、各地で浄化や治癒をおこなったそうだ。
聖獣であるユニコーンもまた聖女を守り、聖女と勇者と賢者と共に魔王討伐に参加したとのこと。
そして、八代目聖女アリアナ様の聖獣はドラゴンだったそうだ。
このドラゴンもまた、白く輝く真珠のような鱗に覆われており、濃いサファイヤブルーの瞳をしていた。
この時代は勇者召喚が失敗に終わり、聖女と聖獣であるドラゴン、そして優秀な冒険者たちで魔王を討伐したが、聖獣であるドラゴンは魔王との戦いで命を落としたと記されていた。
勇者召喚が失敗したことにより、多くの冒険者が犠牲となり、また聖獣も聖女を守り犠牲になったとのこと。
(聖獣...かっこよすぎーーー!フェンリルにユニコーンにドラゴン!一度は目にしてみたい!王都で生まれた十代目聖女様には聖獣いるのかな?ナビは聖獣について、何か知ってる?)
≪聖獣は、聖女と一生を共にすると言われています。聖女が死を迎えると、聖獣もまた死を迎えると言われています≫
(聖獣も一緒に亡くなってしまうのか...)
≪また聖獣は、その魂は同じであり、姿を変え、再び聖女の元へ現れると伝えられています≫
(素敵ー!でも、ちょっと気になるんだけど、白く輝く真珠のような色って...なんか、今日見た色だと思わないナビ?)
≪...はい≫
私は本に書かれていた聖獣の特徴と、今日拾ってきた伝説ランクの卵が気になって仕方なかった。
あの卵は伝説レベルであり、聖獣の卵だったとしても、おかしくない気がしたのだ。
(聖獣って、卵から産まれるのかな?)
≪いえ、そのような記録は見当たりませんでした。ただ、どのように生まれたかについても、記録が見あたりません≫
(そうだよね...しかも、聖女様は王都にいるみたいだし、まさかね...?)
あの卵が聖獣の卵だとしたら、ただ高価なだけでは済まない、非常に重要なものになる。
なんだか、嫌な予感はしたが、フェンリルやユニコーン、またドラゴンが、私の手の平より少し大きい程度の卵に入っているかなと思うと、やっぱり聖獣じゃないなと、少しがっかりした気持ちになった。
(そして、聖獣の話の他に気になるのが、もう1つ)
前九代目聖女エリシア様のときには、勇者召喚が失敗に終わり、聖獣もおらず、聖女と冒険者だけで魔王を討伐したそうだ。
この戦いは歴代で一番犠牲者が出たと書かれており、聖女エリシア様は魔王を倒したものの、心を病んで姿を消したという。
恐らく、リズが話してくれた聖女は九代目聖女エリシア様のことだよね。
とても優しく、心が美しい聖女様だったって言ってた。
一体どれほどの犠牲者が出たんだろう。
勇者や聖獣もいなくて、周りを救えずに自分のせいだと思ってしまったのかな。
それにしても、八代目聖女と九代目聖女のとき、二回連続で召喚に失敗してる。
さすがに連続三回失敗することはないよね...
(ナビ、勇者召喚って成功したり、失敗したりすると分かるもの?)
≪成功した場合は、国を挙げた盛大な儀式と祝典が催されることが多いです。しかし、失敗に終わった場合は、聖女が魔王討伐に出陣するまで一般市民には分からないことが多いようです≫
私は本をアイテムボックスに戻し、召喚の儀が成功してほしいようなほしくないような複雑な気持ちになっていた。
(召喚の儀って、結局は地球から人を攫ってくるようなものだもの。犠牲者は減るかもしれないけど、召喚された人のことを考えると手放しに喜ぶことは難しいのよね...)
転生前は、魔王なんて自分には関係ない存在だと思っていたけれど、ガイアノス大陸に住む一人となった今は、私に出来ることがあれば何でもしたいという思いが芽生えていた。
本日も、最後までお読みいただきありがとうございます。
評価、リアクションもありがとうございます。




