約束の2時間とパパの秘密
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父に抱きかかえられ、私が連れてこられたのは、町の西側に位置する大きな木製の門だった。
ここが、町の外とを分ける境界線だ。
門番の騎士が、父を見て敬礼した。
「おはようございます。珍しいですね。今日は娘さんが一緒なんですね」
父は慣れた様子で、胸元から鎖に繋がれたプレート付きのネックレスを取り出し、門番にチラリと見せると、また服の下にネックレスを戻した。
「ああ、娘と少し散歩にね。すぐ戻るよ」
父が門番に挨拶をしている間に、私は父が服の下に隠したネックレスの場所をジッと見つめた。
それは、冒険者が持っている身分証によく似ていたからだ。
「パパ、それは何でしゅか?」
父は驚いた顔をしたが、すぐに優しく笑って教えてくれた。
「これはね、冒険者ギルドの身分証だよ」
「パパ冒険者なの?すごいでしゅ!」
「あはは。昔、ちょっとだけ冒険者をしていたことがあったんだ」
父は、私がまだ文字が読めないと思っているのだろう。
しかし、私には言語理解スキルがある。
先ほど門番に身分証を見せたとき、私の視界には刻まれた文字が鮮明に映っていた。
バルト・フォン・アルベリオン ランク:A
(バルト・フォン・アルベリオン…?)
セリアの記憶にある父の名前は「バルト」だけだ。
そして、聞き慣れない「フォン・アルベリオン」という単語。
それは、貴族の称号を示すものだったはず。
さらに、ランクA...
Aランクの冒険者といえば、辺境伯領でも数人しかいない、トップレベルの冒険者だ。
(パパって、貴族だったの!? しかも、宿の主人がAランク冒険者…パパって、何者?)
急に父の秘密を知ってしまい困惑する。
父に抱っこされて移動している間に、心を落ち着かせなければと、自分に言い聞かす。
(とりあえず、今は2時間ぐらいしか採取できないし、パパのことは後で考えよう)
門を出てすぐの広大な草原までくると、父は私を下ろし、厳しく言った。
「いいかい、セリア。ここより先に広がる森には絶対に入っちゃだめだ。パパはここで見張りをするから、この草原の範囲内で薬草を探すんだよ」
「はーい!」
私は早速、父から少し離れた場所で、昨日鑑定した毒消し草をサーチした。
(サーチ、毒消し草!)
視界には、すぐさま無数の青い光が広がった。
(わー!毒消し草がいっぱいだ!町の外ってすごい!)
私は喜んで採取を始めた。毒消し草を何本か抜き取ったとき、少し離れた、低木の茂みの影に、一つだけ赤く光る場所があるのに気がついた。
(赤色!ナビがBランク以上は色がつくって言ってたよね。あとでいってみよう!)
私は毒消し草の採取を続けながら、ナビにこっそりと尋ねた。
(ねえ、ナビ。パパって貴族なの?)
ナビからの返答はなかった。
(え?返事がないってことはあたり?)
少し経ってから、ナビは困ったように返答してきた。
≪その問いに答えるのは、難しいです≫
(言えないってことは、何か秘密があるってことだよね。それにしても、なんでAランク冒険者の貴族が、こんな辺境の町で宿の経営なんてしてるんだろう)
≪お父様に直接聞かれてはいかがですか?≫
(うーん…でも、パパが私に隠していることは、きっと理由があるはずだよね。それに、聞くには私が文字を読めることが、パパにバレちゃう…)
私は深く考えるのをやめた。
(まだ聞かなくてもいいかな。だって、パパは私を大切にしてくれる。それが一番大事なことだもん)
私は毒消し草の採取を終えると、赤く光る場所へ向かった。
低木の根元に生えていたのは、一本のキノコだった。
それは、昨日冒険者から聞いた「ちょっと白っぽい茶色キノコ」と聞いていた、元気が出るキノコに特徴がよく似ている。
(鑑定!)
『鑑定結果:治癒の胞子茸、ランク:B、効果:体力回復薬の材料、摂取することで体力が少し回復する』
(冒険者に教えてもらった、元気になるキノコだ!)
私は治癒の胞子茸を丁寧に採取した。
治癒の胞子茸のほうがランクが高いため、私はその周辺を重点的にサーチし、治癒の胞子茸を中心に採取へ切り替えた。
木の根元に生えていることが多く、そのあとも近くの木の根元で、治癒の胞子茸を10本ほど見つけた。
そうして一時間ほど経った頃だろうか。
少し場所を移動してサーチしたときだった。
大きな木の根元に、小さく金色に光る場所があることに気がついた。
(金色!絶対にすごいものだ!)
私は目を輝かせながら近づいた。
木の根元には、白く輝く卵が一つ転がっていた。
その大きさはセリアの小さな手より、少し大きい程度だ。
(わぁ!綺麗な卵!)
セリアはあたりをキョロキョロ見回した。
(うーん、巣も近くになさそうだし、なんの卵だろう?鑑定!)
『鑑定結果:▲◆の卵、ランク:○■、効果:◇△◎%、▶&の◎』
(え?文字化けしてる!ナビ、これはどういうこと?)
≪セリア様の鑑定スキルのレベルが足りないため、正しく表示されないということです≫
(前にランド・エッジの装備品を鑑定したときに、リズお姉ちゃんの弓は、Sランクでも鑑定できたよ!それよりも上のランクがあるってこと?)
≪はい。Sランクより上に、伝説というランクが存在します≫
(伝説...じゃあ、この卵は伝説ランクってことになるの?売ったら、いくらだろう...)
この卵1つで本が何冊買えるか考えると、ニヤニヤしてしまう。
≪セリア様、これを売るか判断するのは、少し待たれたほうが良いと思います≫
(なんで?もしかして、魔物の卵?!)
卵は真珠のように輝き、とても綺麗だ。
魔物を見たことがないが、悪い感じはしなかったし、何より魔物がこんな綺麗な卵から出てくるだろうか。
≪申し訳ございません。この卵に関して、ナビは有力な情報を持ち合わせていません≫
鑑定でも何も情報を得られなかったが、その美しさから、私はすぐに持ち帰ることを決めた。
再度、周囲に親鳥の巣がないかきょろきょろと見渡したが、何も見当たらない。
持ち帰ろうと卵に触れた瞬間だった。
(え?!)
卵に触れた指先から、私の魔力が卵に向って流れていった。
その勢いはすごく、どんどんと魔力を奪われていく。
ナビの焦った声が聞こえる。
≪セリア様、卵から手を離してください!!≫
手を離そうとしたが、卵から離さないという強い意志を感じた。
どうしたらいいか分からずオロオロしていると、だんだんと勢いがなくなり、ピタッと魔力を奪われる感覚がなくなった。
(止まった?)
突然の出来事に呆然としていると、父の私を呼ぶ声が聞こえた。
「セリア、そろそろ宿に戻るぞー。約束の二時間だ」
慌てた私は、手元にあった治癒の胞子茸や毒消し草を、次々にアイテムボックスへ収納していく。
(収納!)
その勢いで、白く輝く卵もアイテムボックスへと吸い込まれていった。
(あれ? 生きたものはアイテムボックスに入らないって聞いてたのに、中身は空っぽなの?あるいは既に死んでしまっている?でも、さっき魔力を奪われたよね...)
少し不安になったが、父のそばへ急いだ。
「パパお待たせー!セリア疲れちゃった。だっこー!」
両手を広げて、父におねだりする。
父は困ったなという顔をしたが、すぐに嬉しそうに私を抱き上げた。
「セリアは、しっかりしてるけど、まだまだ子供だな」
「セリアは3歳、立派な子供でしゅ!!」
こうして採取時間二時間は、あっという間に過ぎ去ったのだった。




