本が欲しい!
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本日も、楽しんで頂けたら幸いです。
翌朝、私は朝食の手伝いを終えると、鞄を斜めにかけた。
両親には、薬草を採取しに公園に行くと伝え、胸を高鳴らせて宿を出た。
まず午前中は公園で、鑑定スキルのレベル上げを兼ね、新しい薬草が見つからないか探してみようと思う。
公園に着くと、予想外の顔ぶれがいた。
前に私に色々な情報を教えてくれた、あの子たちだ。
茶髪で活発そうな男の子レン(7歳)、おさげで優しそうな女の子リーネ(6歳)、そばかすのあるお転婆な女の子ココ(5歳)、そして一番おとなしい男の子ヨシュア(6歳)の四人がいた。
「あ!セリアちゃん!」
レンくんが私に気づき、元気よく手を振ってくれた。
「レンおにーちゃん、みんな、おはよー!」
私は皆に駆け寄った。
「セリアちゃんは、今日は遊びにきたの?」
リーネが、前回は手ぶらだった私が、鞄を持っているのをみて不思議そうにしている。
「綺麗なお花とか、薬草とかあったらいいなと思って公園にきたんでしゅよ。でも、リーネおねーちゃん達がいたからセリアうれしー!」
リーネ達は、えへへと嬉しそうにしている。
(ナビ、ちょうどよかった!みんなに本について聞いてみるよ!)
「みんな、前にたくさんすごいの教えてくれてありがとー!みんなに教えてもらった場所にセリア一人で探検にいったよ!」
お礼を言われたレンたちは、とても誇らしそうな顔をしていた。
「この前、武器屋に行ったときにバルカスおじちゃんが、セリアちゃんは見る目があるって褒めてたよ!」
レンはその時のことを思い出しているのだろうか、少し不思議そうな顔をしている。
「バルカスおにーちゃんに、かっくいー武器たくさん見せてもらったよ!」
「よかったね!小さい子に教えるのは年上の役目だからな!ほかにも何かあったら、教えてあげるな」
レンが胸を張り、そこを拳でドンと叩く。
今がチャンスと目を伏せて、少し悲しげな表情をみんなに見せる。
「実はセリア困ってるでしゅ...」
「セリアちゃん、どうしたの?おねえちゃんに教えて」
リーネが優しく声をかけてくれる。
「セリア、本を見てみたいけど、どこにあるかわからないんでしゅ」
その瞬間、子供たち三人は黙ってしまった。
「本?僕も見たことないな」
とレンは首を振った。
すると、ココが、そばかすの鼻をぴくぴくさせながら教えてくれた。
「ココね、昨日ママについて薬屋さんに行ったとき、棚の隅に分厚い本を見たよ!埃をかぶってたけど、文字がいっぱい書いてあった!」
「すごい!ココおねーちゃんは、よく周りをみてるんでしゅね」
ココは褒められて、モジモジしている。
さらにリーネが、おさげを揺らしながら付け加えた。
「リーネも、雑貨屋さんの奥に、ずっと売れないでほこりをかぶっている本をみたことがあるよ。多分、字がいっぱい書いてある本だよ」
「わぁ!おしえてくれて、ありがとー!」
(薬屋と雑貨屋か!どっちに行こうかな?)
どちらも昨日通った場所だ。
薬屋は今日も営業しているだろうし、雑貨屋の本なら、まだ売れていない可能性が高い。
(よし!雑貨屋さんに行ってみよう!)
私は皆にお礼を言い、午前中の鑑定を諦めて、雑貨屋へ向かうことにした。
雑貨屋は、昨日の花屋のすぐ近くにあった。
店に入ると、中には薬草や布、日用品の他に、ガラクタに近いものが所狭しと並んでいた。
私は早速、店の奥にいた店主のおじさんに話しかけた。
「おにーさん!お店に、字がいっぱい書いてある本はないでしゅか?」
おじさんは目を丸くしたが、すぐに笑って店の奥の隅を指さした。
「ああ、あれかい。奥の隅っこにずっと昔からあるが、売れないから埃をかぶっているよ。だが、嬢ちゃん、あれは高価なものだから、触ったらだめだぞ」
私は言いつけを守り、本から少し離れて鑑定スキルを発動した。
(鑑定!)
『鑑定結果:タイトル「歴代の聖女」、ランク:B、効果:ロゼッタ王国における聖女の歴史を記した読み物(童話風)、価格:金貨5枚』
(金貨5枚...!?)
私は思わず息を飲んだ。金貨1枚が10,000円と考えると、1冊5万円だ。
(高い!でも、「歴代の聖女」だって!聖女について詳しく知れるなら、その価値はあるはず!)
昨日、ナビが薬屋に売ったグリーンリーフは1割程度って言ってたから、全然足りないな。
私は、店主のおじさんに挨拶し、雑貨屋を後にした。
(ナビ、あの本を私は買おうと思う。でも金貨5枚って、銅貨500枚だよね...アイテムボックスに入ってるグリーンリーフ、全部で何本あるか確認させて!)
≪承知いたしました。アイテムボックスに入っているアイテムの一覧を確認するには、セリア様の頭の中で『リスト』と唱えてください≫
私は心の中で、ナビの言われた通りに唱えてみた。
(リスト)
すると、私の視界にふわりと淡い光の画面が展開し、文字が浮かび上がった。
≪リスト≫
グリーンリーフ×90
(わー!90本しかない!?全然足りない...)
昨日、10本売って銅貨9枚。ということは、90本全部売っても銅貨81枚。本に必要な銅貨500枚には、まったく足りていない。
(どうしよう、公園のグリーンリーフは昨日ほとんど採取したから、残りはないし。全然足りないよぉ)
≪セリア様が昨日採取できた量は、周辺地域の薬草資源の限界値に近いものです。本を購入するには、グリーンリーフよりも価値の高い薬草を手に入れる必要がありますね≫
(やっぱり、薬屋のおばあちゃんに薬草見せてもらおう。そしたらサーチで探せるようになるしね!)
せっかくだし、少しグリーンリーフも売っておこう。
(ナビ、アイテムボックスからグリーンリーフを取り出したいときは、どうしたらいいの?)
≪リストを表示させた状態で、取り出したい物を唱えれば取り出し可能です。また、取り出すときは、目視できる場所であれば指定が可能です。指定しない場合は、全て手の平の上に取り出されます。鞄の中に手を入れた状態であれば、鞄の中に直接入れることができます≫
私は鞄の中に左手を入れた。
(やってみる!リスト、グリーンリーフ10本!)
すると、鞄の中で私の手にグリーンリーフが現れた感触がした。
(すごい!人目を気にせずに取り出せたよ。よし、さっそく薬屋へ行こう!)
そうと決まれば、すぐ行動。
薬屋に向って、トコトコ走り出した。
≪...セリア様。急ぐ気持ちは分かりますが、あまりスピードに変化がないようです。危ないので歩きましょう≫
(くっ、この短く愛らしい足が今は憎い...)
「おばあちゃん、こんにちはー!」
昨日と同じ白髪の小柄な老婦人が一人、カウンターの中に立っていた。
「あら、セリアちゃん。今日も元気がいいね」
私は少し緊張しながらも、老婦人に話しかけた。
「おばあちゃん!昨日と同じ薬草を、また売りに来たでしゅ!」
昨日と同じように薬草の品質を確認した老婦人は、今日も新鮮で品質のよいグリーンリーフを昨日と同じく、銅貨9枚で買い取ってくれた。
「ありがとう、セリアちゃん。新鮮なまま持ち込んでくれるから、効果の良い傷薬が作れるよ」
(よし、ここがチャンス!)
「あのね、おばあちゃん!私、珍しい薬草を探して、いっぱい集めたいんだ。だから、お店で扱っている薬草を、ちょっとだけ見せてくれないでしゅか?」
私は誠意を込めてお願いした。
老婦人は微笑んで、私の頭を撫でてくれた。
「いいよ。セリアちゃんは偉いね。はい、これがうちで一番よく売れる薬草の一つだよ」
老婦人が見せてくれたのは、鮮やかな緑色をした、少し丸みのある葉を持つ薬草だった。
(鑑定!)
『鑑定結果:毒消し草、ランク:C、効果:解毒剤の材料』
(ランク:Cってことは、グリーンリーフよりは高く買い取ってくれそう)
毒消し草を鑑定した後、私はすぐに老婦人に感謝を伝え、薬屋を後にした。
私は、すぐに公園に戻り、毒消し草をサーチし始めた。
(サーチ!毒消し草、毒消し草……)
しかし、何度サーチしても、公園の中に毒消し草を示す光は見つからない。
夢中になっていたら、お昼ご飯の時間を少し過ぎてしまっていた。
「セリアちゃん、ごはんですよー」
私を探しにきた、母の声に呼ばれ、私は仕方なく宿に戻った。
昼食の食堂には、数組の冒険者がいた。
私はお昼ご飯を食べ終わると、意を決して冒険者に尋ねてみた。
「あのね、おにーさん!毒消し草って、どこに生えているでしゅか?」
冒険者の一人が、目を丸くして私を見た後、笑って答えてくれた。
「こんな町中で毒消し草は見つからないよ、お嬢ちゃん。毒消し草は、町の外、すぐそばによく生えているんだ」
私は聞いた瞬間、絶望した。
(町の外……!親に内緒で町の外に出たら大変なことになる……!)
絶望的な気持ちになったが、本を諦める理由にはならない。
(ナビ、ほかの方法を探さないといけないかも...)
≪セリア様...午後は違う場所に行ってみましょう≫
ナビが他の場所に行こうと提案してくれたが、まだ3歳の私にとって行ける範囲は限られている。
その中で金貨5枚の収入を得るために、どれぐらいの時間がかかるのだろう...
そう思うと、午後の外出も気が進まず、イスから立ち上がることが出来ずに食事所でポツンと一人座っていた。




