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第2話 信用不安の足音

 ガサッ、ガサッ……。


 ジャングルの奥から近づいてくる不穏な音。俺とリートは息を呑む。


「……なぁリート。これ、クマとかじゃねぇよな?」


「クマはもっと信用力があります。これは……もっと脆弱な足音です」


「信用力で動物判断すんな」


 葉をかき分けて現れたのは、ボロ布をまとった緑色の小鬼たち――ゴブリンだ。

 いや、だろう。アニメで見た。


 しかもただのゴブリンじゃない。腰にぶら下がっているのは、剣でも袋でもなく……借用証文。


「……なにあれ。証券化ゴブリン?」


「はい、借金まみれ種族です! デフォルト寸前でゾンビ企業みたいな存在ですね!」


「ゾンビ企業って言うな」


「利上げで滅びます!」


「うるせぇ、だから上がらないんだよ」


「総裁の頭と同じですね!」


「…………」


 ……分かるけど。

 いや、よく考えたらやっぱり意味分からん。

 それに英語ではよく喋るじゃん。


****


 そんなこんなしてるうちにも、ゴブリンの一人がよろよろ近づいてくる。

 目の下にはクマ(信用力高め)ができ、声は震えている。


「た、助けてくれ……我らの村は、高利貸しオーク商会に借金を……」


 ――出たよ。異世界にもいるのか、高利貸し。

 てかお前ら、なんで証文を腰飾りみたいにぶら下げてんだよ。


「返せるアテは?」


「な、ない……。利息が利息を生んで、借金が雪だるま式に……」


「それ複利地獄だな」


「はい。毎日が決算期です……」


 ゴブリンが涙を流す。

 いや、なんで泣きながら財務用語出してくんだお前。


****


「……どうしますか?」とリートが問う。


「どうするって……俺にあるのは金融知識だけだぞ?」


「十分です! あなたは金融ニートですから!」


「肩書きが嫌すぎる」


 だが放っておけば村ごと破産=死。

 人が死ぬのを放っておけるほど、ニートのメンタルは強くないのだ。

 まあ……しょうがねぇ。


「よし。借換えで金利を下げる。ついでに余剰労働力を共同化してキャッシュフロー改善だ」


「おおっ!」ゴブリンたちが目を輝かせる。


「えーと、それって……鍋で煮ればいいのか?」


「お前ら金融音痴すぎるだろ!」


****


 そのときだ。

 地響きとともに、太った豚面の巨体が現れる。

 革鎧にでかい帳簿を背負った――オークの取り立て屋だ。


「返済の期日だぞ、ゴブリンどもォ!」


「ひぃぃ……!」ゴブリンたちが震える。


 取り立て屋は契約書を突き出し、鼻息荒く笑った。


「利息は日利二割! 払えぬなら村ごと担保だ!」


「……日利二割? 年率換算で7300%?」


「ちょっと計算しないでくださいよ!」と

リートが突っ込む。


 俺はため息をついた。


「おいオーク。そんな暴利と強引な取り立て、利息制限法と貸金業法でアウトだろ」


「そんな法律、この世界にあるか!」


 ガチで逆ギレされた。

 この世界は金融ルールが未整備だ。


****


 オークは棍棒を構える。

 やべぇ、物理は無理だ。

 だが俺はひらめいた。


「……ゴブリンたちの借金を集約しろ!」


「えっ!?」リートの耳が跳ねた。


 俺はゴブリンに叫ぶ。


「お前らの借用証文をまとめろ! 一本化して債務再編だ!」


「な、なんだそれ!?」


「いいからやれ!」


 ゴブリンたちが慌てて証文を重ねる。


 するとオークの契約書が重複して矛盾を起こし――


 バリバリッッ!


 オークの帳簿が破裂した。

 ……そこだけ無駄に魔法仕様だったらしい。


 取り立て屋は「契約破綻だァァァ!」と叫んで逃げ去った。


「ハゲタカファンドの哀れな末路ですか?」


「いや、違うと思うぞ?」


 どっちかというとウシジマくんかな……ウシじゃなくてブタだけど。


****


「……やったのか?」


「はい! ゴブリンたちのデフォルトは回避されました!」


「奇跡じゃねぇか……。てか俺、ついに異世界なのに債務再編で戦ったぞ」


 ゴブリンたちは泣きながら俺の足元にひれ伏した。


「偉大なる金融王よ……!」


「やめろ、その称号はリスクだ」


 リートは尾をふわふわ揺らしながら笑った。


「でも、村の信用スコアは上がりましたよ!」


 ……なんだよ信用スコアって。

 異世界の金融、想像以上にめんどくせぇ。


「なあ、リート。この森って、こんなんばっかりか?」


「はい。みんな金融リテラシーが高いです!」


「いや、別に高くはなかったろ、ゴブリンたちも……」


「むっ! なら我らの住処にご招待しますです! そうすれば金融王もご納得です!」


「金融王いうな」


 ジャングルの奥で、また別の影がこちらを伺っていた。


 どうやら、これで終わりじゃないらしい――


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