未知との遭遇
2075年に始動した第6次太陽系進出計画は火星到達が目標だった。火星には宇宙船ユノー22番艦が軌道基地みらいの宇宙ドックから発進する事になった。火星への距離は2076年3月23日に約9800万キロまで接近する事になり、発進はその距離が最短になる日を逆算して算出された。搭載する反物質エンジンによりマッハ1650が発揮可能であり、時速2037420キロになる。これにより約48時間で地球から火星に到達する事が可能になったのである。かつて人類は神聖旭日連邦帝国成立前に有人火星探査を計画したが、それには往復1年以上という膨大な時間が必要となっていた。しかしそれが今や往復に1週間も掛からないのだ。驚異的な技術革新だった。その為に何も火星の最接近を待つ必要は無いのではないか、と連邦議会でも意見が出されたが神聖旭日連邦帝国政府は安全と確実性を優先した結果だと答えた。
そうして遂に2076年3月21日に軌道基地みらいの宇宙ドックから宇宙船ユノー22番艦が発進した。目的地は火星であり、人類史上初めて有人火星探査が行われる事になった。だがこれが人類にとって衝撃の事実を知る事になる契機となったのである。
『2076年3月23日。宇宙船ユノー22番艦は約9800万キロ離れた火星に着陸した。その様子は神聖旭日連邦帝国全土に生中継され、数多くの人々が目撃したのである。何せ火星へ初めて人類が到達したのだ。歴史的瞬間だった。歴史的偉業を成し遂げた宇宙船ユノー22番艦の乗員達であったが、祝杯をあげるどころでは無く火星探査の準備に追われていた。
それは火星降下時にセンサーが明らかな人工物を探知したからである。一種の[モノリス]のようなものだと判断された。報告を受けた神聖旭日連邦帝国政府はパニックに近い程に驚いていた。何せ[2001年宇宙の旅]のような事態が実際に発生したのだ。神聖旭日連邦帝国本土のIAXAからは、何が何でもその人工物を調査するようにと命令が出された。火星には今回までに無人探査機による調査を行い表面の概略地図まで作成する程だった。その過去の探査では存在しなかった物体が、今は確実に存在するのである。誰もが興味津々で、宇宙人は存在したのだと思ったのだ。
乗員達は探査車を宇宙船ユノーから出して探査準備を終えると、船長の命令と共にモノリスに向けて出発した。その間も生中継は続いており神聖旭日連邦帝国政府・IAXA・国民達は固唾をのんで見守っていた。数分間走行した探査車は、モノリスを目視出来る距離まで近付いた。モノリスは高さ15メートル程だったが、全体が漆黒であった。更に数分間走行しモノリスに到着した探査車から乗員達は降りると、その存在感に圧倒された。高さは15メートル程だったが明らかに異質な雰囲気を出していたのである。
宇宙船ユノーの船長は勇気を出し、そして代表してモノリスに手を触れた。するとモノリスは漆黒の表面に紫色で文字を発光させると、神聖旭日連邦帝国第1公用語の日本語で[ようこそ]と表したのである。驚き顔を見合わせる乗員達と、その様子を生中継で見ていた神聖旭日連邦帝国も驚いた。あまりの驚きに思考停止状態になっていると、モノリスは眩い光を上部から宇宙へ向けて照射した。明るさとそのハッキリと確認出来る光はある種レーザーのようにも思われた。
そしてその光が照射されて暫くすると驚く事に、次々と宇宙船が火星上空に表れたのである。その数は次々と増え、数十隻を数えるまでになった。それも生中継されていた為に、神聖旭日連邦帝国はパニックになった。もはや言い逃れが出来ないのである。明らかに宇宙人の飛来だった。神聖旭日連邦帝国宇宙軍は、創設以来初めて準戦時体制に突入した。宇宙軍連合艦隊は地球防衛を行うべく集結を始めたが、それよりも宇宙人の宇宙船の方が動きが早かった。ワープを行うと一瞬にして地球の大気圏内に飛来し、大日本帝国州上空に表れたのだ。あまりの技術力の差に神聖旭日連邦帝国は絶望の淵に叩き落されたが、地球上全ての通信帯に宇宙人の宇宙船から通信が行われた。それは要約すると[人類に対して真実の開示と技術支援]であった。侵略の意思は一切無いとも断言していた。24時間後に神聖旭日連邦帝国連邦議会で、内閣総理大臣と会談を行いたいと宇宙人は通信を締めくくった。
パニックになりかけた神聖旭日連邦帝国は侵略の意思が無いとの通信により、少しは落ち着きを取り戻した。そして時の政権は緊急連邦議会を招集し、連邦議会は全会一致で宇宙人との会談開催を行う事を決定し、大日本帝国州に浮かび続ける宇宙船に呼び掛けた。人類が反重力技術を有していないのに、目の前の宇宙船は浮かび続けている為に技術格差は絶望的だった。何せ生中継でワープまで行ったのである。戦いにすらならない筈であり、侵略の意思が無いのは感謝するしか無かった。
そして2076年3月24日。全国民が見守る中神聖旭日連邦帝国連邦議会に宇宙人が現れ、人類と宇宙人の歴史上初めての会談が行われる事になったのである。』
広瀬クレア著
『新世紀宇宙戦争』より一部抜粋