暴露の炎、議場を焦がす
帝国歴1500年3月30日。ナタアワタ共和国首都星系銀河連邦元老院議場。無数の星系代表が集う円形の議席は、静寂に包まれていた。数百の種族の視線が、壇上に立つ神聖旭日連邦帝国外務大臣エインに注がれる。銀髪が光を反射し、碧眼は氷の威厳と炎の決意を宿していた。彼女の手には、ノクティア・オルドが命懸けで確保したデータチップ、ナタアワタ共和国とガフラヤサタ連邦の裏取引の証拠、鉱物資源、軍需物資、暗号通貨のマネーロンダリングの記録が握られている。エインが出席する理由は明確だった。神聖旭日連邦帝国の外務大臣として、彼女は銀河連邦の世論を動かし、ガフラヤサタ連邦を孤立させる使命を帯びていた。前回の演説で『正義とは何か』を訴え、銀河に波紋を広げた彼女は、今回の証拠をもって、ナタアワタ共和国の『中立』という仮面を剥がす決意だった。
議場の反対側には、ナタアワタ共和国の大統領エクレールが座している。妖艶な微笑みを浮かべ、黒のドレスに身を包む彼女は、銀河連邦の中立国の代表として弁明に立つ。だが、その裏には、ガフラヤサタ連邦との密約を隠し、エルネスタ・タワーの3万人犠牲を『事故』と偽装する策略があった。彼女の出席は、神聖旭日連邦帝国の非難をかわし、ナタアワタの清廉なイメージを守るための計算された一手だった。
「諸君。」エインの声が議場を切り裂く。抑制された熱を帯び、百を超える国家代表の視線を一瞬で捉えた。「私は神聖旭日連邦帝国の外務大臣として、この場に立つ。だが今日、私は一人の種族として、銀河に問う。『正義』とは何か?」議場の空気が凍る。彼女はデータチップを掲げ、言葉を続ける。「ナタアワタ共和国は、銀河連邦の中立を装いながら、ガフラヤサタ連邦と裏取引を行ってきた。この証拠は、その仮面を剥がす。鉱物資源、軍需物資、暗号通貨のマネーロンダリング。これらが、ガフラヤサタの戦争継続を支えている。そして、エルネスタ・タワーの3万人の犠牲は、ガフラヤサタの暗殺部隊シュヴァルツ・シュトラークによる非道だ。」ざわめきが広がる。エクレール大統領は微笑みを崩さず、立ち上がる。
「エイン外務大臣、貴国の証拠は不完全です。エルネスタ・タワーの爆破は事故と結論づけられています。貴国の諜報活動こそ、銀河連邦の信頼を損なうものではありませんか?」エインは動じず、鋭く返す。「事故?ならば、なぜ貴国は公開調査を拒む?3万人の命を『事故』と片付ける理由を、この議場で聞きたい。」議場が静まり返る。ゼンメホ帝国の使節が立ち上がり、「神聖旭日連邦帝国の正義を支持する」と表明。ブレクティア同盟の代表も「真実の調査を求める」と声を上げる。ガフラヤサタ連邦の大使は怒気を孕んで反論するが、声は動揺に埋もれる。エクレールの微笑みが一瞬凍るが、すぐに取り繕う。「ナタアワタは中立を貫きます。調査は受け入れますが、貴国の干渉を許しません。」エインは目を細め、静かに言う。「ならば、真実が貴国の仮面を暴くでしょう。」
数時間後、投票が行われた。ガフラヤサタ連邦への追加制裁と、ナタアワタ共和国への調査団再派遣が賛成多数で可決。エインは壇を降り、虚空を見上げる。勝利の余韻ではなく、真の戦いへの覚悟が胸に宿っていた。
ナタアワタ共和国首都、宇宙港に停泊する特殊作戦艦アルヴィオン・ノクターン。ブリーフィングルームで、ヴァレリア上級指揮官は戦術端末を手に、ノクティア・オルドの12名を見渡す。イリナ班のデータチップは元老院に提出されたが、ヴァレリア班の証拠はシュヴァルツ・シュトラークの隊長ネーベル・ファウストに破壊された無念が瞳に残る。「総理直轄特命部隊としての任務は続く。エイン外務大臣が元老院で戦ってくれた。今度は私たちが、ナタアワタの闇を暴く。」第2班班長イリナ軍曹が頷く。「ブライス補佐官の通信ログを追跡済み。次の取引は、都市中央の軍事倉庫で行われる可能性が高い。」第3班班長セリス軍曹が続ける。「民間人保護は継続中。だが、シュヴァルツ・シュトラークの『次の爆破は10万人』という警告が気になる。奴らの罠を警戒すべきだ。」ヴァレリアはアリス総理からの白紙委任状を握り、静かに言う。「エクレール大統領とブライス補佐官の動向を追う。奴らの次の手を封じ、証拠を確保する。ヴァイスとルゥナの命、民間人の無念、全てを賭けて。」隊員たちが一斉に敬礼。「了解!」
ヴァレリアは偽装IDを手に、軍事倉庫への潜入を準備。光学迷彩を纏い、都市の暗がりに滑り込む。イリナ班は通信網をハッキングし、ブライスの暗号通信を捕捉。セリス班は民間人エリアの監視を強化し、シュヴァルツの動向を警戒。アルヴィオン・ノクターンの戦術AI「エクリプス」が、量子暗号の解析を支援する。だが、都市の監視ドローンが不自然に動き始め、シュヴァルツの影が忍び寄る。ヴァレリアは軍事倉庫の外縁に到達。偽装IDで警備を通過し、倉庫の制御室に潜入する。端末に映るのは、ガフラヤサタ連邦の国営企業との取引記録――次の物資輸送の詳細だ。だが、その瞬間、背後で気配が動く。黒衣の女、ネーベル・ファウストが無音で現れる。「また会ったわ、ヴァレリア。正義の亡魂は、しつこいわね。」ヴァレリアは輝刃型三式光子剣「カガヤキ」を抜く。「貴様の非道を、ここで止める!」ネーベルのプラズマナイフが赤い軌跡を描き、ヴァレリアに迫る。カガヤキが受け止め、火花が散る。光子力とプラズマが軋み合い、制御室の壁に火花が飛び散る。ヴァレリアは端末にデータを転送しながら戦うが、ネーベルが暗黒物質シールドを展開、攻撃を弾く。「貴女の正義は、所詮幻想よ!」ネーベルの冷笑が響く。ヴァレリアはカガヤキを振り上げ、ネーベルの仮面に亀裂を走らせる。だが、ネーベルは煙幕弾を投擲し、撤退。ヴァレリアはデータを確保するが、シュヴァルツのドローンが制御室に突入、EMP爆弾で端末を破壊。データチップの一部が焼け焦げる。「くそっ……!」ヴァレリアは撤退を決断、アルヴィオン・ノクターンに帰還する。ブリーフィングルームで、隊員たちに報告。「証拠の一部を確保したが、完全ではない。だが、奴らの次の取引の日時が分かった。次こそ、決める。」イリナが頷く。「ヴァレリア、私たちは負けない。仲間がいるから。」セリスが続ける。「民間人の無念を、私たちが晴らす。」ヴァレリアの瞳に、決意の炎が宿る。「次の戦いで、ナタアワタの仮面を剥がす。必ず。」
銀河連邦ナタアワタ共和国控室。エクレール大統領は元老院の可決に微笑みを崩さず、ブライス補佐官に命じた。「調査団が来る前に、全ての証拠を消しなさい。シュヴァルツに次の爆破を準備させなさい。」ブライスが戸惑う。「大統領、10万人の犠牲は……?」エクレールの目が光る。「必要よ。銀河の秩序は、犠牲の上に成り立つ。」彼女の妖艶な笑みが、闇に溶けた。
銀河連邦元老院議場。エインは議場を後にし、星空を見上げる。ナタアワタの闇は深いが、ノクティア・オルドの刃は傷を刻んだ。シュヴァルツの冷笑、エクレールの策略、ガフラヤサタ連邦の野望は、正義を試す試練だ。だが、エインの決意、ヴァレリアの覚悟は、天の川銀河の希望として輝く。エルネスタ・タワーの無念は、覚悟を固める事になった。天の川銀河は、戦乱の渦へと突き進む。その中心で、神聖旭日連邦帝国の剣は、闇を裂く光となるだろう。