人類の飛躍
第3次太陽系進出計画は軌道基地みらいの宇宙ドックで新型宇宙船を建造するものだった。将来的な大型艦建造を見越して1つ辺り全長500メートル最大幅100メートルで建造された軌道基地基地みらいの宇宙ドックで同時に100隻の建造を開始した。新型宇宙船は往還宇宙船ユピテルの発展改良型として設計され、月面基地との往復を短縮し大容量の運搬を可能にするのを目的にされた。それにより全長130メートルを誇り、この時点に於ける人類史上最大規模の宇宙船であった。第3次太陽系進出計画で一気に100隻も同時進行で建造するのは、それだけ継続してピストン輸送を行い月面基地拡大が捗るとの判断からだった。更に神聖旭日連邦帝国としては月面基地拡大後に、建造した大型宇宙船はそのまま太陽系進出の探査機に流用するという目的もあった。
宇宙ドックは無重力に加えて高度に機械化された設備を備えており、新型宇宙船ユノーの建造は驚異的な早さで行われた。その為に第3次太陽系進出計画は予定より2年繰り上げられ、2061年に完了したのである。神聖旭日連邦帝国としては宇宙ドックの作業に自信をもっていたが、突発的な不具合等に対応する為に余裕を持った計画期間として、3年間の計画としたが杞憂に終わった形だった。だが良い方に事態は進展しており神聖旭日連邦帝国は連邦議会にて第4次太陽系進出計画を提出し、それも圧倒的賛成で可決され計画は始動する事になった。第4次太陽系進出計画は太陽系進出の中継基地としての役割りを与える為に、月面基地の規模を拡大するというものだった。
月面基地は現状では大日本帝国州とヨーロッパ合衆国州が神聖旭日連邦帝国参加前に建設した物があり、月の北半球南半球にそれぞれ位置していた。当然それら月面基地も今や神聖旭日連邦帝国の物になっており、その両方を拡大する事になった。しかも第4次太陽系進出計画では月面基地拡大に加えて、月面の全般的な開発も行う事が決定されたのである。それは本格的に地球以外での人類の『居住』を行う第一歩であり、現状では月面基地には『滞在』しか行っていない為に人類が太陽系全域に進出すると決めた以上は避けては通れない第一歩だった。
その為に効率的な輸送を行う為に月面にも宇宙基地が構築される事になり、宇宙基地と月面基地間を結ぶリニアモーターカー路線の建設も決定した。かつては大日本帝国とヨーロッパ合衆国の対立により北半球南半球に月面基地が離れて建設されており、それらは対立関係から直結するという考えは全く出なかった。しかし地球上が神聖旭日連邦帝国として統一された以上は、現状の月面基地は『分断』されているとの判断だった為に史上初めて直結される事になったのである。
こうして第4次太陽系進出計画は開始され月面基地拡大・宇宙基地建設・リニアモーターカー建設が同時進行とされた。更に人類の居住を行う為に神聖旭日連邦帝国は大々的に移住希望者を募集した。気概のある人々が応募したがその数は数万人でしか無かった。殆どが宇宙空間や月面での放射線被曝を恐れて応募しなかったのである。何せ地球上より数百倍も放射線量は多く、放射線被曝を恐れるのは致し方無かった。神聖旭日連邦帝国としても軌道基地や月面基地、月面の居住地での放射線被曝対策は行っていると説明したが、大方の意見は様子見であった。
その為に神聖旭日連邦帝国は月面に移住する数万人に大規模な支援策を発表し、居住しても人体に何ら影響は無いと証明する為のある種実験体になって欲しいとお願いしたのである。『実験体』という言葉に正直嫌な反応をした移住者もいたが、大規模な支援策と人類が太陽系進出を行う礎になるとの判断から、大多数が実験体としての扱いを受け入れた。こうして月面での各種建設が進行すると、月面移住者は続々と送り込まれ人類で初めて地球外での居住を開始したのであった。
そして第4次太陽系進出計画が完了した2065年。神聖旭日連邦帝国は満を持して第5次太陽系進出計画を連邦議会で可決した。その内容は2053年1月1日に神聖旭日連邦帝国が成立して以来、保留され続けていた『宇宙軍』の正式な創設だった。『神聖旭日連邦帝国成立宣言』第4項で神聖旭日連邦帝国宇宙軍創設を、第6項で神聖旭日連邦帝国宇宙軍は宇宙軍連合艦隊と宇宙軍遠征隊から構成されるとしたが、2065年になるまで神聖旭日連邦帝国宇宙軍は名ばかりだった。それは最優先すべきは太陽系進出の為の宇宙基地・軌道基地・宇宙ドック・月面基地の拡大新設だったからである。何せそれを行わないと宇宙軍を創設したとして、規模を維持出来ないとの判断だった。
だがようやく時期は整い名ばかりの宇宙軍を名実ともに編成する事が可能になったとして、神聖旭日連邦帝国は第5次太陽系進出計画を始動させた。これにより未だに維持されていた地球上での軍事力は全て退役させ、記念艦や博物館で展示する事になった。そしてまずは宇宙軍連合艦隊として宇宙戦闘艦天照を発展させた、『宇宙フリゲート八岐之大蛇級』を設計建造する事を決定した。宇宙軍に統合させたかつての世界各国の海軍と空軍の軍人が、全て宇宙軍連合艦隊に配備された。宇宙フリゲート八岐之大蛇級は全長130メートルの艦体に荷電粒子砲の改良型である『高出力ビーム砲』を連装砲塔で艦体上下に合計4基配備し、VLSを艦体上下に合計200セル配備、20ミリレーザーガトリングガンを艦体上下に合計20基配備していた。VLSには迎撃ミサイルと『反物質ミサイル』が装填されていた。反物質ミサイルは対艦ミサイルと巡航ミサイルを兼ねた役割りが与えられていた。機関にはレーザー核融合炉に代わる新型の『反物質エンジン』を搭載し、更にその反物質エンジンによる大電力で偏向シールドの改良型である『量子バリアー』を装備している。その反物質エンジンにより推進装置にはパルススラスターに代わる新型の『タキオンスラスター』を搭載した。これにより宇宙フリゲート八岐之大蛇級はマッハ1650を発揮する事が可能になった。神聖旭日連邦帝国は将来的な恒星間航行には、『光速』を技術的に発揮する事を目標にしていたが光速はマッハにすると88万にもなる。88万に比して未だに1650であり長い道のりになるが、神聖旭日連邦帝国は次はマッハ1万を目標にしていた。宇宙軍連合艦隊は神聖旭日連邦帝国宇宙軍の主力を担う事になり、神聖旭日連邦帝国本土防衛として地球に配備される第1・2艦隊、月面基地防衛として月に配備される第3・4艦隊、早期警戒として地球と月周辺に展開する第5・6艦隊、が創設時に編成された。1個艦隊に宇宙フリゲート八岐之大蛇級は30隻ずつ配備され、将来的には技術力の発展により順次駆逐艦・巡洋艦等艦級を増やす事も決定していた。
そして宇宙軍の陸上兵力を担う宇宙軍遠征隊はかつての世界各国の陸軍と海兵隊の軍人が配備され、構成される事になった。宇宙で戦うとなっても戦争の基本は陸上兵力による侵攻制圧により勝敗が決するのは不変であり、その為に宇宙軍遠征隊は宇宙軍連合艦隊との共同運用が前提となった。それにより宇宙フリゲート八岐之大蛇級には揚陸艇が搭載され、惑星降下による強襲が可能になっていた。更に地球と月には防衛用として宇宙軍遠征隊が配備される事になり、そこで陸上兵器の開発も新規で行われた。戦車や装甲車を筆頭に宇宙軍遠征隊の主力兵器として、かつて大日本帝国が開発した48式二足歩行戦車鋼龍の発展化良型を開発する事になった。それは有人操縦型の機動兵器として設計し、惑星や宇宙空間の両方で運用が可能とするものだった。
10年に及ぶ最長の計画だったが第5次太陽系進出計画は完了し、神聖旭日連邦帝国はこの時点で人類史上最強の軍事力を保有するに至ったのである。往還宇宙船ユピテルと宇宙船ユノーにも宇宙フリゲート八岐之大蛇級に搭載した反物質エンジンが装備され、宇宙探査は飛躍的に向上する事になった。そして2075年神聖旭日連邦帝国は第6次太陽系進出計画を連邦議会で可決し、ようやく文字通り太陽系への進出を始めたのである。最初の目標は火星到達だった。