罠の祝祭
帝国歴1500年3月29日。ナタアワタ共和国首都高層都市の中心街。
広場では共和国主催の「平和記念フェスティバル」が開催され、多くの住民が音楽と光の祭典に酔いしれていた。無機質なビル群の狭間に設けられた特設ステージからは、電子音楽が響き渡り、空中には光子広告と監視ドローンが混在していた。
第3班のセリス軍曹は、仲間と共に観客に紛れつつ周囲の警戒を続けていた。
「楽しそうね、でも……なんか違和感がある。」
その声に、他の隊員が同意を示す。その頃、地下鉄網を調査していた第2班のイリナ軍曹率いるメンバーは、地下施設の非常信号ログに『不可解な遅延パターン』を発見した。明らかに不自然だった。
「非常封鎖プロトコルが……段階的に準備されてる?」
イリナ軍曹の目が鋭く光る。瞬間、広場の地下鉄通路が炸裂した。重低音が地面を揺るがし、爆風が群衆を吹き飛ばす。地下鉄3両が連鎖爆発を起こし、構造壁が崩落。非常用シャッターが誤作動し、出口が閉じられる。
「爆発!?これは……事故じゃない!」
セリス軍曹が叫ぶ。直後、アルヴィオン・ノクターンに待機していたヴァレリア上級指揮官に、各班から同時通報が入る。
「これはテロじゃないわ。民間人を巻き込んだ罠……」
即座にヴァレリアは決断した。
「全員、制限解除。正体が露見してもいい。あの市民たちを助けるわよ!」
イリナ軍曹は現地の地下構造を即時解析し、即席の突入口を建設部隊に伝える。セリス軍曹は現地で混乱する人々を誘導、閉鎖区域内に残された子どもたちを抱えて脱出を試みる。
「この場所は崩れる!急いで!」
煙と炎が立ち込める地下鉄網。だが、ノクティア・オルドの迅速な対応により、死者ゼロのまま救助は完了した。避難完了の報告を受けたヴァレリアは、安堵の息を吐く。しかし、同時刻。 都市の外れの高層ビル屋上。黒衣の女たちが、沈黙のまま救助劇を観察していた。隊長のネーベル・ファウストは、仮面越しに笑みを浮かべる。
「正義という足枷……立派だこと。 次は『迷い』を与えるわ。あの誇りを、ぐずぐずに溶かしてやる。」
そのまま無言のまま、影のようにビルの縁から消えていく。
誰にも気づかれることなく、彼女たちの『罠』は次の段階へと進行していた。
瓦礫の前で、ヴァレリアは救出された市民たちを見つめる。
「……間に合ってよかったわ。でも次は……」
その目に宿るのは、救えた喜びではなく、確信だった。この戦いは、ただの諜報戦ではない。 『悪』が『正義』を試す、精神と誇りの戦場なのだ。そしてその戦場に、彼女たちは足を踏み入れたばかりだった。