罠に潜む都市
帝国歴1500年3月22日。ナタアワタ共和国首都。無機質な高層ビルが並び、空を覆うようにホバーカーとドローンが行き交うこの都市に、ノクティア・オルドは密かに降り立った。人混みに紛れ、三つの班はそれぞれの任務を開始する。
第2班、イリナ軍曹率いる情報収集班は、都市機関やエネルギー関連施設へ潜入。彼女は冷静な目で監視装置の配置を分析し、仲間と共に記録装置を設置していった。だが、彼女の目には、いくつかの施設で『』過剰とも思える警備』が施されていることが気になっていた。
一方、第3班のセリス軍曹率いるソーシャル諜報班は、住民たちに自然な形で接触し、日常会話の中から共和国政府への不満や噂話を引き出していた。カフェの雑談、駅前での立ち話、娯楽施設での酔客の愚痴……そこには微かながらも、抑圧と監視への嫌悪が滲んでいた。
ヴァレリア上級指揮官は、別行動で政府機関の出入りパスを得るため、偽装身分を用いて高官補佐の秘書としての面接を受けていた。その冷静な口調と気品ある立ち居振る舞いは、共和国側の審査官すらも納得させた。
しかし。
任務が順調に進んでいるように見える中、市街の監視ドローンの動きに異変があった。イリナは不審に思い、数時間ごとの巡回ログを分析。そこには一つの事実が浮かび上がる。
「……私たちの行動範囲に合わせて、巡回ルートが微調整されている?」
セリスもまた、住民の間に流れる噂から奇妙な話を耳にする。黒服の武装集団を見た。目撃者は皆、数日後に姿を消した。その夜、特殊作戦艦アルヴィオン・ノクターンの作戦ルームで各班が情報を共有する。
「これを見てください」
イリナが再生した映像には、政府施設の地下搬入口に出入りする黒服の武装集団の姿が映っていた。彼らは一糸乱れぬ動きで、カメラの前に姿を現した数秒後、即座にレンズを破壊した。
「……完全に訓練された特殊部隊。それも……必要最小限の行動しか取らない」
セリスが低く呟く。
「間違いないわ。これはシュヴァルツ・シュトラークの仕業。ヴァイスとルゥナを殺した影が、この都市にも潜んでいる」
ヴァレリア上級指揮官は、沈黙のままスクリーンを見つめていた。
「都市全体が罠……つまり私たちは、最初から監視されていたのかもしれないわね」
彼女は静かに立ち上がり、全員の視線を集める。
「いい? 次の作戦は待ちの姿勢じゃない。逆に、こちらから敵の正体を探り出して、先に叩くわ」
その瞳には、決意とともに、同期たちの仇を討つ強い意志が宿っていた。ナタアワタ共和国首都に広がる闇の中、ノクティア・オルドの新たな作戦が、静かに始まろうとしていた。